★ 君は"親友"であり"パートナー"だから






「モネ様ー!」
「ん?」


食事中の私へハイデルベルグの兵士達が慌ただしく駆け寄ってくる。
ガシャガシャと鎧特有の音を出しながら私の前に兵士達が到着すると、暫くゼェゼェと息を切らし呼吸を整えるのを私は嚥下しながら不思議に見遣る。
次に口に入れていた食べ物をモグモグと噛みつつ、飲み込み、首を傾げると兵士達全員で敬礼される。


「「「「お疲れ様ですっ!!モネ様っ!!」」」」
「お疲れ様。皆そんなに慌ててどうしたんだい?もしかして任務かな?」
「は、はい!ですが今回も……その、例の天才客員剣士様とでして…。」
「天才客員剣士様、ね?なるほど、彼と任務か。最近多くなってきたね。」


目の前にある食べ物を最後の一口、食べてしまえば兵士達は僅かながら嫌そうな顔をしていた。
彼の事でそういった顔をしているのは最近ずっとだ。
理由としては……


「彼はモネ様をセインガルドへ連れていこうとする不届き者ですよ。モネ様はハイデルベルグの大事なお方なのに!」
「ははっ!ありがとう?皆にそう言って貰えるなんて嬉しいよ。」


机に頬杖をつきニコリと笑えば、兵士達はガシャンと音を立て手に持った武器を床に突き、敬礼をした。
それに苦笑いをして見遣れば、兵士達は任務の内容を話し始める。


「かのセインガルドとここハイデルベルグの友好協定として来月、盛大なパレードが行われるんです。」
「(…?セインガルドとハイデルベルグは友好関係にあったのか。それは知らなかった…。)………それで?」
「はい。そのパレードが組まれた国家行事は、両国共に友好であることを他の国や自国の民へと示さなければなりません。そこで、両国から選出された兵士や騎士で今回の目玉となる“友好パレード”を成功させなければならないと、陛下から聞いています。」
「(何か嫌な予感がしてきたぞ…?)」
「今回、その“友好パレード”のメインに立ち演目を披露して頂くのが……」
「天才客員剣士様と私、という事か。」
「そうなんです。」


なるほど。
それはまた、陛下はかなりリスキーな事を。
私はハイデルベルグの出身といえど、ここの兵士でも騎士所属でもない。
それを正に代表として出すのだから、かなりリスキーだと思う。


「彼はどう言ってるんだい?」


少し気になる彼からの評価は……?


「寧ろ、ペアでの演目となった時に彼の方から名指しだったとも聞いています。陛下もそうお考えだったようなのですぐに了承された、と…。」
「ふむ…なるほど。」


彼から友達だと言われた時、私はとても嬉しかったんだ。
彼もそう思って私を選んでくれていたなら、嬉しいものだ。


「今回の演目は市民等に見せる為のものですので、剣技による武術などではなく、カラーガードと呼ばれる演目でパレードの華を飾ってもらう、と陛下が仰られてました。」
「カラーガード…?……すまない。浅学なもので、そのカラーガードなるものを知らないんだが…。」


聞いたことがない演目だ。
てっきり剣舞かと思っていただけにその注文は中々斬新というか、斜め上というか…。


「カラーガードのカラーは所謂“国旗”や“フラッグ”という意味でして。」
「早く言えば、“旗を使った演舞”になりますね。」
「ふむ?」


実際に見てみないことには難しそうな演目である。
まぁ彼も居ることだし、一応引き受けておくか。


「出来る出来ないは後回しにするにして…取り敢えずその任務、承るよ。」
「「「承知しましたっ!モネ様!」」」


敬礼をして返事をする兵士達に、堅い堅いと言ってやるもそれを変える気は無さそうだ。
任務内容を伝え終わったからか撤収する兵士達をボーッと見つめ、一度気持ちを切り替える為に私は大きく伸びをした。


「んー!…はぁ。さて、行きますか。」


勿論。
レディの元へ、ね?






