NEN クエスト編(短編) | ナノ







▲カジノのディーラー側と女性客側となって、迷惑な客を懲らしめろ!




▲カジノのディーラー側と女性客側となって、迷惑な客を懲らしめろ!
短編であった夢主のディーラー姿がとても格好よかったので、他でも見たいです。
あと、リオンの女装も好きだったのでそんな二人が合わさった特別な任務をお願いします!!








「頼むよっ!昔の頼みで!」
「……。その依頼、私一人だけなら受けたけどね…? 流石にレディを巻き込む訳には…。」


そう言って、スノウが背後でこちらを訝しげに見るジューダスをそっと覗き見る。
スノウの行動一つひとつを監視するかのような、その態度にスノウが困った顔で笑っては嘆息する。




スノウ達がこうなったのは数刻前の話だった。
二人で街の中を歩き、旅の準備をしていた時の事。
話しながら歩いていた二人の前に突然、男が慌てた様子でスノウに駆け寄り、息を切らしながら肩を掴んだ事が始まりだった。
その息を切らす男に見覚えのあったスノウ。
しかし、前世でリオンだったジューダスには、彼は見覚えがない。
それもそのはず、この男はこの街のカジノを営むオーナーだったのだから。
前世でお世話になった事もあるスノウからすれば、ジューダスにはあまり同じ場所にいて欲しくない人物である。
スノウはオーナーの肩をサラリと掴み、ジューダスから離れる形で巧妙に誤魔化しながら道を外れる。
しかしそれを許すはずもないジューダスが二人を制止した。


「待て。何処に行くつもりだ。」
『そうですよ!こんな怪しい人物と2人きりになるなんて危ないですよー?』
「いやぁ…久しぶりに会ったから少し話がしたくなってね? 少しだけだから君達はここでちょっと待っていてくれないか?」


そう言って最初のくだりに戻るのである。
まるでスノウと男を監視する様なジューダスの目付きに、スノウも苦笑いをし、オーナーは緊張を孕んだ顔でそれを無視する。
しかし、そのオーナーの依頼はあまりにも危険すぎた。
もしこれで下手をすれば、オーナーの経営するカジノは閉鎖となるだろうし、ジューダスは何処かの人攫いに攫われてしまうかもしれない。……なんと言っても、そのジューダスの格好は────カジノの客を装った女性客に扮しているのだから。

そんなレディを人攫いに攫われてしまったら正気でいられない確信のあるスノウとしては、なんとかその依頼を1人で受けたいと思っていた。
そうすれば、誰もジューダスの可愛い姿を見て攫おうなんて大胆な行動に出ないはずだからだ。
そうしてスノウの目の前にはオーナーが手を合わせながら頭を下げており、何とか2人で解決して欲しいと話している。
頭を掻くスノウを背後から見ていたジューダスは、何となく厄介事だと分かってしまい、2人の横へと移動してきた。


「……お前、何も言わないが…厄介事じゃないだろうな?」
『えぇ?!そうなんですか?!』
「あーあ、君が来たらダメなのに…。」
「頼むっ…! このとおりだ!!!」
『うわ…。本当に厄介事じゃないですか……。』
「何を頼まれている? こいつに何を言われた?」
「うーん…。まぁ、色々と…ね?」


それでもやはり言葉にするのを渋ったスノウを見て、ジューダスが事の発端であった男を見下ろす。
その視線を感じた男は緊張を帯びた顔をしながらも顔を上げ、ジューダスの視線を真っ向から受け止めた。


「あなたに女性の格好をしてもらって、モネ様と一緒に客をどうにかして貰いたいんですよ!!!!」
「は?待て…。何故そんな話になる? 何故僕が、女装をしなければならない?」
『うわぁぁ…。また坊ちゃんのドレス姿を見ることになるなんて…。』
「黙っていろ、シャル。」


いつもならシャルティエから変なことを言われても、他の人がいる前では無視を決め込んでいたジューダスが、今回ばかりは困惑が上回ったか、シャルティエに話しかける始末。
どうやらそれほどまでに動揺しているようだった。


