♪〜…
着信:丸井先輩
深夜のラブコール
現在時刻は0時過ぎ。
次の日が休みだと思ってうっかりこんな時間まで格ゲーにはまりこんでいた。いやどうしてもこいつが倒せなくてさ、こいつ倒さねぇと寝るに寝れないっつーか、え、別に聞いてない?いいじゃんちょっとくらい!
あ、そうそう話が逸れた。
だからこんな時間に携帯が鳴っても気付けたわけなんだけど。どうやらメールではなく電話のようで。
「ったく誰だよこんな時間、に……え。」
丸井先輩、だと…?
俺は携帯の画面を見てしばらく固まった。だって、丸井先輩が電話って。しかも深夜に。普段メールしかしないあの人が電話するなんて超レアじゃん!嬉しいけど、なんだろう。心当たりがまったくない。もしかして間違い電話なんじゃないの?あ、やべ、すげーそんな気がしてきた。
とそこで、はっと我にかえった。
は、早く出ないと…!
「もっ、もしもし!」
『……』
「あの…もしも、し…?」
あれ。あれれ。
しまったこれまさかマジでガチで間違い電話?え、どうしよう。ちょっと浮かれた俺恥ずかしい。
…もう一回喋って、応答なかったら切ろう。
「もしもーし、丸井せんぱーい?切っちゃうよー?」
『………遅い』
「え、」
あっぶねぇ…切るとこだった。
俺が喋ってから5秒くらい間があった。間違い電話だと了解して、切るボタンを押そうとした時、先輩は喋ったのだ。
「なーんだいるじゃん!もー、早く出てくださいよー!」
『それはこっちのセリフだっての…何してたんだよ10コール以上も』
「あの、先輩今何時か分かってます…?出ただけいいと思うんスけど…」
『出んのは当然だろぃ。俺が電話してんだから』
まぁ、確かに。先輩からの電話なんて珍しいし、出なきゃ俺が後悔するけど。するけど!ほんとにもうこの人は…!
普通なら怒るかもしれないけど、怒れないんだよなぁ。だって、悪気があって言ってるわけじゃない。ただ素直になれないだけ。それを俺は知ってるから、「はいはい」で済んじゃう。
「で、どうしたんスか?何か急ぎの用でもありました?」
『そんなん…ねぇ、けど…』
「あれ、そーなんスか?てっきり何かあんのかと」
一体何なのだろう。
用はないと言うけど、歯切れが悪い感じだし。あれかな、俺の声が聞きたかっただけとか?…まさかな!俺じゃあるまいし!
『…あの、さ』
「はい」
『今からすげーワガママ言うけど、言いたいだけだから、お前も聞くだけでいいから、…いい?』
「え、聞くだけでいいんスか?」
『あー…うん』
少し悩みながらも、聞くだけでいいと言った先輩。なんだろう、愚痴とか?でもワガママって。…分からない。
でもなんとなく、大事なことのような気がして、携帯を持つ手に力が入った。そして耳を澄ます。
次に先輩が口を開いて、その"ワガママ"を言った瞬間、俺は玄関を飛び出して全力で駆け出すことになる。
『…言うぞ』
「どうぞ?」
『……赤也に、会いたい』
「!」
『ごめん、言いたいだ─』
ツー、ツー、ツー…
ごめんは俺の方だよ。勝手に切っちゃってごめんね。先輩、勘違いしてないといいな。
だって、
すぐに会えるから。
(丸井せんぱいっっ!!)
(え?なんで…)
(へへっ、来ちゃった)
(〜ワガママっつったじゃん、バカ也)