「ねえ、カノ」 「ん? なに?」 「そろそろ、離れてくれな……」 「やだ」
私の頼みごとに耳を傾けてくれるわけでもなく、カノは一層強い力で私を抱き寄せた。 何故私が大人しくカノの膝の上に座っているのか、ここまでの経緯を説明しよう。そもそもの原因はこの季節にある。日本の冬は寒い。冬至を終えた今、徐々に日が伸びてきているというものの、この寒波とやらはまだまだ健在だ。 そんなわけでヒーターやらホットカーペットやら、暖房器具は用意してあるにもかかわらず、カノがこういうのは人肌同士で温め合うのがいいんだよ、なんてわけのわからないことをぬかしたものだから今、この部屋はなんの器具も稼働していないわけだ。まさに宝の持ち腐れ。これじゃ単なるエコロジーじゃないか。私たちだけ地球に優しくなってどうする。
「ちわー。宅配便でーす」
玄関方面から聞こえてくる珍しい客人の声にびくりと体を揺らして反応する。咄嗟に床を蹴りつけ立ち上がると、拘束の力も既に緩んでいたのか、思いのほか簡単に解放された。慌てて玄関へ向かうと、少し小さめのプレゼント箱を抱える作業着を身にまとった従業員の姿が目に入る。
「えっとこちらは……みょうじ、なまえさん宛になります」 「え、私? でも私、住まいはここじゃないんですけど。それに頼んでもないし、小包が届くなんてそんな連絡」 「あー、いいのいいの。それ僕から」 「え、カノ……?」 「とりあえず、こちらにサインを」
差し出された伝票に簡易的なサインを記し、業者へ返すとその人はありがとうございました、と丁寧にお礼を口にして家を出た。私は両手の上に置かれた箱をじっと見つめながらそれをリビングルームへと運ぶ。丁寧なラッピングから中身を覗くことはできないけれど、箱は思いの外、重量感があって、こうして運んでいても中からは一切音がしない。
「今日はクリスマスだからね。ちょっとしたサプライズでもしようかと思って」 「これがその、サプライズ?」 「うーん。まあ、その一環、って感じ?」
カノの言葉もいまいち耳に馴染まないうちに私の手は先を急ぐように赤いリボンをさっとほどいた。包装紙を剥がし、ようやく全貌を表した箱の蓋に手をかけると恐る恐るそれを開け放つ。 箱の中には色とりどりのフルーツや、サンタクロースやトナカイをモチーフにした砂糖菓子などが表面いっぱいに散りばめられているホールケーキが入っていた。
「わ、きれい……!」 「でしょ? オーダーメイドだからね」 「カノ、ありがとう!」 「どういたしまして……、なんつってー!」 「えっ? うわぁっ!?」
ケーキの鮮やかなデコレーションに目を奪われているとなんの前触れもなくカノが背後からいきなり抱きついてきた。崩れそうになった体勢をすんでのところで力を入れて止めた後、思わずカノにきつく睨みを効かせる。
「ちょっとなにし……え?」 「メリークリスマス、なまえ。こっちが本当のプレゼント」
そう言って首筋を撫でられる。なにがなんだかさっぱり分からない。第一、こっちが本当のプレゼントだなんて言われても自分の首元なんて見えっこない。そんな思考を察するかのようにカノが私に向けて手鏡を差し出してくれた。おそらく、これで確認しろということなのだろう。指示通りに鏡を開くと、首元にはきらりと目を引くような輝きを放つ、ピンクゴールドのネックレスがかけられていた。
「かわいい……!」 「気に入ってくれたなら嬉しいよ」 「あ、でもごめん。私、なにも用意して……」 「ああ、それならいいよ。でもその代わり…――」
ぐっと引き寄せられる体。首筋にかかる吐息に思わず肩を揺らす。ぱっと目があったカノとは上目遣いのような形での対面となり、なんとなく気恥かしさを覚えて顔を背けると、耳元でくすりと楽しそうな笑みが聞こえてきた。
「今夜、楽しませてね?」
クリスマスの夜はまだまだ長いようです。
あなたの色に犯される (こんなの、私の知ってる聖夜じゃない) (こんな造語知ってる? 性別の性に夜って書いて……) (言わせねえよ!)
2012.12.24 title:魔女のおはなし
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