(赤丸VD)
「え…?」
廊下で残念がる女子。あまりにも多くて正直邪魔だったけど、今日は仕方ないかと思い何も言わないでいたが、聞き慣れた単語が飛び交っていることに気付いた。
「丸井先輩いなかったぁ…」
「聞いた?今日休みだって」
「うそー!せっかく今日のために頑張ったのに…」
丸井先輩、丸井先輩、丸井先輩。どこに行っても丸井先輩。こんなにうわさになる"丸井先輩"なんて、一人しか俺は知らない。
「なぁちょっと!」
「え、切原くん?」
「丸井先輩が休みって」
「あ、うんそうなんだってー…どうしたのかなぁ…」
俺の部活の先輩で、女子から見たらアイドルみたいな存在で、お菓子が大好きで、俺の恋人でもある、丸井先輩。やっぱりそうだった。理由はわからないけど、先輩は今日、休み。
この女子達じゃないけど、泣きたくなった。だって今日はただの平日なんかじゃない。今日は、
「バレンタインなのに…」
──バレンタインデー。
去年は先輩がチョコをくれた。ほらあの人って、食べるだけじゃなくて作る方も得意だから。…義理だったけど。まぁ仕方ない、あの時は付き合ってなかったんだ。
だけど今年は違う。
こんなこと言うと下心丸見えで格好付かないけど、結構期待してた。その結果がこれだ。
(…日頃の行いが、ってやつ?)
「あぁー丸井せんぱーい……会いたいなー…」
…あ、そうだ。
いいこと考えた!
────
──
「何も言わず来ちゃったけど…先輩いるかな…つーか熱とかだったらどうしよう…あーやっぱメールすりゃよかったな…」
インターホンの前まで来てぐだぐだ悩む俺。お察しの通り、丸井先輩の家に来てしまった。ちなみに今は放課後で、部活は休んだ。だって先輩に一刻も早く会いたくて、だから今日くらい許して欲しい。
そんなこんなでかれこれ10分。
…ええい!もう引き下がれん!意を決してインターホンに指を添えたその時、
ガチャ─
「え」
「え?赤也?」
「うおああせんっえ!?」
「なっなんだよ!」
「びっ、びっくりした…まだ押してないのに先輩出てくるから…はぁ…」
「びっくりしたのはこっちだっつの!…上がれば?」
言いながら先輩が中に入っていっちゃうから、慌てて俺も中に入った。…先輩、見た感じ元気だけど何で休んだんだろ。
ま、あとで聞こうと思いつつ先輩の部屋に入る。
「飲みモン持ってくるからちょっと待ってろぃ」
「あ、俺も手伝いますよ」
「!っだめ!」
「え、あ…そっスか」
「あ、いや、えと…一人で平気だから」
そう言い残してパタン、と部屋を出ていった。
…すっごい拒絶されたんですけど。いきなり来たから怒ってんのかな…わーどうしよ…でも俺頑張ったしまだ帰りたくねーなー…あ、先輩戻ってきた。
「はい」
「あ、どーも。…あの先輩、なんで今日休んだんスか?」
「あー頭痛くて」
「え、今も?」
「……別にへーき」
目、逸らした。痛いんだ。俺がいるから気を遣ってんだ。そういえばいつもより大人しい感じがする。