相互記念文/金色メロン | ナノ

やわらかい春の日差し。
過ごしやすい季節になると、部活の練習もいつもよりずっと身に付く。
今日は目立った悪行もなくなごやかなムードで部活は進められた。解散の瞬間まで幸村は笑みを絶やさず、真田でさえも怒声を発しなかったほどである。


そんな穏やかな空気を過ごしたメンバーであったが。

この数分後にはこの部一番の問題児たちがその空気を見事に壊すのだった。



愛が負けず嫌いなもんだから



部活が終わり、レギュラーたちは専用の部室へと入っていく。
早々と着替えを始めるのは二年生で唯一のレギュラーである切原赤也。部活のあとに恋人と遊ぶ約束をしているためである。


一方、その恋人である丸井ブン太は、急ぐ様子もなく呑気に菓子などを貰っている。
ブン太に餌付けをしているのは部長の幸村だ。


「ちょっと先輩!早く着替えて下さいよ!」
「はいはい、わーってるって」
「わかってない!俺もう着替え終わるんスけど!」


マイペースなブン太の態度には何度も振り回されてきた赤也である。
今回も同じようにペースを合わせてやることもできたのだが、そういうわけにはいかなかった。なんせ納得いかないことが多すぎる。

どうして丸井先輩は部長の膝の上に乗ってるんだ?
あの人の恋人は俺じゃなかったっけ。


「ブン太、次はチョコ食べよっか」
「食べるー!あー」
「はい、あーん」
「ん、めぇ!幸村くんもっと!」


赤也の中でハッキリと糸の切れる音がした。

今回は仁王先輩が加勢してくれそうなくらい、先輩が120%悪い。


「……先輩のデブ」
「あ?赤也お前今なんつった?」
「別に、なんにも!」
「しらばっくれてんな!聞こえてんだぞ!」


ブン太が幸村から離れるのを見て、こっそりと胸を撫で下ろす。
当のブン太はというとそんなことは露知らず。荒々しい足音で赤也の前まで来ると、赤也を睨み上げた。


「テメェ、先輩に向かっていい度胸じゃねーか」
「…悪いのは先輩っスよ」
「どこが」
「全部!まず遊ぶ約束してんのに全然着替えようとしないし」
「ちょっとくらい良いじゃん。それとも今日はもうやめる?」


駄目だ、話にならない。
今日のブン太の自己中っぷりは稀に見る女王様だ。
ここで呆れて物も言えなくなるほど赤也は冷静な人間ではなかった。言い返してやろうと眉をひそめて口を開こうとすると、


「まーまー、その辺で」


仁王の仲裁が入った。
と言ってもほとんど赤也の味方のようで、赤也の肩に手を置いている。


「赤也、今日は俺と遊ぼ」
「はあ!?」
「なんじゃあ丸井、驚いて。今日は中止にしたんじゃろ」
「そ、そうだけど…赤也がなんて言うか…」
「赤也、どーする?」


今日の先輩は虫の居どころが悪いみたいだし、仁王先輩と遊んだほうがいいか。新しいゲームを買ったとも聞いている。
そもそも、やめようと言い出したのはブン太の方だ。

赤也の判断はまるで単純で、ブン太の複雑な思考回路など微塵も汲み取れてはいなかった。
ブン太にはブン太なりの想いがあるのだが、あまりにも素っ気ない態度に赤也は少しも気付けないのだ。


「俺、今日は仁王先輩と遊ぶっス。新しいゲームしたいし!」
「お、そうかそうか。赤也はええ子じゃ」


赤也の返事になんら悪意はなかった。
ただ純粋にゲームがしたい、恋人といえど怒ってる先輩よりは怒ってない先輩のほうがいい。それだけだ。
しかしブン太にとって、自分より他人を優先した赤也のその選択は、どれほど衝撃的だったことか。

衝撃は怒りに、怒りは悲しみに変わり、気持ちのやり場に困ったブン太は赤也を強く殴った。


「い、ってえ!?」
「気付け!アホ!!」
「何がっスか!」
「仁王はお前を狙ってんだよ!」
「意味わかんねーっス!」


殴られ罵られ、頭に走る痛みも協力して赤也は涙目だった。


「可愛いと思ってんだろ赤也のこと!」
「ああ、可愛いと思うナリ」
「えー…嬉しくないっスよ。かっこいいのが良い」
「安心せぇ、お前さんは可愛いしかっこええよ。俺は好きじゃ」
「可愛いは余計っスよ!でも嬉しいっス!」