「実はかくかくしかじかで…。」
『あー…なるほど…。確かにそれなら坊ちゃんが客寄せの担当になって、女装した方が身のためですよね…。』
「はぁ?何故そこまでやる必要がある?」
『だって坊ちゃん、ディーラーなんて仕事、今までにやった事ないじゃないですか! それに、ディーラーならスノウの方が何倍も安心しますし…………何より、考え方次第では、スノウに危険が及ぶのを防ぐ事も出来ますよ?』


そこまでの説得をされ、流石のジューダスも黙り込んでしまう。
先程のシャルティエの言葉にも一理あるからだ。
もしこれで、スノウが艶やかな女性になどなってしまえば、そこら辺の男が黙っていない。
何らかの理由をつけてスノウに声をかけては何処かへと連れ去ろうとするやもしれない。
そうなるとジューダスが女装をした方が堅実だと思われた。


「…………分かった。」
「…!」


嫌々ではあるが、ジューダスがその場で返事をする。
その返答を聞いて、目を大きく丸くさせたスノウは、その視線をジューダスへ向ける。
彼なら絶対にこの依頼を断ると思っていたからだ。
それならば1人で依頼をこなすという大義名分が出来上がるため、しばらく傍観をして黙っていたのだが……。


「…私は反対だ。レディにその役目をやらせる訳にはいかない。」
『…!!』
「……。」
「だ、だって本人が良いって…。」
「客寄せも、その客の後始末も私が全てやる。君なら知っているだろう?私の実力を。だから、彼を巻き込むのは私が許せない。」
「そうか……。モネ様がそこまで言うなら、リオン様には…」
「待て。」


男の言葉が聞き終わる前に動き出したスノウの背中にジューダスが強く呼び止める。
珍しく怪訝な顔をさせて振り返ったスノウに、シャルティエが物珍しそうにコアクリスタルを密かに点滅させる。
そんなスノウに物怖じせずに、腕を組んで睨み返すジューダス。


「僕がやると言ったんだ。その話を無かった事にして貰っては困るが?」
「君は分かっていない。あの場所の危険性を。独自のルールを。…君は何も知らない。そんな場所に君を連れていきたくない。」
「ならば、尚更行かなくてはいけないようだな。そんな場所にお前を1人置いとく訳にもいかない。僕としても、これは譲れない。」
「……。」


余計に険しい顔になっていくスノウをヒヤヒヤしながら見る男だったが、肝が細い割にジューダスの決断には大賛成な様で、遂にはジューダスの味方とも取れる言葉を重ねるものだからスノウも男を見て諦めた様に大きく嘆息した。
そして男を見てからジューダスを一瞥して、そっと視線を外した。


「……危険な状況になってしまって君がすぐ逃げてくれるなら、譲歩する。」
『…おぉ。』
「今回ばかりはお前の言う事に従おう。こっちはカジノ経験が浅い素人だが、あそこはお前のテリトリーだろうしな。経験者の言う事には従うさ。」
「よ、よし!それならリオン様は早速女装してきてください!」
「ふふっ。言ったからには楽しみにしてるからね?レディ?」
「……。」


そう言って男と一緒にその場から去っていったスノウを見届け、ジューダスもまたシャルティエと会話をしながら会場近くへと向かう。
そして使用人の様な恰好の人達にあれよという間に女装させられていた。
キツいコルセットを縛り上げられる時は流石に苦しそうに呻いたが…。


『いやぁ…。やっぱり坊ちゃんって、背が伸びても女装すれば見栄えしますねぇ…!』
「……これ以上その口を開いてみろ…。コアクリスタルを粉々に砕いてやるからな…。」


ドレスの裾を上げながら険しい顔で歩くジューダスを見て、誰もが振り返る。
その麗しい姿に誰もが魅了されたからだ。
本人の意図とは違う意味で魅入られた者たちが何度か声を掛けようとするものの、ジューダスの表情を見て踏み出そうとした足を慌てて踏み留まらせる。
そんな中、周りの反応を知らない当の本人はドカドカと淑女らしからぬ足音を立てながらカジノ内を歩いていく。
そして目的の人物を発見して立ち止まると、少し落ち着いた様子で再び歩き出す。

