「…かーわいー」
「黙れっ……つかなに、これしたかっただけかよ」
「これって?」
「っ……キ…ス…に決まってんだろぃ」
単語が恥ずかしいのか、だんだん声が小さくなっていく。…俺には何が恥ずかしいのかよく分からないけど。ま、かわいいからなんだっていいけどな!
「んー、そうなんスけど…」
「けど?」
「今日は違うキスしたいなって」
「…は?」
やっぱり、とは心の中に留めておいた。薄々感じてはいたけど、まさか先輩がほんとに知らないとは。
先輩は、意味が分からないといった顔をしている。俺をずっと掴んで離さなかった手はあっさり離れ、そして思いっきり考え込んでしまった。
「あ、あのー…先輩…」
「違う、って何?どう違うわけ?」
難しい顔をしてこっちを向いた。あぁ、興味がないわけじゃないのか。ほんとに知らないだけなんだ。
だったら俺の為…いや先輩の為にも教えてあげようじゃん!
「えーと…じゃあ、してもいいッスか?」
「やだ」
「うっ直球…!」
「お前なぁ…自分がわかんねーもん突然されたら怖いだろ普通に。誰かがお前に英語で話しかけてきたらどうだよ」
「すいませんすっげー怖いです俺が悪かったです」
「よろしい」
満足気に「で?」と聞かれ、どうすればいいのかそれなりに悩む。しちゃえば簡単だと思ったのに、上手い言葉が見つからない。ちくしょう俺のバカ。初めてもっと勉強しようと思った。
どうすれば…あーもう、簡潔に言うしかなくね?しょうがないって、俺に説明求めた先輩が悪い。
「言ったら…してくれます?」
「してやってもいいけど」
「あの、まぁ簡単に言うと…舌いれる、ってだけ…なんスけど」
「……なにそれ」
激しく嫌そうな顔をされた。加えて非難の目が痛い。なんでキスするのにこんな辛い目にあってんだろ俺。
でも、
「ね、そんな顔しないでくださいよ!」
言ったらするって言ってくれたよね?
「いや…するだろ…なに、お前が考えたの?」
「違います」
「あそ…」
「じゃーそゆことで、してもいい?」
てかするけど、と言いつつ顔を近付ける。途端、ピシッと固まった先輩が全力で阻止してきた。必死に距離を保とうと胸をぐっと押される。
「まっ待て待て待て!」
「なんで」
「や、だって…よくわかんねーし…!し、舌入れたとこで何が変わんだよ」
「大丈夫大丈夫、絶対きもちーから」
「でもっ…」
ぐるぐる考えまくって焦ってる顔がまたなんとも言えない。こんなに愛しい恋人、他にいる?
時間稼ぎのつもりで手当たり次第に理由を探しているみたいだけど、そろそろ─
「はーいタイムアウトー」
「待っ!ほら俺、やり方わかんなっ…!」
「そのまま口開けとけばいいよ」
がぶっ。
…って効果音がつくかも。
あまりに必死だから、かわいくって仕方なくて、俺は喋っている先輩の口にかぶりついた。