「瀬名ちゃん!」
「うん!」



今日の体育の授業は、緋巡中の広い体育館で行われていた。2組合同でやっており、女子はバレーボール、男子はバスケットボールのクラス対抗試合をしている。

バレーの試合で瀬名はクラスメートからのトスに、ジャンプをしてアタックを決める。相手のブロックの隙間を狙ったおかげで、得点となり、クラスメートから歓喜の声があがったのもつかの間。
ドタッという音と共にそれは悲鳴に変わった。



「瀬名ちゃん!」
「痛っ……」



着地に失敗したようで、瀬名は足を痛めたように足をおさえている。近くにいたクラスメートも先生も駆け寄ってきた。



「結城さん、大丈夫?」
「捻ったみたいで…痛みます」
「誰か、保健室に連れていってあげて!」
「先生」



女子に言ったつもりが、返事が背後からした事に先生は驚きながら後ろを振り向く。そこには、悠太がたっていた。



「出雲くん、」
「俺、保健委員だし連れていきます。」
「分かったわ。」
「瀬名」



瀬名が心配で近くにいたクラスメートは、悠太が近づくとゆっくりと離れていく。瀬名は悠太が差し出した手をとると、ゆっくりと立ち上がった。



「歩ける?」
「う、うん」
「…」
「ちょ、!」



数歩歩いたところで、悠太は瀬名の体を抱き抱えた。驚く瀬名だが、足を痛めているし抵抗する理由もないので大人しくする。周りからの黄色い声に瀬名は恥ずかしそうに顔を悠太の胸元に押し付け、「歩いて」と小さく言った。



***



「…どうしてお姫様抱っこしたの?」



出張で養護教員がいなかった為、鍵を借りて保健室に入る事ができた。瀬名をおろして、立たせたまま鍵を借りるわけにも行かず抱き抱えたまま人の少ない職員室に入った。俺は何も問題なかったけど瀬名はすごく恥ずかしかったようで、職員室を出てから保健室に来るまで何度もぽかぽかも叩かれた。
よほど恥ずかしかったんだろうなと思う半面、そんな瀬名が可愛くて少しゆっくり歩いたのは秘密。



「どうしてって…瀬名を歩かせたら、足の痛みが悪化するだろ?」
「そりゃそうだけど…」
「嫌だった?」
「…嫌じゃない」



湿布とテープを持った俺は椅子に座る瀬名の前にしゃがみ込み、そっと足に触れる。足首を捻ったのか、足首だけやけに熱を帯びていた。患部を確認し、湿布をそこにはる。



「じゃあ、」
「何?」



テープを貼り終えた俺はまっすぐに瀬名を見つめて言った。



「恥ずかしかった?」
「…なかった」
「嘘つき」
「あでっ」



小さな嘘をついた瀬名の額を指でビンタする。瀬名は額をおさえながら痛いと言っていたが、嘘をついた瀬名が悪いんだから俺は知らん顔をする。



「待ってよ、悠太っ」



テープを片付けて、電気を消す俺に瀬名が慌てて追いかけてくる。覚束ない足取りの瀬名が危なっかしくて手を差し延べると案外素直にしがみついてきた。



「な、なんで嘘って分かったの?」
「瀬名分かりやすいし。それに、」


小さな嘘くらい見抜けるほど、瀬名の事見てるから


と声を低くして言えば瀬名は林檎以上に顔を真っ赤にして俺の背中をぽかぽかと叩いた。



小さな嘘さえ見抜けるほど(君を見てるから)



_



悠太にとって、瀬名はすごくかわいいんです。









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