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇








「やっほー?元気にしてたかい?レディ。」
「だから!僕はレディじゃないと何度言えば分かるっ!?」
『あ、モネ!久しぶり…でもないですね。』
「そうだね。久しぶり、ではないかな?この間の任務ぶりではあるけども。」


セインガルドへと訪れた私は、いの一番に彼の元へと訪れていた。
例の任務を聞かされているようで、彼の近くには大きな旗を持った人が何人か集合していたので軽く挨拶をしておく。
どうやら今日は彼らがカラーガードのお手本を見せてくれるようだ。


「整列っ!!」


一番前にいた男が仲間達を振り返りそう叫ぶ。
その瞬間、ピシャリと縦も横も整列した彼らに賞賛の賛辞と拍手を贈る。
隣にいる友は相変わらず腕を組んではそれを見て、早くしろと目で訴えかけているようだったので肩を竦めた。


「よろしくお願いします!!」


そう言うと、周りにいたマーチング用のブラスバンドが曲を演奏し始める。
それに従って目の前に整然と列を成した男性達が曲に合わせ、綺麗に動き始めた。
一糸乱れぬ隊列に、旗の動きも揃っていて見栄えがとても良い。
特に前の方で動く2人は恐らく私達の振り付けになるだろうからしっかり覚えなくては…。


「………おぉ。なるほどね…?」
「……。」


あくまでも今回は両国の友好関係を見せびらかす為のパレード。
だからどちらか一方だけ派手で動くという訳じゃない。
勿論中にはソロパートもある。
だが、ちゃんと同じ数のソロパートが組まれているし、2人で協力しないとこれは絶対に成功しないだろう技が組まれていて納得した。
あの大きな旗を動かす事も、パレードと言うだけあって歩きながら演舞しなければならないことも含め、これは一筋縄じゃいかなさそうである。


___ジャン!


フィニッシュを決め、荒い息を繰り返す彼らに盛大な拍手を送り、そして労う。
素敵な演目だった。
何も文句なしの演舞だ。


「いやぁ。プロは流石に違うね?」
「…ふん。」


私達がやる動きを披露してくれた2人が近寄ってお辞儀をする。


「如何でしたでしょうか?」
「先程の動きに、更にお2人には少し難易度を上げ、晶術を組み込んだ動きにして頂きます。」
「なるほどね?それこそ、私達にしか出来ない演舞、という訳か。」
「その通りでございます。」


2人で協力しつつ、尚且つ晶術を完成させ派手にしていくわけだ。
先程から何も言わない彼を不安に思ったか、近寄ってきてくれた2人は彼へ不安そうな顔を見せる。


「ふふ。大丈夫だよ?彼はやる時はちゃんとやる人だからね。今回もちゃんとやってくれるから安心するといい。」


何故お前が答える、という視線を彼から貰ったが見えないふりをして目の前のダンサーにお礼を言う。
ホッと安堵したような顔で肩を落とした2人はその後私達に基礎や振り付けを付きっきりで担当してくれた。
そして___


クルクルクル……


私は元々そう言った才能に恵まれていたのか、何回かやるうちにコツを掴んできて、今ではちゃんと旗の布地部分を持ち手に絡ませずに回す事が出来ていた。
また、旗を空中に投げ何回転かさせた後にキャッチする事も出来るようになっていた。


「スノウ様は飲み込みが早いですね…!」
「ふふ、ありがとう?でも、こればかりは君の教え方が上手だからだと思う。だからもっと自分を誇るといい。」
「…! はい!!」


