「瀬名、帰るよ」
「あ、うんちょっと待って!」


長い黒髪がぴょんぴょんと跳ねる様子につい口が綻んでしまう。俺が声をかけると、瀬名は黒板消し片手に黒板の前に立つ。上から下へ綺麗に消していく様は、夕日に照らされどこか綺麗だった。


(…あれから、7年か)


俺が緋巡に引越し、瀬名と離れてから7年が過ぎている。7年前は異性だなんて気にせずに一緒に手を繋いで遊んだ。…入浴も一緒だったらしいが、それだけは都合よく記憶にない。別に記憶されていない事に不安があるわけではないが。


「悠太?」
「…あ、悪い。少し考え事してた。」


日直の仕事を終え、マフラーをした瀬名が俺の肩をちょんちょんと突く。瀬名がくすりと笑ったので、少し恥ずかしくなってマフラーで顔半分を隠した。




長い年月は人を変える。
瀬名も俺も当然変わったわけで。でも根本的なところは不思議なくらいお互いに変わってなかった。

逆に、変わったところを言うなれば、互いに異性として見るようになった事。幼い頃は同性と変わらない接し方をしていたし、恋愛対象で見る事もなかった。でも今は異性として見ている。それは同時に二つの意味を持っていた。


「…悠太?」
「…ん?あぁ、ごめん、何だっけ?」
「悠太、なんか今日おかしいよ?」


今日はやけに考え事をするな、と俺も思っていた頃だった。瀬名は少し頬を膨らませて見せると、そっと俺の額に手を当てた。ひんやりとした感触がじわりとする。うーん、と少し唸ってから、瀬名は手を離して言った。


「私の手が冷たいせいか温かく感じたんだけど、風邪ひいたんじゃない?」
「そうかもなー…」
「ちゃんと薬飲みなよ」
「うん」
「…」
「……瀬名、」


ポケットに入れていた手を出し、瀬名の腕を掴む。温かい空間から外に出した手に冷たい風が当たるたび、寒かった。
瀬名が不思議そうに俺の顔を見る中、俺は言った。


「瀬名、好き」


寒い中でも、俺の顔は湯気をふくぐらいに熱かった。また、それは瀬名も同じようで、恥ずかしいのか目を合わせてくれない。改めて自分の気持ちを口にするのも、恥ずかしいものだ。


「瀬名は?」
「や、やっぱり今日の悠太なんか変だよ…?」


本当に熱があっておかしくなってるのかもしれない。
でも、今は瀬名の口からある言葉がどうしても聞きたくて切れそうになる意識をなんとか繋いでいた。


「わ、私も悠太の事好きだよ。」
「…やっぱり嬉しいや…ははっ…」


緊張の糸が切れたように、瀬名の言葉を聞いた瞬間体の力が抜けてしまった。
あぁ、やっぱり風邪をひいているのかもしれない。



_







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -