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「なあ、ハロウィンって楽しいか?」


聞き覚えのある台詞が私の耳のある位置より少し上から聞こえる。そういえば去年、この日にもこんなこと言ってたっけ。
私をあぐらを組んだ上に座らせ、後ろから抱きしめられている。そんな格好で身動きもそれほどとれず、自由の利く顔だけを静雄の方に向けてみる。


「それなりには! 仮装できるしお菓子もらえるし!」
「お前はどうせ後者がメインだろ」
「ひっどーい! そんなことないもん」


くつくつとおかしそうに喉を鳴らして笑う静雄。一体なにがおかしいのか、理解に苦しむ。
頬を膨らませ、不機嫌そうにしていると私が何を言いたいのかわかったらしく“すぐ拗ねるあたりまだまだ餓鬼だな、と思ってよ”とあっさり言葉を返された。それがまた私をより不機嫌にさせる。


「……静雄はいつもそうやって私を子供あつかいするんだから」
「子ども扱いはしてないだろ? 餓鬼に俺の女役が務まるかよ?」


不覚にもどきりとした。
ばくばくと心音のなる位置をぎゅっと手で握りながら下唇を噛み締める。不意打ちはずるい。普段はからかうだけからかっておいて、本心なんてなにひとつ教えてくれないのに。
でも、決めるところをしっかり決められるあたり、私なんかよりずっと大人であることは間違いない。だから悔しいのだ。


「子供相手にマジになるほど、俺も廃れてねーよ」
「じゃあ、私も子供じゃないんだね!」
「は? なまえは子供だろ」
「……なんでだろう。話が噛み合わない」


子供相手に本気にならないと言っておきながら私は結局子供扱いなのか。それともただ今の関係が静雄にとって遊びでしかないのか。
前の台詞を踏まえて考えると後者の考え方はまずないだろうけれど。


「そんなに大人になりたいか?」
「うん。その前にもう大人なんですけどね、れっきとした」
「トリックオアトリート」


去年、私の言った台詞。まさか、だ。静雄にとってあれほど無関心だった行事であるのに、その台詞を一年経ってからも忘れないなんて。これがハロウィンの夜の奇跡、とでもいうべきか。
そう思えるくらいに私にとっては奇跡の出来事だ。


「静雄も成長したね……嬉しいよ、お母さんは」
「だれがいつ母親になったよ。っつーかお前に言われたくねぇ」
「お母さんにむかってなんて口の利き方するの!」
「俺より年下の母親があるか」


額を握りこぶしでこつんと叩かれる。今どんな顔をしているのだろうとうかがえば
面倒そうな、呆れきったような表情をしてため息をこぼす静雄の姿。
簡単に言えば対応に困った時にする顔。本気で呆れられているわけではない。


「……それでよ」
「ん?」
「俺はいつまで“おあずけ”くらえばいいんだ?」


膝と肘をつけ、手の平に顎をのせながら静雄が私に問う。
ああ、そうだった。たしかこのくだらない言い争いは静雄が珍しい言葉(トリックオアトリート)を使い始めたところから始まったんだっけ。でもまさか、静雄がこんな台詞を言うとは予想すらしなかったことで、今年もまた私が一方的に言うものだと考えていた。
その概念を覆されたのだ。そこまで用意を徹底していない私がお菓子を持ち合わせているはずがない。


「じゃあ、私も! 私にもお菓子頂戴! トリックオアトリート!」
「…………」
「はい、ごめんなさい! 持ってないです!」


仕方ないと済ませるわけでも言及するわけでもない。ただ黙りこくったまま私の顔をじっと見据えるだけの静雄。なにをかけているというわけでもないが、無言の威圧感を感じ気後れする。
半強制的に搾り出された台詞を聞いて、静雄は妖しく口角を上げた。


「じゃあ、なにされても文句はないな?」
「い、異議あり!」
「聞かん」
「せめて聞いてください! 明日の仕事に差し支えます!」
「休め」
「そんな無茶苦茶な……!」


あれほど興味のなかったハロウィンに興味を示してくれたことは嬉しいが、主導権はいつも握られたまま。それがどうしようもなく心地よいとさえ思えてしまう。
ハロウィンの過ごし方は違っても結局、去年と変わらない結末に嬉しいような悔しいような、複雑な気持ちをかかえるのだった。





(楽しい楽しいそんな日の会話の一部!)



2011.10.31. 楽しい一日を、お過ごしください




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