私に褒められて喜んでいる可愛いカラーガードの先生にニコリと笑いかけた。


「///」
「しかし…何故貴方はカラーガードを仕事にしようと思ったんだい?これくらいの器用さなら他にも就ける仕事くらいあるだろう?」
「私は昔からこの職業に憧れてまして。夢がやっと叶ったと思ったらこうして国の偉い方への指導を頼まれることになり、恐縮の極みでした…。ですがこうしてスノウ様の担当になって気付いたんです。もっとカラーガードを広めたい…、魅せたいなって。」
「なるほど。そこまで信念があるなら私から言うことはないよ。聞かせてくれてありがとう。この仕事、とっても素敵だよね?」
「っ、はいっ!!!」


喜びが最高潮に達し、旗を握り締め嬉しそうに私の先生は敬礼していた。
それに笑顔で返し、彼の様子を窺う。
すると私達よりも先に進んでいることが分かり、ほうと感嘆する。


「ははっ!こっちも負けてられないね?先生?」
「はいっ!向こうよりも先に完成させてしまいましょう!」


意気込んだ可愛らしい先生に頷き次のステップを教えてもらう。
その時間、約数時間にも満たなかったように思う。
確実に成長していってるのが、肌やその場の空気感で分かった。

各自振り付けを覚え、合わせ稽古になるにもそんなに時間がかからなかったように思えたくらい、私達はカラーガードに向いていたらしい。
日々剣を握り、魔物と戦っているから旗を振る膂力などは十分にあっただろうが、旗を上げ綺麗に魅せる技術というのは相当時間をかけないと通常は習得出来ないそうだ。
それを聞くと何だか嬉しく思う。
何かに秀でて悪いことはないからね。


「では!通しでいきます!」
「お互いの位置を確認しつつ、フラッグを回してください!」
「了解。」
「ふん。足でまといになるなよ?」
「ははっ!善処しますよっと。」


お互い位置につき、旗を綺麗に見せる為に斜めに持つ。
初めの位置はこの位置から…。
そして曲が始まってからは彼の旗と交わらせる…!


__スチャッ!


「「!!!」」


__クルクル…パシッ!



旗を前面に綺麗に魅せる。
縒れることは許されない。
そして、機敏に動き一つ一つの動作は締まりがあるように一度止める!
旗を振る際は布がはためき、綺麗に靡くように!


__クルクル、スチャッ!


「すごい…。」
「モネ様っ!その意気ですっ!!」


__クルクルクル……トスッ



そして遂にその時は訪れる。
音楽が終わり、最後に彼の旗と交わらせれば自然と彼と視線が交わった。
そのままの位置でお互いに止め、呼吸を整える。
……最初にしては良い出来ではないだろうか?


パチパチパチッ!!!


周りにいたカラーガードの人達からも歓声や拍手を貰い、彼も私も自然と笑顔が零れた。


「す、すごいですよ?!おふたりとも!!」
「初めてでこの域とは…!お2人は既に息の合うご友人のようですね…!!」


友人と言う言葉にリオンが反応した事にスノウが気付き、微笑みを向ける。
それに顔を真っ赤にさせ視線を逸らせた彼は持っていた旗をわざとらしく私と彼の間に持ってきた。


「(ふふ…!可愛いなぁ…。)」
「早速ですが、次の段階にいっても良さそうですね!」
「お次は晶術を混じえながらの練習です。」
「ここが鬼門となりそうだね。」
「はい。私達は晶術が使えませんから、こればかりはお二人の知恵や経験で補ってもらうことしか出来ません。具体的な案はこれからお二人を交えてお話する予定でしたので、話をする前に一旦休憩にしましょう!」
「そうしようか。君たちもお疲れ様。」
「「お疲れ様です!」」