二人の雰囲気にブン太は怒りと焦燥を感じた。
今度は赤也の足を思いきり踏んで、自分へと視線を移させる。


「いいっ!?さっきから何なんスか!」
「お前がバカだからだろぃ!」
「バカじゃないっス!」
「仁王なんかといい感じになりやがって…このワカメ!」


散々なことを言われ、ついに赤也も反撃の狼煙を上げた。
元はと言えば幸村部長とイチャこいてた先輩が悪いのに!なんで俺ばっかり!

理不尽なブン太の態度に、胸に渦巻いたものが爆発する。


「先輩が部長とラブラブするから悪いんじゃん!」
「してねーよ!」
「してた!」
「お菓子もらってただけだろぃ!」
「そうは見えなかったっス!めちゃくちゃ可愛い顔して!」


思い出す、べろべろに甘えたブン太の顔。
自分にはあんな顔してくれない。赤也は鼻の奥がツンとするのを感じた。


「あんな可愛い顔されたら誰だって好きになるじゃん!部長が相手とか…俺勝ち目ないし!」
「赤也……」


ここで鎮火して、より絆を深めて一緒に帰っていくのが普通のカップル。
変にまけず負けず嫌いを刺激されて更なる喧嘩へと発展していくのが、この問題児たちである。


「可愛いのはお前だろーが!!ああ!?」
「はぁ!?アンタにだけは言われたくないっスね!」
「じゃあさっき仁王に告白されてたのは誰ですかー!」
「俺じゃないですー!ジャッカルですー!!」


無茶苦茶である。
「俺かよ!?」というジャッカルの慌てた声が聞こえた。


「俺はね、アンタの顔が世界で一番可愛いと思ってんスよ!」
「どーでもいいね!そんなこと!俺にとって可愛いのはお前だから!」
「じゃあ見ろよこれ!先輩の寝顔、ちょおおお可愛い!!」
「はいはい、写メな時点でお前の負け!」


と、ロッカーから十数枚の写真を取り出すブン太。
言わずもがな、そこには赤也が単体で写っている。
ある写真は昼休みにクラスメイトたちとサッカーをしており、またある写真は柳の豆知識を聞いて瞳を輝かせている。


「すごくね!?これ全部赤也!」
「お、俺だって先輩フォルダがあるんスよ!最近300枚越えた!」
「生写真に敵うものはねーよ、しかも俺だって赤也フォルダあるしな」


ゆっくりと、しかし着実に話の論点はずれている。
今や二人のそれはノロケだった。
しかもお互いにお互いのことをノロケ合っているのだから、実に滑稽である。本人たちはまだ喧嘩のつもりでいるのが見ている者たちの笑いを誘った。


「はい、おしまい。気は済んだか?」
「まだだ!このムービーの赤也が…」
「ブンちゃん、今日ほんまに遊ばんでええの?」


その言葉ではたと思い出す。


「赤也も、本当に俺と遊んでいいんか?」
「………」


本当の気持ちはどうだったか。


「聞いてると、お互いのこと好きでたまらんようじゃけど、な」


赤也が頬を掻きながらブン太を見た。
眉は情けなく下がり、叱られた犬のような顔をしている。


「…ごめんなさい、酷いこと言って。俺やっぱり先輩と一緒にいたいです」
「うん、俺も…ごめんな?」
「へへっ、じゃあ仲直り!早く遊びに行きましょ!」
「おう!」


切り替えの早さも天下一品。
急いで着替えを始めるブン太と、それを横で待つ赤也を見て仁王は小さく溜め息をこぼした。
眉を下げた笑顔と共に、ついいつもの癖で眼鏡を押し上げる動作をする。


「…まったく、困った方達です」


そういえば、仁王は春の陽気に誘われたのか、部活が終わると校内で一番大きな桜の木の下まで日向ぼっこをしに行ったはずである。


そんな猫のような仁王の行動を知るのは、柳生しかいない。


---


潤子さんほんとにほんとにありがとうございましたっ!!潤子さんの赤丸がいつまでもだいすきですっ!
感謝感謝です。
そしてお疲れ様でした!


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -