34 父親



「で。酔い潰れたと」
「本っっ当に申し訳ありません!」

一斉に頭を下げた試験官達は、よく見ると所々傷や痣の痕が付いていた。酒に弱い上に酔えば暴れだす。今は暴れ疲れて眠っている様だが、見る限りテルドの部屋はボロボロになっているだろう。勝手な事情で空き部屋を使うわけにもいかない。いくら協会内の仕事部屋とは言え、復旧するまで預からなくてはならないかと思うとパリストンは頭が痛くなった。

「まぁ、酒癖が悪いのは知らなかった様ですし仕方無いですよね。今日はもう帰って結構ですよ」
「ですが・・・」
「帰 っ て 結 構 で す」
「は・・・はい・・・」

さて、どうしたものか。寝息を立てるテルドを俵担ぎしたまま部屋に入り、扉を閉めた。こうなる事があったから、この前の試験の打ち上げには参加させなかったのだ。散々暴れて気持ち良さそうに眠るテルドが何だか憎たらしくて、パリストンはベッドに降ろした彼の頬を無言で摘まんだ。
事の始まりは、テルドが酒で暴れたのは彼が16歳の誕生日。酒が飲める歳になった事もあり、ネテロが悪戯でジャポンの上等な”日本酒”と言う物をプレゼントした。会長からの贈り物という事もあり断れず、テルドがそれを飲んでから結果は散々。病院に連れて行こうかと思ったくらい酒癖が悪かったのをパリストンは覚えている。本当にコレが自分の弟なのかと疑ったくらいだ。ただ、暴れた後は清々しいくらい眠る図太さは紛れも無く父親の物であった。

「・・・、ぅ」

何か夢を見ているのだろうか。テルドは目を閉じたまま顔を顰め、シーツをキツく握っている。ずっと静かに眠っていただけに心配になり、パリストンは棒ハンガーに上着を掛け、テルドの眠るベッドに腰掛けた。床に転がしておいても良かったが、流石にそれは人でなしかと考えてやめた。もし十二支んがこの光景を見れば、皆目を丸くして嘘だろと口揃えていうだろう。それほど、パリストンには珍しい行動だった。暫くして目が冴えてきて、パリストンはベッドから離れようかと考える。

「ぱ、・・・」

ベッドから腰を微かに浮かせたところでその声が聞こえ、パリストンは思わずその恰好のまま硬直する。次に来るであろう言葉を確信し、彼は口を薄く開くテルドから目を離せないでいた。

「パ、パ・・・」

風船に穴が開いたかのように一気に力が抜け、パリストンはそのままベッドに深く尻を沈める。そして、頬に手を着きながら深い後悔の溜息を吐き出した。

「何だ。父さんか・・・」

彼等の父は酒癖は悪かったものの、普段は心優しい良き父親だった。子供達に平等な愛を分け与えていた父親を、テルドが好かないはずが無かった。それにしても、夢に出るくらいなら相当なのではないか。いつもツンツンな彼がファザコンだとは変な話である。

「(・・・何、落胆してるんだ)」

いつの間にか頬杖していた手が口元に寄せられていた。パリストンはあまりの疲労にため息を吐き、占領されたままのベッドをぼんやりと眺めた。やはり父親の存在は偉大である。




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