2人は敬礼してその場を後にする。
残った彼に飲み物を持ってこようと私もその場を後にすると彼が声を掛けてくる。


「……中盤の旗回し。あそこがお互いに乱れていた。」
「おっと、勤勉だね?流石に国家プロジェクトとなると君もかなりやる気がある様に見える。」
「当然だろう?僕達のこれだけでもかなりの影響力がある国家行事になる。……下手な事は出来まい。」
「それもそうか。分かったよ。中盤、ね?」
「それから振り上げる旗の高さを合わせた方がいい。今のままじゃ不格好だ。」
「ふふ。はいはい。初回にしては上手くいってたと思ったけど、君からしたらまだまだだった、という事だね?」
「改善点だらけだ。」
『流石坊ちゃんですねぇ!僕からすると一糸乱れぬ動きだったと思いますよ?』
「お前の目は節穴か。……大体、僕にも非はあるがお前は僕を気にしすぎだ。位置確認をしろと言われたがあれじゃあ見る側におかしいと思われるだろう?」
「ははっ!!はいはい。」


私は水の用意をしながら彼のお小言を聞いていた。
彼は完璧主義者だからね。
何でも卒無くこなしたかったんだろうが、今回ばかりは相手がいる演目なのでそうもいかなかったのだろう。
可愛らしいお小言だ、と笑って聞いていれば真面目に聞けと怒られる始末。

コトリと水の入ったコップを彼の前に置けば、彼は遠慮なくそれを飲み干した。
……喉が渇いていたんじゃないか。
呆れ笑いをしつつもう一杯水を取りに行き、休憩のはずなのに先程の練習の改善点をお互いに出し合う羽目に。
これが私でなかったら恐らく逃げ出す人も居ただろうな…。


「おい、聞いているのか?」
「聞いてるよ。後半の旗同士の交わり部分だろう?」
「あぁ。だからあそこは───」


熱弁して話す彼の声を聞き、そして笑顔で頷く。
私としては束の間の素敵なひと時だ。
……この時代の私の最期を思えば、彼とこんな事が出来ること自体とても喜ばしい事なのだから…。
今世は短い人生だからこそ、今を謳歌しないとね。


「(…………memento mori…か。)」


ハイデルベルグにある願いの叶う店、エニグマのいる店でいつも彼女が言ってくれる言葉だ。

“死を意識しなさい、死を忘れるな、自分が必ず死ぬということを忘れるな”という意味であり、その言葉は私に対しての彼女の別れの挨拶だ。
どんなに今が幸せだろうと訪れる最期を忘れるな。
彼女が私にくれた手向けの言葉。
今世では何より大事な言葉だ。


「?」


眉間に皺を寄らせ、怪訝な顔をする彼に何でもないよ、と笑って返す。
……私は必ず彼を…友を救ってみせる…。
例え私が死のうとも、後は彼の幸せを願うのみだ。
君の大好きなメイドと__マリアンと幸せにやってくれ。


「休憩が終わりますが、大丈夫でしょうか?」
「あぁ、構わないよ。こっちはこっちで彼の意気込みをずっと聞いていたからウズウズしているよ。」
「なっ、」
「流石ですね!お2人とも!では、晶術での旗上げですが…」


私は一度気持ちを切り替え、今目の前のことに集中する。
でなければ、隣にいる彼からまたしてもお小言を言われるだろうからね。




しかし、やはりここからが鬼門だった──







__ガチャン!!





晶術や魔法を混じえようとすると上手くいかなくなってしまっていた。
何故ならば……


「くっ!」


彼の晶術はシャルティエを通して発動させるものだ。
旗を持ちつつ尚且つシャルティエに触れ、集中し、晶術を完成させなければならないのだから…上手くいくはずもない。
反対に私は詠唱なしでも簡単な魔法を発現させられるため、そんなに苦労はしないのだ。


『うわぁ、厳しいですね…。一気に難易度が上がった気がします。』
「うん、そうだね。君達は特に…晶術に関して、2人の息を合わせないといけないからね。」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……。」


