※光と謙也は学校違う設定
※↑大丈夫な方どうぞ!
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その人は、
いつも同じバスに乗る。
決まってこの時間の、
朝の少し早い時間。
ひとめぼれ
俺がその人を見つけたのは、本当に偶然だった。その日、ただなんとなく早く目が覚めて、いつもより早めに家を出た。
毎日乗るバスとは違うバスに乗り、後ろの座席に座っていた。特にすることもなく、音楽を聞いて目を閉じようとした時、見つけてしまった。
(──金髪や)
その人は、誰よりも目立つ金髪だった。走ってきたのか、少し息が乱れている。人が少ないとはいえ、周りにいるのは学生だけ。黒い制服の中で、やけにその人が目に入ってきた。背は高めで、多分年上、そう思った。
俺がバスを降りる時、その人はまだ乗っていた。そうしてその日は終わった。
それから俺はまた、いつもと同じバスに乗りだした。当然あの目立つ金髪を見ることは、ない。毎日が平凡で、何も変わらない日々。
名前も知らない。学校も分からない。話したこともない。ただ知ってるのは、少し早いあのバスに乗ることだけ。
俺とあの人を繋ぐのは、
あの時間だけ──
「…なんで、…なんでこんな…気になるんやろ…」
俺の知らない学校に、毎日通って。俺の知らない奴等に、名前で呼ばれて。俺のいない場所で、笑って、泣いて、恋をして。
もう一度見たい。
もう一度会いたい。
今度は声が聞きたい。
もう一度、もう一度。
それから俺は、少し早い時間の、あのバスに乗るようになった。もちろん、あの人に会うために。
珍しく乗客が少なく、俺とあの人以外には数人しかいない。今日も変わらず綺麗な金髪。やっぱり急いできたのか、息は乱れている。そのまま、通路を挟んで俺の隣に座った。それだけなのに何故か、俺の心臓はうるさくなった。
未だに息を整えてる姿がなんだか可笑しくて、なんでそんなに急ぐのか気になって、思わず笑ってしまった。俺自身浮かれてたんだ。
「ふっ……はは…」
「…あ、あの…どないしたん?」
「……え、…俺、ですか?」
「ははっ他に誰がおるん?急に笑い出すからびっくりしたわ!」
びっくりしたのは俺の方だ、と言いたかったのに、声にはならなかった。想像以上に明るい人で、笑顔がよく似合う人で、それになにより、話し掛けてくれたことが嬉しかった。
「君、最近よぉこの時間に乗るよな!俺いっつも見とってん。後ろの席に綺麗な子おるなーって」
「…綺、麗?」
「あ!!き、綺麗って、女の子みたいとかそういうんやなくて!なんちゅーか、格好ええな…って」
「……俺は…綺麗やなって、思ってました。ずっと前から知ってました、あなたのこと」
すごく驚いた顔をしていた。でもすぐに、俺も見られとったんやな、と照れたように笑った。
別れの時間が近付くにつれ、これを逃したらもうこんなに話せることはないような気がした。少し急ぎすぎかもしれない。でも、言葉が溢れて止まらないから。
「名前…聞いてもええですか?」
「あ、言うの忘れとった。忍足謙也っちゅーねん!よろしゅうな。そっちは?」
「財前光、です」
「光?ええ名前やな!」
忍足謙也、さん──
俺とこの人を繋ぐものが、一つ増えた。この前までなら、それだけでよかったはずなのに。もっと知りたい、一緒にいたい、ずっと…これからも一緒に。
「…謙也さんに、聞いてもらいたいことがあります」
「なん?」
「謙也さんは、…」
(一目惚れ、)
(って…信じますか?)