「っゆ、幸村部長ぉ〜!」
「はいはい泣かない泣かない」
「だ、だって…丸井先輩酷すぎッスよぉ…」
「照れてるだけだよ、本当は丸井だって嬉しいと思ってるよ?」
やっぱりこういう時に幸村部長って優しいなと思う。
……にしても、
「丸井先輩が嬉しいと思ってるかなんて…分かんないじゃないっスか…」
「そう?分かりやすいと思うけどなぁ…あ、なんなら試してみればいいんじゃない?」
「試す?」
「そ。赤也がいつもやってることとか急にやめたら丸井も少しは素直に…」
「あ、ありがとうございますっ!!じゃ俺先に行きますね!!」
そうだその手があった!
今に見てろよ先輩
仕返ししてやる…!
幸村部長にお礼を言ってから急いで校舎に入っていく。
もしかしたらまだ先輩が
いるかもしれないし!
「…素直になるかもってだけで、丸井に効くかは分からないんだけど…まぁいっか」
靴を履き替え階段を登って行く。
…先輩はっけーん
「丸っ…!」
だ、だめだだめだ!!
何思いっきり呼ぼうとしてんだ俺
これじゃさっきの二の舞じゃん!
「…ん?あ、赤也じゃん。やっと来たのかよ遅ェなー」
「あ、あぁ、幸村部長と話してたんで…それじゃ」
「へ?」
「え?な、何スか?」
「!い、いや別にっ!!じゃあな」
そのまま教室に入っていった先輩を見送ってからふと考える。
「あれ、俺…呼ぶの止めたのになんで気付いたの…?」
とりあえず急だったけど、今日は丸井先輩に過度のスキンシップとか親しく話すことをやめることに決めた。
さっそくさっきは必要最低限のことだけ話して、超嫌だけど早々と立ち去ろうとした
…んだけど
先輩の様子がなんかおかしかった
「…考えても仕方ないか。よし、あとは部活のとき!」
先輩に素直になってもらうために今日1日やってやるっ!!
***
─ガラッ
「おー、おそようブンちゃん」
「お は よ う、仁王」
教室に入った瞬間に俺を見てニヤニヤしながら挨拶をしてきたこいつに若干苛ついた。
「なんじゃなんじゃ?丸井姫は朝からご機嫌斜めじゃのー」
「うっせ何だよさっきから」
「さっき、教室入る前。赤也といたんに、なしてそんな不機嫌なん?」
「!…み、見てたのかよ…」
だから仁王は嫌なんだ。
何にも興味がないようで、知られたくないことにはいち早く気付く
「そりゃモチロン。で?赤也と何かあったんか?」
「はぁ?…別に何もねーよ」
「ほんに?」
「……急に赤也が冷たくなった」
事実。これは事実だ。
朝会ったときは有無を言わさず抱き付いてきたのに。
それ以外にも
常に自分に正直で本能に従って動いてるような奴が、さっき俺に会ったときにすぐ会話をやめようとするわけない。
「っ…くく…」
あれこれ考えていたら聞こえてきた、押し殺しきれてない笑い声。