彼の息が上がっている。
これは一旦休憩を挟むか…。


「すまない。一旦休憩を──」
「構うな。……はぁ、続けるぞ。」
「……そうか。」


彼の意思は通したい。
でも、それで怪我をしたら元も子もない。


「じゃあこうしようか?もう一回やるけどそれが終わったら休憩にしよう。」
「なんだと…!それじゃあ来月に間に合わ──」
「あー、指が痛いなぁ…?……あー、いててて。腰が痛くなってきた…!誰か叩いてくれんかのぉ?」


わざとらしくそう言えば、彼は顔をかなり歪めた。
それは想定内なので、私は苦笑いをして彼を見る。


「焦るのは分かる。でもこれは君だけの演目じゃないんだ。私もいる。」
「だったら!」
「だからこそ、本番で万全の状態にしないといけない。……もし、どっちかが怪我でもしたらどうするつもりなんだい?」
「そんなの怪我だろうがなんだろうが、やり通すに決まっているだろう?!そんな事で中止など出来る訳がない!!」
「……ふむ、なるほどね?」


今の彼は感情的で意固地になっている。
いつもの彼なら少しは分かってくれる部分だと思っていたからこうして話してはみたが……まさか晶術のことで彼をここまで追い込んでしまうとは。

しかもまだ初日なのだ。
これでは上手くいくものもいかなくなるかもしれない。
その証拠に周りの空気は最悪で、猛吹雪の中にいるかの様に冷たくなっている。
ヒヤヒヤしてこちらを見ているカラーガードの人達。
“どうしたらいい?”
そんな眼差しを誰もが彷徨わせていた。


「……分かった。じゃあ練習を再開させようか。ただし、一つだけ条件がある。」
「なんだ。」
「怪我をしたらすぐに練習は中断する。君を気絶させてでもやめさせる。いいね?」
「そんなの…!」
「駄目とは言わせないよ?これが呑めないなら、今日の練習は中止だ。」
「くっ…!」
『坊ちゃん……。』


シャルティエが心配そうな声を出すも、口を挟む気はないらしい。
暫く黙っていた彼だったが、拳を握りしめ渋々頷いた。


「(彼の境遇もあるからあれくらい必死になるんだろうけど、ね?分かってる……分かってるけど…。君に怪我をして欲しくないんだ。)」


周りからの期待、父親からの期待、マリアンに褒められたい、愛されたいという気持ち……。
その全てが今の彼に大きくのしかかって、プレッシャーになっている。
だから初日からこれほど飛ばして練習していることなど、私から見れば分かりきったことだった。
周りは彼の境遇を知らないから。
だからどうしたらいいか、と戸惑っているのだ。


「……さぁ!練習を再開させよう!来月に向けて、ね?」
「「「「…! はいっ!!」」」」


この悪い空気を打ち砕くかのように手を叩き、努めて明るい声で周りを促す。
そうすれば幾分か良くなった空気で周りが動き出す。
先生も戸惑いながらも私たちの近くに寄り、練習の再開を確認する。


「えっと、練習でいいんですよね?」
「あぁ。すまなかったね。練習再開といこう。」
「分かりました!では練習を──」
「何だと…!!!」


彼が突然怒り出し、シャルティエを取り出すとその場に投げつけた。
凍り付く練習場、凍り付く皆の表情……。
あちゃあ、と頭を押さえるとリオンはシャルティエを置き去りにして外へと飛び出して行った。
暫く動けない空気が張り詰めてしまい、やれやれと私は肩を竦めシャルティエの所まで行き、彼を持ち上げる。


「随分とご機嫌ななめだね?レディは。」
『すみません…。僕が余計なことを言ったから…』
「ん?彼に何か言ったのかい?」
『モネに少しだけ手伝って貰ったらどうかって提案したんです。』
「ほう?君がそんな提案するなんてね?」
『どうしたって僕達は晶術に関してはモネより劣る部分がありますから。坊ちゃんは…それを気にしてるんです。』
「?? 私なんかより君たちの方が威力も段違いじゃないか。」
『総合的に言えば今のモネの晶術体系は最先端をいってると言ってもおかしくはないんです。通常、晶術はソーディアンマスターで、ソーディアンを持っていなくちゃ発動しません。それがモネは違う…!無詠唱でも、どこでも発動出来るんです。モネを友と思ってる坊ちゃんは、同時にモネをライバルだとも思ってるんですよ。だから…』
「私に負けたくなかった、ということか。……レディらしい、可愛らしい理由だ。」
『怒らないんですか?』


