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「雨、だね」
「ああ」
「六月……だね」
「そうだな」

春と夏の中間であるこの季節は主に梅雨と言われる時期になる。しばらくの間、雨が続き外で遊べる時間が短くなる時。
しとしとと降り続ける雨を眺めながら極めていつもどおりの一日を迎える。

「ジューンブライド、だっけ。六月の花嫁」
「ああ」
「……ねえ、静雄さっきから私の話聞いてる?」
「さあな」

ふっと鼻で笑いながらテーブルの上に置かれたタバコを手繰り寄せる。箱から一本、新品のタバコを取り出すと静雄はそれに火をつけた。
部屋の中には煙の独特な臭いが充満する。

「……鈍感」
「なんのことだか」
「ばーか。わかってよ、そのくらい」

私だって一応女の子なんだから。そう言ったら だいぶ口の悪いお姫様だけどな、なんて言って笑われた。
失礼な。それは私じゃなくて乙女心の分からない静雄が悪いんだ。そう言おうとして口をつぐんだ。もし言ったとしてもきっと 乙女なんて俺は知らないな、と返されるに決まってる。

「……あ、電話だ。ちょっと待ってろ」

突然鳴り出した携帯電話を手に静雄が部屋を出て行く。
去り際、子供をあやすかのようにポンポンと頭上に手を置かれ、頭を撫でられた。私はその位置を軽く片手で押さえながら静雄の出て行った扉を見つめる。
一人になった部屋は二人でいるときよりずっと広く、急に心細くなった。
ソファに置かれたクッションを抱えるようにぎゅっと握り締め、いつも二人で座っているソファの上に寝転がり天井を見る。
そうしてしばらくごろごろしていると、用を終えた静雄が戻ってきたらしく、扉の開くおとが耳に入ってきた。その音に過剰反応してしまう自分が本当に情けない。

「……ただいま」
「…………遅い」
「悪かったよ」

そんな台詞を口にしても大して悪びれた様子のない静雄。
私だって分かってる。彼には彼の用事がある。それが普通だ。すべてを自分に縛りつけようなんて、そんな考えは持ちたくない。
静雄は寝転がる私を抱え上げると自らがソファに腰を下ろし、私を向かい合わせになるようにして自分の脚の上に下ろす。
互いの息がかかるほどに近い距離も静雄はさほど気にしていないようだった。

「手」
「……手?」

いきなりのことに戸惑う私をよそに静雄は私の左手を取った。なにをするのだろう、とじっと私の指先に触れる彼の骨ばった手を見つめた。

「目、瞑れ」
「なんで?」
「いいから」

渋々目を瞑るとなにやらカサカサと音が聞こえてくる。目が見えないと耳に神経が集中してしまう人間の単純なつくりのせいだ。そんな当たり前のことを考えながら、合図が出るのを待つ。

「まあまあだな。いいぞ」

そっと目を開け、すぐに左手に視線を向ける。薬指に綺麗な指輪がはめられていた。

「どうしたの、これ」
「第一発生がそれかよ」

驚きのあまり口から出たのはお礼の言葉でも感激の言葉でもなく、率直な疑問だった。
そんな私を見ながら静雄は可笑しそうに喉を鳴らして笑う。

「ジューンブライド」
「え?」
「お前が言ったんだろ? ほんっと、わけわかんねーよな。女って」

なんでそんなもんが好きなのか、俺にはさっぱり理解できねえ。そんな嫌味満開の台詞とは反対に、静雄は私の目を見て柔らかく微笑んだ。

「しかたねぇから結婚してやるよ」
「なにそれ、ムードない」
「るせーな。いいからそこは頷いとけ」

照れたように頬を薄く染めそっぽを向く静雄。そんな彼を見ていたら急に嬉しさがこみ上げてきて、私は彼の背中に腕を回し、思い切り抱きついた。




(ありのままの君が好き)








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シズちゃんはこんな性格だったら良い

2011.06.19 title:曖昧きす




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