依頼人の男とカジノのテーブル席で立ち話をしているスノウ。
身振り手振りをしながら笑顔で話している横顔は、正直に言えばカッコよかった。
ディーラーの恰好がこれまた様になっていて、余裕そうなその横顔が更にカッコ良さを増幅させている。
ジューダスが一瞬立ち止まったのは、そんなスノウを見つめる時間が必要だったからだった。

静かにカジノのテーブル席───それも、スノウの居るテーブル席へと座れば、気配だけで気付いた様子で後ろを振り返るスノウ。
しかしジューダスを見て、暫し大きく目を丸くさせて息を呑んで見つめていた。


「……これはこれは…。なんて麗しい…。」
「……それ以上口を開くな…。」
「ふふ。まぁ、そうだよねぇ?君ならそう言うと思ってたよ。」


驚いた顔を可笑しそうな表情へと変えたスノウは、口元に手をやりながらクスクスと笑う。
そして再びジューダスのその恰好を見て、懐かしそうに目を細めた。


「……昔を思い出すよ。君と任務に就いていた頃の…ね?」
「……ふん。あの時も渋々やらされたものだな。……本当に仕方なく、だがな…。」
「あの時は君を強盗に攫われて、本当に焦った記憶がある。シャルティエの声を仕方なく聞き届けたのも…あの時だったね。」
『まったく…本当ですよ!聞こえないふりなんて、酷いです!!』
「そんな事もあったな。……だが、昔話をする為にここに来たわけじゃないだろう?」
「勿論。ここに来て、そしてそのテーブルに座ったからにはちゃんと演じてもらうよ?深紅の君?」


ジューダスの長い髪(ウイッグだが…)と深紅のドレスがこれまた派手で、二度見するほどその存在を誇示している。
遠くから見ても、これなら依頼人を困らせている男共を誘うことができるだろう。
その派手な赤い見た目から、スノウが“深紅の君”と呼んだのだ。
ジューダスが嫌そうな顔をしてスノウを見上げた。


「……作戦は?」
「君は深窓の令嬢を演じてくれればいい。ただ…そこに座って、一言も喋らずに扇子で口元を隠していればいいさ。後は私が君に声を掛けても頷くくらいして貰えたら結構。」
『そんなんで良いんですか?』
「相手は平気でイカサマをする様な悪どい客だからね。君が同じテーブルで賭け事に挑んでも借金を背負わされて……それこそ連れていかれるのがオチだ。だからそうならない為に君はただカードを見つめてくれたらいい。今から君を“最強の令嬢”に仕立て上げるからね。」
『最強の令嬢?』
「相手は女の人を見かけると同じテーブルについて、そして、賭け事を女性に仕掛けてくる。……君に賭け事をするように仕向けてくるんだ。だから私が君に勝てるカードを渡す。今からその予行練習をしよう。」


スノウがそう言えば、他のディーラー姿の人が練習台になってくれると言うのか、ジューダスの隣に座ってニコリと笑う。
ジューダスも持っていた扇子で口元を隠せば、それが合図だとでも言うように何事もなく練習が始まる。
何度か練習をして休憩にしたところで、スノウがオーナーに呼ばれて席を外した。


「……この作戦で本当に大丈夫か?」
「おい、やめろよ…。聞こえるだろ…?」


座っていたジューダスの後ろからそんな声が聞こえてくる。
どうやらこちらを見て話している誰かがいるようで、そっと背後を盗み見たジューダスはそのまま盗み聞きをする。


「あのヤバい客、女となったら見境ないんだぞ…?あんな麗しい女性を危険な目にあわせるなんて…オーナーは何を考えてるんだ…。」
「そうならない為に、最強のディーラーであるモネ様が協力してくれるんだろーが。過去を遡ってもあの人に敵う相手なんていなかった。あの男も終いよ。」
「だがなぁ…。あの男……変な性癖があるのか知らないが…女の匂いを嗅ぎ分けるからなぁ…?」
「いいから、早く仕事に戻るぞ。」
「へーい。」