驚いたように声を上げるシャルティエに私は声に出して笑い、首を横に振る。
彼が負けず嫌いなのは前世で知っているから。


「彼の気持ちは分かるよ。後は彼次第だ……と言いたいところだけど…。今回は流石に友やライバルの前に大事な大事な私の“パートナー”だからね?」
『…!! ……ありがとう、モネ。坊ちゃんを見放さないでくれて…。』
「ふふ。こちらこそありがとうだ。そうやって感情的になるくらい、彼はこの仕事を必死でやり遂げようとしているし、私に必死に訴えかけてくれている。それが、私には嬉しいんだよ。」
『モネは大人ですねぇ…?坊ちゃんが敵わないはずです。』
「そうでもないよ。彼にはいつも助けられているから。」
『??』
「こっちの話だ。」


シャルティエとの話を終わらせ、練習場を見渡す。


「すまない!練習を中断させてしまった!彼の事は私に任せて欲しい!」
「だ、大丈夫ですか?」
「私共に何か出来ることはありますか…?」
「ふふ。ありがとう?じゃあひとつお願いがあるんだけど──」


私はとある提案を持ちかける。
それにカラーガードの皆は真剣に頷いた。
真面目な彼らの事だから、きっと引き受けてくれると思ったよ。


「じゃあ、頼んだよ?」
「「「はっ!!」」」


敬礼を見届けてから私は外へと向かった。
得意の探知で彼の居場所を特定し、そこに向かうと……


「なるほどね?……これは私の出る幕じゃなさそうだ。」
『えっと、……すみません…。』


彼が居たのは彼の自宅である屋敷だった。
恐らく今頃、マリアンに色々と相談していることだろう。
仕方なく肩を竦めた私は、彼の屋敷の外で待つ事にした。
……まぁ、彼が戻ってこないならそれでもいい。
その時はシャルティエを屋敷の誰かに預けて1人で練習に勤しむだけだ。


「……。」


屋敷の周りを囲う外壁に背を預け、ひたすらその時を待つ。
仕事人間の彼だから戻ってくるだろうけど、これは……


「彼にも考える時間が必要、か…。」
『………。』


長らく待ってみたが、彼が屋敷から出てくる事は無かった。
流石にカラーガードの皆を待たせているし、私はここでお暇させてもらおうかな。

丁度買い物帰りなのか、メイドが一人屋敷の中に入ろうとしたのでそれを引き留め、シャルティエを預ける。
戸惑うメイドには悪いけど、今度お礼とお詫びをすることにして私は彼の屋敷を後にした。
きっと彼は戻ってくる。
だから私は私で練習して、あの場所で彼のことを待つのみだ。


「……ここは暖かいな…。何時でも。」


セインガルドの気候は私には暖かく…いや、少し暑いくらいかもしれない。
雪の降らない、いつもとは違う快晴の空を見上げ私は大きく息を吐いた。








彼が脱走してから一週間が経った。
未だに彼は練習場に姿を見せていない。
でも、私は信じているから。
彼がここに戻ってくることを。


「──1、2、3、4! 1、2、3、4!」
「っ!」


大分魔法の完成度も上がってきた。
今回私が請け負う魔法は氷属性…。
ファンダリアの雪に見立てた演舞という訳だ。
彼はシャルティエの影響で地属性しか使えないが、私の方は割と自由の効くラインナップなのでやれと言われれば他属性でもこなせる。
だから彼が難しいのならばフォローしてあげたい。
でもそれでは彼は納得しないだろう。


