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「はぁー…」

大げさとも捉えられるような声で幾度となくため息をつく。幸いにも私の周りはそんなため息ひとつ簡単に掻き消せるくらいまで騒ぎ立てているため、その声はクラス内といえども誰の耳にも届くことはなかった。

「ちょっと外の空気でも吸ってこようかな……」

誰に当てるでもない独り言を言いながらみんなに気づかれないように教室を出ようと決心した。ふらりとわずかによろめきながら立ち上がるとおぼつかない足取りで教室を出た。途中、同じ塾生であるしえみや燐にどこへ行くんだと声をかけられたが私はその台詞が上手く耳に入ってこなかったため んー、と曖昧な返答をして逃れる。
そんな私の背中を頬杖をつきながら無言で睨みつける者が一人。

「……」


* * *


「んー…やっぱ外の空気は美味しいなぁ」

ぐっと体を伸ばし目一杯に息を吸い込んだ。校舎内にある空気よりわずかに冷えていて、全身にあたるそよ風がとても心地よい。ただ、それはどう考えても当たり前のことで普段から少し頭を捻れば実感できることでもあった。
そのため、そんな感動は長くは続かずすぐに気がどんよりと重くなった。口から出るのは先程と同じ、自分で制御することのできないため息だけ。

「はあ……」
「なまえ、どうした?」

この場所で聞こえるはずもない声にふと振り返る。私の背後にはついさっきまで教室で退屈そうに志摩や子猫丸の話を聞いていたはずの勝呂がいた。
驚きのあまり、しきりに辺りを見回すが彼の取り巻きである二人は近くにいないようだった。
見渡す限り隠れる場所もなく、勝呂は彼らをおいて一人で来てくれたのだろうと予想することができた。

「めずらしいね……一人で来るなんて」
「ええやろ、べつに」

私が近くの柵にもたれかかるようにして座り込むと、勝呂もまた私の近くに歩み寄り隣に腰を下ろした。
二人きりになったからといって特別話すこともなく、勝呂から私に話しかけてくることもなかった。普通なら何で来たんだろうと疑問を抱くところではあるが、不思議と嫌な感じもなく、むしろ今の私には居心地がよく、少しだけ気が楽になったように感じた。

「…なんか、ごめんね」
「たまには気ィ抜いたらええよ。無理することあらへんしな」
「うっわ…勝呂がめっちゃ優しい……」
「なんや!! 人がせっかく心配しとんのに、その態度どうにかならへんのか!」

自分でもめずらしいことを言ったと思っているのか、気恥ずかしさに頬が薄い赤色に染まっているように見えた。そんな勝呂の姿を見て、また可笑しくなった私はそれをこらえきれずに噴出した。ますます機嫌が悪くなる勝呂にごめんごめんと謝りながら気持ちを少し抑制して立ち上がる。

「ありがとう、竜士」
「なっ……!」


何も云わずに傍にいて
(い、いきなり名前呼ぶな…!)
(照れてる照れてるー)


title:虚言症





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