俺は今、最大級に悩んでいる。
というかどうしたらいいか分からない。何が正解か分からない。ただひとつ言えることは、
「っ……」
痴 漢 に あ っ て い る 。
へるぷみー!!
かれこれ5分だろうか。電車に乗ってから少しすると、俺を女と間違えたのか背中を撫でられた。それが始まり。
ちなみに俺は今、ひとりじゃない。隣に赤也がいるわけだが。満員電車ということもあって気付いてはくれなかった。ほっとしたような、気付いてほしいような。
別に俺は女じゃないし、いざとなれば殴ることも蹴ることもできた。できたのにしなかったのは、俺がこの痴漢野郎を甘く見てたからだ。
「…っは……」
「丸井先輩?具合悪い?」
「えっ、あ、いや…なんもねぇよ?」
「ならいっスけど…」
(っくそ…なんでやめねーのこいつ…!)
いろんなところを触られて、もう女じゃないことも分かったはずだ。俺が男だと気付けばもうやめる、そう思ってたのに。
相手がこんな変態だとは思ってなかった。気持ち悪い、気持ち悪い、触んな触んな触んな…っ!
「……っ…」
抵抗できずにいると、ついに服の中にまで侵入してきた。怖い、どうしよう、怖い。助けて赤也…赤也…!
…簡単なことだ。言えばいい。言えばいいんだ。でもこんなの、見られたくない。怖い、恥ずかしい、でも自分じゃどうにもできない。正直もう力も入ってない。
隣にいる赤也の服に手を伸ばし、精一杯力を込めて握る。
ぎゅ。
「先輩?」
「……〜…あ、かや…っ」
「え、どうし…」
「…っは……あか、」
「!!っ…おい!」
「ぅ、わっ!」
勢いよく抱き寄せられ、痴漢の手が離れた。ぎゅーっと強く抱き締められて、赤也の匂いが広がって、安心したのも束の間。
「おいそこの痴漢野郎…ただで済むと思うなよ…」
「だ、誰が痴漢だ!」
「テメェだよ反応したってことは分かってんだろ?」
「っ…」
「はは、覚悟しろよ」
「赤也!!」
ダメだこいつ完全にキレてやがる。ただでさえ満員電車で缶詰め状態だってのに、ここで暴れたら赤也まで捕まっちまう。そんなの絶対嫌だ。
「赤也、落ち着け、もういいから」
「だって先輩っ…」
「いいから」
「っ……はい」
数分後、騒ぎを聞き付けた係りの人が、最寄り駅で痴漢野郎を連れて行った。俺もそこで降りようって赤也に言ったら、あいつと同じ駅にいたくないって言ったから、次の駅で降りた。
「あの、赤也?」
「…なんスか」
「や、えと…ありがとう」
「……もー…なんでもっと早く言ってくれなかったの?先輩あのままどうする気だったの?」
「それはっ…ごめん…すぐ、やめるだろうと思って…でもやめてくんなくて、……怖く…なって…」
あ、泣きそう。
そう思ったとき、ふわっと温もりに包まれて、優しく頭を撫でられた。
「怖い思いしたね…気付いてあげれなくてごめんね…」
「っ…ん…、ありがと…赤也…」
「今度はちゃんと守るから、…先輩、大好き」
「ん、…俺も」
(大好き、俺だけのヒーロー)