「1、2、3、4! 1、2、3、4!」
「__(フリジットコフィンっ!)」


そう、魔法の完成度は上がっている。
だが、リズムに合わせての魔法のタイミングが非常に難しい。
詠唱を省く分、タイミングは合わせやすい筈なのだが…。


「はぁ、はぁ…。」
「ストップ!! 大丈夫ですか?!」
「あぁ、大丈夫だよ…。はぁ、はぁー……。」


何故だかそれだけは上手くいかない。
魔法は発現し、ちゃんとした形は取れているものの…。


「ふぅ…。まだまだ、だね?」
「お疲れ様です!でも大分仕上がってますよ!」


いつも私に教えてくれている先生が労いの言葉を掛けてくれ、飲み物も渡してくれるのでお礼を言い受け取る。
その場に座り込み、暫く休憩すると先生が腕や足の調子を見てくれる。


「足とか腕には問題なさそうですね。」
「ありがとう。特に痛みもないよ。」
「それなら良かったです。しかし、モネ様はあんまり筋肉とか付かないタイプですね?まるで女性のようなしなやかな腕です。」
「ははっ。よく言われるよ。いくら頑張っても筋肉がつかないみたいなんだ。困ってるよ。」
「ふむ。食事とかどうですか?ちゃんとタンパク質とか摂ってますか?」
「鶏肉とか食べてはいるよ?」
「それだけじゃ駄目ですよ!豚とか牛とか………そういえば、モネ様の食事風景って見たことないですね?…ちゃんと食べてるんですかー?」


疑わしいという目で見られてしまい私は笑って誤魔化し、勢いよく立ち上がった。


「よしっ!もう一回やろうか!」
「あ!!逃げた!!」


先生も笑いながらそう言うのでこちらも笑って誤魔化し、早速練習に入る。
今度こそ、タイミングを合わせる様に――


「っ?!」


魔法を意識するあまり、旗が足に絡まり転びそうになる。
そして旗の棒の先端部が目に―――


「っ…………?」


いくら待っても目に衝撃も来ない。
かといって転んだ衝撃もない。
咄嗟に瞑ってしまった目を薄ら開けると目の前には怒ってるような…友の顔があった。


「僕には怪我をするなと言っておいて、このざまか。」
「…!リオン!!」
『あっぶないですよ?!あのままだったら失明しかねませんよ!!あー、こわ…。』


激しい点滅と共にシャルティエが大声で叫ぶ。
呆然としていると、ドサッと落とされお尻や腰を打ち付ける。


「いた、」
「ふん、自業自得だ。阿呆。」
「どうしてここに……っていうのはおかしいね。君がここに戻ってくるって信じてたのに、これじゃあ説得力がないじゃないか。」
「……ふん。」


腕を組み視線を逸らせた彼だが、シャルティエだけは嬉しそうにコアクリスタルを光らせていた。
先生が慌てて駆け寄ってくれて足や腕を見てくれる。


「…ほっ。捻挫とかなさそうですかね…。」
「あぁ、心配かけたね。旗が絡まって転んだだけだから大丈夫だ。」
「あのままだと失明していたがな。」
「ははっ、厳しいね。」


確かにあのままだったら目に当たって最悪失明しかねなかった事故だ。
少し根を詰め過ぎたのかもしれないな。


「…もう少し早めに唱えろ。」
「え?」
「晶術のタイミングが合わないのは、お前自身が曲を意識しすぎているからだ。だから曲を意識することなく、もう少し早めのタイミングで唱えたら問題はない。」
「リオン…!」
「っ。分かったならさっさとやってみろ!」
「ははっ!了解だ。」


