ピンポーンと音が鳴り響き、確認をすれば遠慮がちに聞こえてきた大好きな先輩の声。
今日はケーキバイキングに行く約束をしてて、ほんとなら俺が迎えに行っても良かったんだけど、先輩が"ちょっとやることあるから"ってことで俺は家で待機していた。
「お待たせしまし……え…?」
「よ、よぉ…」
ちょっと誰かバカな俺に説明してくんねぇ?…先輩、なんだけど先輩じゃない。ドアを開けたら、女の子が立ってました。
「え、っと…丸井…先輩?」
「…そう、だけど」
「いや…あー…先輩、なの?」
「そうだっつってんだろぃっ!」
「と、とととりあえず中どうぞ!寒いっしょ!!」
「……お邪魔します」
いやほんと、寒そうだったし!だからとりあえず家にあげたんだけど、なんかますます緊張してきた。あーだからバカって言われんのか俺。それにしても──
(すっげぇ可愛い…)
「…なんだよ」
「へ!?」
「さ、さっきからずっと見てるしっ!なんか言えよバカ!つーか変なら変って言ったって─」
「な、何言ってんすか変じゃないッスよ!!つかほんとどーしたんすかそんな格好で!!か、可愛すぎてびっくりしてんスからね!!」
「かっ…〜嘘だ」
自分でも恥ずかしいこと言ってる自信がある。けど、この際そんなこと言ってても仕方ないっしょ!!
目の前には真っ赤な顔をして俺の言葉を否定する先輩。マジでどうしたのこの人。
「ねぇ、先輩。それ誰にやってもらったの?自分でしようなんて思わないっしょ」
「うっ…いや、……仁王、に」
「仁王先輩、ね。あーなんとなく分かりました。てかその格好で家出て来たんスか?」
「いや、仁王の家でやってもらって、そこから…ここまで」
「はぁ!?仁王先輩ん家から!?」
あり得ない。
この人マジであり得ない。
仁王先輩のとこから俺のとこまでの長距離をこんな可愛い格好して歩いてきたの?
「あの…赤也、そろそろ行こーぜ?」
「…その前に先輩、自分の格好ちゃんと理解してそして自分の行動もっと反省してくださいね」
「は?なに、どういう意味…」
「一人で歩いてたら危ないって意味!!ほら行きますよ!」
「え、ちょ、引っ張んなって!」
思わず手を掴んで外まで出てきてしまった。やべぇ、怒るかな先輩。周りとかすっげ気にするし…。
とりあえず手を繋いだまま、俺的に普通の速度で先輩を連れて目的地に向かって歩いていると、後ろからやっと声がかかった。
「っあ、あかや、ちょっと待てよ!」
「は、はいっ!あ、すいません手なんか繋いじゃって!今離しますからっ!!」
「へ?…っや、離さなくて、いいから…もう少しゆっくり歩いてくんねぇ?」
「え、いいんスか……ってあれ、速かったッスか?」
ちょっともう、いつもと全てが違いすぎて死ぬほど緊張してるんだけど。うわー初デートより緊張してるかも!先輩もなんかほんとに女の子みたいだし…俺歩くの普通だと思ってたんだけどな。
「いや、えっと…ブーツとか、いろいろ慣れなくて歩きづらいっつーか…スカートも、気になる…」
「あ…す、すいません!大丈夫ッスか!?そうですよね…はぁ、ダメだ俺…」
「え?あ、赤也?」
「もーなんか先輩じゃないみたいで調子狂う……マジ可愛い。外にいんのもヤだ。誰にも見せたくない」
道行く人にちらちら見られながらも、単なるバカップルみたいな会話を続ける俺達。今日はほんと自分でもバカだって何度も思う。