そう言って遠のいた2人を見送ったジューダスは、目を細めながらその背中を見送った。
どうにも聞き捨てならない言葉が聞こえてきたからだ。


『女なら見境ない…ですか…? 連れていかれた女性たちはどこに行ったんでしょうか?』
「……さぁな。だが…もう一つ気になる情報があったな。」
『女性の匂いを嗅ぎ分ける、ってやつですか? 坊ちゃんが男だってバレると思ってるんですか?』
「それもあるが…。一番の不安要素は……スノウだ。」
『確かに……そうですね。これはスノウに言っておいた方が良さそうです。』
「あぁ、来たらすぐにでも伝えるか…。」


しかし、そんなジューダスの言葉は徐々に小さくなっていく。
急に場の空気が張り詰めた気配がしたからだ。
周りの空気が凍てつくように息を呑む音がしたかと思えば、遠くを……それこそ入口付近を睨みながらネクタイを締め直すスノウがジューダスの近くへと歩いてきていた。
どうやらもうお出ましらしい。
ジューダスのいるテーブルへと、ディーラーとして就いたスノウはチップの確認をしたりと本物のディーラーさながらの行動を繰り返す。
ジューダスも扇子を口元に持っていき、顔を隠すようにすれば、強烈な香水の香りをさせた男がジューダスの隣に座った。


「ほう? このカジノにまだこんなキレイなお嬢ちゃんがいるとはなぁ?」


ニタニタと笑いながらジューダスの顔を覗き込む男に、ジューダスもまた険しい顔になりながら顔を背ける。
扇子で顔を隠したジューダスへとすぐさま助け舟をスノウが出す。


「随分と香水がお好きなようですね? その体から香る香水の数々…。実に驚かされます。」
「ほお? この香水の良さが分かるとは…お前さんとは気が合いそうだ。赤いキレイなお嬢ちゃんもここにいるし…、決めた。このテーブルで一稼ぎやろうじゃねえか。」
「こちらのテーブルはポーカーとなっていますが、大丈夫ですか?」
「あぁ、構わねぇ。どんなやつだろうが俺様が負けることはないからな。」
「(……前にも似たやつがいたな…。ギャンブラーはどいつもこいつもこんな感じなのか…?)」
「赤いお嬢ちゃんもやるだろ? ここに来て、何もせずにテーブルに座るなんぞ、酔狂のすることだぜ?」
「彼女は、今日からここへ異動になった私を追いかけてきてくれた、大事なお客さんなんですよ。……それに、とてもお強いので私としては同じ場所に立っていると恐ろしく感じます。」
『(よく咄嗟にそんな嘘を思いつきますねぇ…。さすが、スノウ…。)』
「へっ。なら余計に楽しませて貰おうじゃねえか。お前さんの手癖も見たいところだからな…。まず一発やろう。」


周りのディーラーから生唾をみ込む音が聞こえてきて、スノウが思わずクスリと笑う。
スノウもまた、男の癖を見抜くためにその目を細めさせた。
静かなる戦いの幕が開いたことは、近くにいたジューダスにも分かった。
しかし、それよりもジューダスには気に食わないことがあった。


「……。(くそ…。香水臭い……。あまりの酷い臭いで……判断力が鈍る…。)」
「…? (……ジューダスの様子が少しおかしい…。一体、何が…?)」


お互いに腹の探り合いをするかのように始まったポーカー。
順調な手札なのか、男がカードを見ながらニタニタといつまでも笑っている。
しかしスノウも負けては無い。
ジューダスへと配ったカードは、練習通りに一枚捨てれば最高の役に揃えられるカードである。
流石の男もこの役を見れば、何かしら行動に出る事だろう。
スノウはテーブル下に隠し持っていた相棒を足で確認しながら、男と言葉を一言二言交わす。
そして最初のゲームが終わろうとしていた。


