屋上を目指して階段を登っていた俺は、踊り場で突然後ろから思いっきり誰かに抱きつかれた。
「丸井せーんぱいっ!」
「ぉわっ!?」
「やーっと会えたぁ…ずっと探してたんすよ?」
めちゃめちゃ甘い声で寂しかっただの死にそうだの騒ぎまくってる抱きついてきた"誰か"。
こんなの、
振り返らなくても分かる
…だって、赤也だろぃ?
「っお前な……分かったから離れろぃ…すっげー重い」
「ええ!?やっと見つけたんだもん!いいじゃないすかぁ」
「俺はまだお前を見つけてねーんだけどなぁー」
「あ、そっか。じゃーはいっ」
そう言ってあっさり離れた赤也は俺をくるりと回して向かい合わせた。
…あれ?
なんかあっさりすぎねぇ?
いつもならもっと粘るよな?
「先輩?どうしたの?」
「あ、いや…別に」
「ふーん…あ、そうだ丸井先輩!トリックオアトリート!」
「は?お前なんでそれ…」
「なんでって、ハロウィンにはこれっしょ?」
おかしい。
万年赤点エースで英語嫌いに加えて頭も弱いくせに、なんでこんな言葉知ってんだよこいつは。
……!
…しまった。
サイアク、騙された。
「なぁ赤也、」
「何スか?」
「いや、違うよなぁ?トリックオアトリート、仁王」
「……プリッ」
迂闊だった。
赤也だとか思ってちょっと嬉しくなった数分前の自分を殴ってやりたい、そんな気分。
目の前の赤也もとい仁王は、完璧だと思ったんにーとか言いながら変装をとき、すっかり普段の仁王に戻っていた。
「ばっかじゃねーの?ほら、早く菓子出せよ。」
「ブンちゃん怖いナリ…」
「俺を嵌めようとした罰だ、さぁ出せ」
「はぁ…仕方ないのぅ。とは言っても何も持ってないんじゃが…」
なにかないかとポケットを探したり、考えたりしている仁王。
「…のぅ、どうせみんなから貰っとるんじゃろ?」
「そうだけど。」
「ちなみに何貰ったんじゃ?」
「何って…ジャッカルからお菓子、柳生から飴、柳からチョコ、真田には悪戯してー、さっき幸村くんからはケーキバイキングの券貰った。…赤也と行くようにって」
「ほぉ…ケーキバイキング…」
再び考え出してすぐに、あ!とわざとらしくひらめいたような素振りをしてバカなことを言い出した
「なら、お菓子はないけん代わりにメイクしちゃるよ?」
…は?
え、なにこいつ。
今何て言った?
「ブンちゃーん?」
「…お前何言ってんの?」
「聞こえんかった?メイクしちゃるっt」
「意味がわかんねーって言ってんの!意味!」
メイク?なにそれ?なんで?
つーか菓子が貰えりゃそれでいーんだけどまじで。
「分かってないのぅ。赤也とバイキングって、デートじゃろ?」
「デートってか…いや、まぁ…」
デートとかそんな風に考えてなかったけど、やっぱそういうことになるんだよ…な。
「じゃったら、女装すれば堂々とデートできると思わん?」
「な、なにもそこまでしなくても!俺は別に…」
「ほんに?人目も気にせず立派なカップルで歩きたくないんか?」
「うっ…」
「赤也も喜ぶと思うんじゃが…」
──くそ、負けた。
こんな詐欺師に負けるなんて一生の不覚…。