NEN クエスト編(短編) | ナノ







▲ 依頼主が旅行中、ガーデンのお手入れをお願いします。後編




▲依頼主が旅行中、ガーデンのお手入れをお願いします。
私達が旅行中、ガーデンのお手入れをお願いします。
大切な花達ですので、くれぐれも枯らさないよう、お願いしますね?









____フィッツガルド地方のとある豪邸




結局、スノウ達が担当していた春のドームは手入れが終わり、仲間達からも他のドームが見てみたいという話から、何日かに一回管理するドームの入れ替えを行うことに。
時計回りとのことだったので、スノウ達の担当する次のドームは梅雨、冬ドームの二つである。
しかしここで問題が起きる。


「…おい、スノウ。僕が梅雨のドームの方を担当するから、お前は冬の方へ行け。」
「え? あ、うん…。」


水の類いが苦手なスノウの事を思って、ジューダスがそう提案してくれたのだ。
……半ば強制的ではあったが。


「冬ならなんにも無いぜ?ただ雪があるだけだな。」


ロニがスノウにそう話しかける。
それにスノウが首を傾げ、ロニを見上げる。
冬でも多少なりとも植物はあったはずだ。
それなのに、何も無いとは…?


「では皆さん、今日もよろしくお願いします。」


老執事の話が終わり、それぞれが各ドームに散らばる中、スノウもまた一人で冬ドームへと向かう。
ジューダスは早く終わらせたいのか、さっさと行ってしまったので今は一人だけだ。
まぁ、冬ドームと梅雨ドームは真反対の位置になるから一緒になることはないのだが。


「冬…。冬ねぇ…? 何があったかなぁ…?」


冬の代表的な花といえば、スノードロップやシクラメン、クリスマスローズなど、それでも華やかな花があったはずなのだが……ロニがなんにも無いと言った理由が気になる。
春のドームがあれほど綺麗だったので、冬も期待していたのだが、期待外れだろうか?

悶々と考えていたスノウは、冬のドームの扉前に来て、覚悟を決める。
きっと中は寒いだろうから防寒具も着たし、寒いという覚悟も出来た。
意を決して扉の中に進んだスノウだったが、意外にも寒さはあまり感じなかった。
防寒具を脱ぐほどではないが、それでもファンダリアの寒さよりはマシである。


「(何だ…拍子抜けの気温だったなぁ…?)」


そのまま進んでいったスノウは、一面銀世界の冬ドームの中を見渡す。
確かにロニの言う通り、見た感じは何もないように見えるが…、所々にある雪だるまはきっとロニが作ったんだろう。


「……はーん?なるほどね。」


雪の中に埋もれた花がいる。
春になると雪解け水で成長する可愛らしいものから、雪の色と同じく白い可愛らしい花まで隠れている。
まぁ、永年凍土のこのドーム内では先程の花達は咲かないだろうが…。
それでも他にも沢山花があるはずだ。


「……これは骨の折れる作業かもね…?」


ひとつひとつ丁寧に見ていく必要がある。
スノウが立ち上がり、改めて周りを見渡せば奥の方に一軒家がある。
その横には温室らしき所もあることから、シクラメンなどの室内栽培もやっているのだろう。
やはり温室で室温管理する花だろうが、冬のドームには冬の花を置いておきたいようで、ここの家主の几帳面さが窺える。

その一軒家へと入れば、すぐに温かい空気が外に漏れ出し、スノウを優しく包んで出迎えてくれる。
それにホッと息を吐けば、白い息も幾分か和らぐ。
中に入れば暖炉が設置してあり、もう少しすると木材が燃え尽きてしまいそうだ。
スノウが薪を取りに行き、暖炉に焚べ、風を送れば再び火が燃え移り、室温を高めてくれる。

立ち上がって改めて周りを見渡せば、机の他にはロッキングチェアがあったり、ダイニングキッチンがあったりと中々魅力的な物件である。
内装も特におかしな事はない。
……所々、少し多いのではと思うくらいの観葉植物が置いてある以外には。


「(ここが温室への入り口か。)」


入り口とは真反対にある扉を見たスノウはドアノブに手を掛け、ゆっくりと回した。
押し開けるようにしてドアを動かせば、やはりそこはスノウの想像通り温室であった。
しかしそこの温室の大きさには、流石のスノウも驚いて目を点にさせる。
外観から見た大きさよりも遥かに広い。


「(ここも暖かいな…。)」


さっきの部屋よりも暖かく設定されている温室に入れば、色鮮やかな花達がスノウを迎えてくれる。
赤や黄色、オレンジ色などの暖色系が特に際立つ。
時折白もあって、とても映える。
暫く見回っていたスノウは、鉢の中の土が乾いていることに気付く。
それぞれの花に水やりをしていけば時間というのは早いものだ。
丁寧に水やりをしていたことで夢中になって時間を忘れていたスノウへ、声を掛ける人物がいた。


「おい、こっちは終わったぞ。」
『うわー!こっちもこっちでキレイですねぇ!!』
「え? 駄目じゃないか、君がここに来たら。」
「?? 何故だ。」
「君の担当場所は梅雨だろう? と言うことは雨の中手入れをしてくれたんだろうに、こんな寒い所に来たら逆に風邪を引くよ?」
『確かに…そうですよね。坊ちゃん大丈夫ですか?』
「あぁ。雨具をしていたから濡れてもいない。よって、今僕は寒くも何ともない。それに…ここは暖かいだろうが。」
「でも…」