「ふん。最初にしてはまぁいいカードが来たぜ? …フォーカードだ。」
「ほう? それは凄いですね? ここへ私が来たのは今日が初めてですが……毎回このような感じなんですか?」
「あぁ。今日は幸先悪いけどな? いつもならロイヤルフラッシュくらいの役を何度も叩き出してみせるんだが…。まぁ、お嬢ちゃんにいきなりそんな事をしたら可哀想だからなぁ?」
「ふふっ。それは見誤りましたね? この深窓の令嬢は、そんな物じゃないと思いますよ?」
「なんだと?」


ジューダスの手元を見れば、ちゃんとロイヤルフラッシュが出来上がっていて、些か安堵したスノウはカードの役を見て驚いている男へと笑顔を見せた。
しかし男も黙ってない。
ロイヤルフラッシュを叩き出したジューダスを初めは胡乱げに見ていたが、次だと言ってまたゲームを再開する。
その瞬間、男が服の袖の中に何かを隠しているのをジューダスが発見する。
無論、スノウもそれに気づいていたが口にはしなかった。


「では…No more bet.」


カードを配るスノウの手をじっと見る男を横目に、ジューダスが眉間に皺を寄せる。
香水の臭いもだが、あからさまにイカサマをしようとする男に嫌な気持ちが湧き上がってきたからだ。
それは、この後のゲームへの不安も表れていた。


「(この男の人……隠しもしないか…。あからさまに仕込んでるな…。)」
「今度こそロイヤルフラッシュを引いてやる。」
「おやおや。この令嬢も、それは狙っているはずですよ?」
「そんなに何度もロイヤルフラッシュを出されたら、ここのカジノは潰れるんじゃないのか?」
「ごもっともで。…ですが、それが出来るからこそ、最強の令嬢なんですよ。」


配り終えたカードを見つめるジューダス。
抜かりなくカードを捨てるのを見た男は、一度鼻を鳴らすとカードを捨てる。
そしてカードを見た瞬間に、目にも止まらぬ速さでイカサマをした。
そのカードを入れ替える素早さと、イカサマの手馴れた様子からして普通のディーラーなら見抜くことなど出来ないだろう。
だが、目の前にいるのはそういった事に長けたスノウなのだ。
すぐにイカサマしたことに気付き、目を細める。


「上がりだ。」


男がそう言ってカードをテーブルの上に投げ捨てる。
そこにはちゃんとロイヤルフラッシュの役が揃っていた。
しかしジューダスもまた、ロイヤルフラッシュのカードをテーブルに置く。
男が渋い顔をしたものの、スノウが二人のカードを見てフッと笑う。


「どうやら勝利の女神はこちらの令嬢に微笑んだようで。」
「馬鹿な!?」
「ロイヤルフラッシュの中でも最高位のスペードが来ています。ですからお客様よりも令嬢のカードの方が役が上になりますので令嬢の勝ちですね。」
「チッ…!!」
「ではお客様。その袖の中のカードを返して貰えますか? それが無いと、こちらのカードが同じ数字ばかりになってしまうもので。」


スノウが男の服の袖を掴むと、パラパラとカードが落ちてくる。
そこには先程配った筈のカードが落ちていた。
男がスノウを睨めば、スノウもまたニヤリと笑う。
圧倒的にこの場はスノウの方が有利────のはずだった。


「……ん?」


男が何かに気付くと、掴まれていた手を逆に取り、スノウの腕の匂いを嗅ぐ。
いきなりの事で僅かに驚いたスノウだったが、冷静にその様子を見ていれば、男はスノウを見上げ、ニタリと笑った。


「……お前、そのナリしてるが…………女だな?」
「!!」
「この熟れた甘い果実のような香り……。間違いなく女の匂いだ。」


その瞬間。男の首に容赦なくシャルティエが当てられる。
男からすれば隣の女がそれをやったと分かり、すぐさま驚いた顔をして隣の赤いドレスの令嬢を見る。
しかし、その令嬢の鋭い眼光や剣の扱い方を見ても、素人では無いことが確実である。