立ち上がり先生の掛け声で試してみる。


「(曲を意識せず…早めのタイミングで…)__っ!(フリジットコフィン!)」
「「「「!!!!」」」」


先生も、見守っていた他のカラーガードナー達も驚いたように目を見張る。
その中でもリオンだけは腕を組んで、出来ると確信的に笑みを浮かべていた。
そう…あんなに苦戦していた魔法が成功したのだ。
荒い息を呆然と整えながら、旗を降ろすと何だか達成感が湧き上がってくる。
そして、この場所に大きな歓声が沸き上がった。


「「「「おぉーーー!!!」」」」
「はぁはぁ、はぁ…。」


先生が特に嬉しそうに肩を組んでくるので、私は笑いながらそれを受け入れた。
リオンも近くに寄って笑みを浮かべている。


「ふん、やればできるじゃないか。」
『綺麗でしたよ〜!モネ!』
「ありがとう…。」


私は疲労のあまりその場に倒れ込んだ。
それに慌てた様子で先生とリオンが顔を覗き込んでくれる。
でも私の顔が嬉しそうに笑顔だったからか、リオンは呆れた顔で溜息を吐き、先生もホッと胸を撫でおろしていた。


「おかえり、リオン?」
「……ただいま…。」


ぼそりと呟かれたそれにふふ、と笑みをこぼす。
その瞬間。
その場にいたカラーガードの皆が整列を始め、先生たちが何やら機敏に動き始めたことにリオンが不思議そうに見つめる。
そして――


「敬礼っ!!」


リオンに向かって敬礼すると、曲が流れ始め演目が始まる。
統一された隊列、そして狂いのない旗の動き。
演目が終わると皆はビシッと決め、大声で叫ぶ。


「「「「「「お帰りなさい!!リオン様!!!」」」」」」
「!?」
『はは…!いつだったかモネが頼んでたやつですね!』
「そうだよ、シャルティエ。ようやく日の目を見れたね。」
「何を…」
「レディ。」


私は気怠い身体を起こし、リオンを見つめる。
そして彼の頬に手を当て、優しく見つめた。


「まだ時間はあるし、焦る必要はない。だから私たちに合った速度でやっていこう?大丈夫、私達ならちゃんと出来るよ。だって私たちは"親友"だろう?」
「…!」
「それに今は私の大切な"パートナー"なんだから。…だから、お互いに弱点はカバーしあって、成功させよう?」
「…足手まといになるなら置いてくからな。」
「はは、怖い怖い…。君に置いていかれない様に頑張りますかね?」


その後、私たちはあくる日もあくる日も、練習に励んだ。
お互いにミスを修正し、よりよくするために話し合って…。
遂に完成したのはこの企画が始まってから3週間ほどだった。
こんなにも早く完成するとは思わなかったけど、後はひたすら微調整を繰り返すだけ。



__本番当日。

私たちはいつもと違う衣装に身を包み、両側で楽しみにしている群衆の中央入り口に立っていた。
遂に、国家を上げた大切で重要なパレードが始まる…。


「レディ?」
「だから、レディじゃないと何度言えばいい…。」
「毎日こうやって顔を突き合わせてた分、何だか今日で終わるのが寂しいね?」
「……別に、会おうと思えばまた会えるだろう…。」
「ふふ、そうだね?」


ばさりと旗を揺らめかせ、私はゆっくりと思いを馳せる様に目を閉じた。
そしてお互いに顔を見合わせ、拳と拳をこつんと合わせる。


「さあ、開幕だ。」


私たちはそのまま歩き出し、パレードの始まりを予感させるようなそんな緊張感をもってお互いの旗を交差させた。
そして曲が何処からともなく流れ始める―――












え?
パレードは成功したか、だって?
勿論成功したね。
それは、これを見ている君なら何となく分かったんじゃないかな?


リオンを助け…スノウとなった今では懐かしい記憶で、大切な記憶…。
君と私が、頑張った証…。







【君は"親友"であり"パートナー"だから】



「(あの経験があったからこそ、今の私達があるんだろうね。…ね?そうだよね、レディ?)」
_12/40
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