2 | ナノ


「丸井先輩」

「な、んだよ…」

「こっち向いてよ」

「…いやだ」

「なんで?お礼言いたい」

「別に…いいしそんなん」

「だめ」


何度言ってもこっちを向いてくれない。まぁ、丸井先輩が素直じゃないのは知ってるし、照れ屋なのも知ってるからいいんだけど。(俺に質問攻めされて、直球に物事を言われるのが弱いってことも勿論。)知っててやる俺も俺だし。


でも今は、
こっちを見てほしい。
先輩の顔が見たい。


「先輩、今日バレンタインッスよね」

「…だから渡したんだろぃ」

「これだけ?なんか言うことない?」

「っ言わなくても分かって─」

「聞きたい」


聞きたい、ともう一度言うと、やっと目を合わせてくれた。これ以上ないってくらい困ってる。そんな先輩も可愛いなぁなんて、もうやめてあげようかとも思わせるくらい。でもまだ、やめてあげない。


「ね、先輩。言ってよ」

「〜っ…一回しか、…言わねーからな」

「いいよ、ちゃんと聞き取ります」

「…あか、や」


先輩が名前を呼んですぐ、俺は何が起こったか一瞬分からなくなった。目の前にあったはずの先輩の顔。今は、見えない。


(え…抱きつかれて、る?)


頭の中はもうグルグル。大好きな人がこんなに近くにいて、冷静でいられるはずがない。


「あの、せんぱ─」

「好き」

「〜〜っ!!」

「はは、顔真っ赤。」


こんなの、
こんなの、
──反則だ…


「丸井先輩ってさぁ…」

「ん?」

「突然男前になるからやだ…」

「は、バーカ。いつも格好いいだろぃ?」


なんだか悔しくて、格好よくて、でもやっぱり可愛くて、好きで、大好きで。せめてもの仕返しに、キスしてやった。もちろん口に。


「っ…!」

「あ、これは仕返しなんで。お返しは、1ヵ月待ってくださいね?」

「も、もういらないっ!!」


年も君に
(俺の大好きをプレゼント)


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