「その手を離せ。」
『そうだそうだ!スノウから離れろー!!』
「チッ! こいつ、男だったのか!!」


声を聞いた瞬間、ジューダスが男だと気付くと、首に当てられた剣を物ともせずにスノウの腕を掴んでいる手とは反対の手でジューダスの顔目掛けて殴ろうとする。
しかしそれを想定内だと思っていたのか、今度はスノウの相棒が男の顔の前に現れる。
2つの剣を突きつけられた男は、流石にピタリとその場に止まり冷や汗をかく。
そのままスノウは相棒を銃へと変えて気絶弾を男へ撃ち込む。
倒れゆく男を見送ったスノウとジューダスは、警戒を怠らずに男に近付く。
気絶しているのを確認した二人は、自然とハイタッチを決めていた。


「流石レディ。何もしなくても良いとは言ったけど、あそこまでやってくれたから楽させて貰ったよ。ありがとう。」
『僕はヒヤヒヤしましたけどね!!! 一瞬、スノウがあの男に連れて行かれるんじゃないかって想像しましたよ!!』
「ははっ。でも、まさか匂いで女だとバレるとは思わなかったね。………すんすん。そんなに変な匂いがする…?」
「熟れた甘い果実の様な匂いがする、と言っていたな。」


そこまで言うと、ジューダスがスノウに近付き、そっと匂いを嗅ぐ。
しかし首を横に振っては、疑問を浮かべていた。


「お前の匂いは結構分かりやすいとは思うが……果実のような香りはしないな。」
「え、」
『どんな匂いなんですか?』
「例えるなら…そうだな……。甘い匂いよりも、大人らしさのある香り…と言えるか。」
「え、あ…うん。」


流石に自分の事だからか、目を点にさせながら言葉を聞くスノウに、二人が笑い出す。
次第に恥ずかしそうにはにかんだスノウは、頬を掻きながら赤く染めていた。


その後は、男はそこらの警備員やらに捕まりお縄となった。
連れていかれた女性たちの場所も聞き出し、助け出されたらしい。
平和的に終わろうとした今回の依頼だったが……どうやら、スノウとジューダスは平和的には終わらなかったようで…。


「君の香りも、とても良い匂いがするよ?」
「……は?」
「君らしい匂いで、私は好きだよ。その匂いを鼻が感じ取ると、自然と安心して体から良い意味で力が抜ける。……緊張がほぐれると言った方が良いかな?」
「……。」


まさか、こんな仕返しがあるとは思わず、黙って顔を仄かに赤く染めたジューダスだったが、一度始まったスノウの猛攻は止まらない。


「目をつぶっていても、君の香りだけは間違えない自信さえある。それくらい、私は君の香りが好きだよ。」
「っ〜〜〜〜///」
『(あーあ…。褒め殺しですねぇ…。)』
「後は君の…」
「も、もう良いだろう!? 僕はもう着替えるからなっ!!!!」


そう言って逃げるように去っていったジューダスの背中を見て、一瞬ポカンとしたスノウだったが、すぐに照れ隠しだと気付いてその場で笑っていた。








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管理人です。


意外と長めになった今回のお話でしたが、如何でしたでしょうか。
当初はこんなハズではなく、カッコイイスノウが見られる予定でしたが、何故か女を嗅ぎ分けることが出来る謎の男が出来上がってしまいましたね。
ちなみに、若い女性は本当にそのような香りがするそうです。
あながち間違ってはいなかったんですよね、あの男の人。


ジューダスの女装姿も、もう少しスノウにからかって欲しかった所です…。
猛反省……。
次回女装あれば、もう少し絡みたいですね。



依頼をして下さった【アインシュタイン様】へ、この小説を捧げます。
是非ともこのサイト並びに、スノウ達を宜しくお願いします。



管理人・エア









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