弟日記



ガシャン

骨董物が割れる音に、向けていた参考書から目を話した。
しおりを挟み、音がした1階へと降りる。
其処には、やはりと言うべきか説教されているテルドの姿があった。彼の足元には無数の白い割れた食器の姿。彼はそれを無言で片付けながら、ヒステリックな母親の怒声を耳に浴びていた。

確か、あの食器はまだ真新しい物だった気がする。あれじゃ、すぐ解放して貰えそうには無いだろう。その証拠に、片付ける最中に母からの蹴りを頭に浴びているテルドの姿も時折見えた。

「(何で、こんなのと半分も血が繋がってるんだろう)」

昔から、彼が失敗を繰り返す度に自分はそう考えていた。
両親からも期待され、周りからの信頼も厚い自分に、こんな出来の悪い弟が生まれるとは考えてもいなかった。いくら歳の差が大きいとは言え、自分がテルドくらいの歳にはちゃんと言葉も一人前に話せていたし、全ての教科を満点取っていた。
無論、家の中でも自分は”良い子”。
両親の言う事は聞き入れ、片付けもし、中学生になって受験シーズンに入れば寝る時間も惜しんで勉強に没頭した。
大学を卒業した後は協会の高い役職に就くという将来まで約束されている。詰まらない人生だなと、自分でも思った。それでも、テルドよりはマシなのだろうが。

「パリストンも何か言ってあげてよ。こいつ、ほんと目障り」
「母さん、僕が叱っておくから母さんは休んでて下さい。家事ばっかりで疲れてるでしょう?」
「あら、じゃあそうさせてもらおうかしら。・・・パリストンは良い子ね、本当に。どっかの泥棒猫のガキとは違って!!」

母はテルドの頭をがしがしと蹴った後、荒々しくリビングを出て行った。きっと、協会で働いてばっかりいる父親のせいだろう。よくある話だ。自分よりも仕事を取るのか、と。

「(うんわー・・・面倒臭いなぁ・・・)」

チラッとテルドを見てみると、彼は黙々と彼なりに片付けしている様だ。だがどうにも彼には脳が無いらしく、手袋や箒などの道具もろくに使わず素手で片付けているため、彼の手は血だらけで、更に下には小さな血だまりが出来ていた。否、もしかしたら母の命令で素手で片付けているのかもしれない。だが、どのみち阿呆には違い無かった。どうせもう居ないんだし道具使えばいいのに。

「・・・ねぇ、母さんがそんな汚い床見たら発狂するよ」

汚い、とは勿論テルドの血だ。一定速度で零れ落ちるその赤い血は、見ていて気分が良い物は無い。
テルドは暫く俯き、そして片手で傷ついた手を抑えた。だが、その拍子で、持っていた破片が滑り落ち、再び床に落ちた。しかも落ちた先は最悪にも血だまりで、更に回収に手間がかかる。

「・・・まぁ、母さん今テレビに夢中だし大丈夫なんじゃあない?」
「・・・・・」
「(じゃべろよ)」

よく見るとテルドの顔には複数の痣がある。きっと、自分が学校に行っている間も虐待されていたのだろう。父は殆ど帰らないからバレる事は恐らく無いが。というか、バレても多分テルドは自分で転んだとかそういう言い訳をするだろう。
この家で、父親だけはテルドの事を愛していたし、テルドも父の事だけを信用していた。その証拠に、父と2人で居る時のテルドの表情は穏やかな物に見える。

仕方なく箒と雑巾を各所から持ってきて手伝ってやった。
自分が片付けている間、テルドは何か手伝おうとしていた様子だったが、邪魔、と一言だけ言うと尻尾の垂れた犬の様にしゅんとなる。それが何だか面白くて、バレない様に小さく口元を歪ませた。
が、馬鹿なくせにそれには気付いたのか、テルドは小さく首を傾げてこちらを凝視した。思わず冷や汗が垂れる。

「(うわ、こっち見るなよ)」

すぐに目を逸らせば良かったが何故かそれも出来ず、言い訳を探し、口を開いた。

「もうすぐ父さんの誕生日だね」
「・・・・・」
「何か、プレゼントするのかな?」

答えなんて期待していなかった。
もう殆ど片付け終わり、後は汚れた雑巾の処理だけだったので、その場の退屈しのぎのつもりで会話を続けただけだった。

テルドは何か言おうと必死の様で、あ、とか、う、とかそういう声がたまに聞こえる。
相変わらずしゃべれないんだな。それでも母はテルドを普通の学校に行かせる。障害者用の学校など、見っとも無さ過ぎて入れられないとの事だ。別にそういう学校のレベルが低いわけでは無いと思うのだが。

「、は・・・・はな、を・・・」

まさかちゃんとした単語を言うとは思わなくて、少しの間だけ硬直した。だがすぐに体勢を立て直し、花?と聞き返す。すると、テルドはこくんと小さく頷いた。女子かお前は。

「母さんならともかく、父さんは花じゃ喜ぶかどうか・・・」
「・・・・」

まぁ、母ならテルドからの物じゃ何を貰っても喜ばなそうだけど。
テルドは傷ついた様な顔して俯き、何も発しなくなった。そんなに父が好きなのだろうか。そう思うと、何だか少し腹が立った。誰が、勉強出来ないお前の為にわざわざ教えていると思っているんだ。誰が今、お前の為に掃除していると思ってんだ。

「じゃあ」
「・・・、?」
「一緒に何か、買いに行こっか。父さんの為にさ」

気付いたら、そう声が出ていた。すぐに我に返り、何いってんだ自分と思いながらテルドの表情を伺う。彼は少しびっくりした様な顔をして、そして目を細めて頷いた。いやいや、そこは断れよ。散々お前の事嫌ってる兄が誘ったんだぞ?馬鹿だろやっぱ。

「あー・・・じゃあ、日曜に塾のテストあるから、その後で良いよね?母さんには自分で言っておいてね」

そう迷惑そうに言ったのに、テルドはまた少し嬉しそうに頷いた。このファザコンが。

「(うーん・・・)」

何だか、妙な事になっちゃったなぁ。
目線を下に下げると、まだちょっと嬉しそうな表情のテルドが居た。










何という過 去 捏 造ァアアアアアア!!!((
実は最初はパリストンがテルドの事嫌ってます。そしてテルドしゃべりません。大人しいです。大人しすぎです。そしてファザコンです。
差が結構あったらいいなぁとかそんな妄想でした。もしかしなくても続きません。
・・・あ、そこ、石準備しないでお願いだから。





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