不安がるスノウを見て、溜め息を吐いたジューダスは腕を組んでスノウを見遣る。
その口元は不貞腐れたように少しだけ歪んでいた。


「僕がいると邪魔なのか?」
「ううん。そんな訳ない。来てくれて私としては勿論嬉しいんだけど……心配が勝っちゃってね。君を遠ざけるような事言って本当、ごめんね?」
「なら僕がここに居てもいいな?」
「クスッ。あぁ、好きにするといいよ。」


そして水やりを再開させたスノウを後ろから見ていたジューダスは、ふと天井を見上げた。
温室なだけあって、低く白い天井はそれだけでも圧迫されている感覚になる。
しかしそれとはまた違う機械も天井に伸びていることが分かった。


「……?」


自分はこういった植物を育てたことなど無いから、知識もそんなにある訳じゃない。
だが、あの天井に伸びるパイプの様な物はもしかして…。


───ジリリリリリリッ!!!


温室内に轟くサイレンの音。
驚いた様に全員が飛び上がれば、スノウもまたビックリした顔をして顔を上げた。


「!?」
「…やはりか…! スノウ!!早く避難するぞ!!」
「え? 何が起こってるんだい?!」
『え?なになに?何なんですか?!』
「いいから急げ!!」


ジューダスがスノウの肩を掴み、誘導する。
しかし彼等が動くよりも早く、辺りに響くサイレンの音が小さくなる頃、それは訪れた。
いきなり雨の如く水が上から降り注いできたのだ。
こんな“室内”で、だ。


「っ!?」
「くっ…!」


スノウを庇うように抱き寄せて、雨から守ってあげるがそんなの微々たるものだ。
結局水が止む頃には二人ともびしょ濡れになっていた。


「……。」
「……。」


水が止んで二人で呆然としていると、顔を上げたスノウが何度か目を瞬かせてふと笑いを零す。


「ふっ、ふふ。」
「……はぁ。(まだ…笑ってるだけマシだな。)」
「まさか、スプリンクラーがあるなんて思わなかったなぁ? おかげで二人ともびしょ濡れだよ。」
「早く中に入るぞ。このままだと二人とも風邪を引きかねん。」


そう言ってスノウの肩を抱いたジューダスは、中に入るように促す。
そのままジューダスに甘えたスノウは、ちゃんとした足取りで家の中へと戻っていき、暖炉の前に連れて行かれる。
けれども服を脱がなければ風邪を引く。
風呂場を見つけたスノウがジューダスに声を掛ける。


「レディ!先にお風呂に入りなよ!」
「…お前が先に使え。体…冷えてきてるぞ。」


スノウの腕を掴んだジューダスが顔を顰めさせながらそう言い放つ。
そして反対を向かせ、風呂場の方に背中を押したジューダスは腕を組んで中に入るまで監視するつもりらしい。
そんな彼へ、スノウが意地悪そうな顔をして笑う。


「なら、一緒に入る? このままだと君も風邪を引くよ?」
「ばっ!?馬鹿者!!!!さっさと入れ!!!」


脱衣場に突き飛ばしたジューダスの真っ赤な顔を見て、スノウが可笑しそうに笑って扉を閉める。
ジューダスがまだ赤い顔で長い溜め息を吐けば、腰から愛剣の茶化す声が聞こえてくる。
そして同時に制裁によってシャルティエが悲鳴を上げていた事に、中にいたスノウはまたくすりと笑ったのだった。







……………
…………………………






「先にお風呂使わせてくれて、ありがとう。」
「あぁ…。……っ!!!??」


酷く早く終わったものだ、と声を掛けられたジューダスが呆れながら振り向けば、そこにいたスノウの格好にまたしても顔を真っ赤にさせる羽目になる。
何故なら、彼女の今の格好は男性物の大きなシャツを着ているだけの状態だったのだから。
見える肌白い素足、だぼだぼの服の首元から見える艷やかな首筋、濡れて結ばれていない長い髪、さらしをしていないことによってシャツの上からでも分かる豊満な胸。
どれを見てもいたたまれない気持ちになり、慌てて近くにあった大きなタオルで彼女の体を隠したジューダスに、スノウが首を傾げる。


「な、な、何故そんな格好をしてるんだ!!!」
「いや、早く上がらないと君が風邪ひくだろう? だから適当にそこら辺にあったものに着替えたんだけど…。」
「だからといって!!お前は本当にっ…、あぁ、くそっ!!!」


腕を掴み、暖炉の近くへと移動させようとしたジューダスだったが、ふと立ち止まる。
取った腕は、明らかにお風呂あがりだとは思えない温度だったからだ。


「お前っ…!ちゃんと温まったのか?!」
「え?ちゃんとシャワー浴びたよ? それよりも君も早く入ってきなよ?」
「入り直せ。」
「いいからいいから。ほら、君のほうが入らないと手が冷たくなってるよ?」


彼女はそんな事を言っているが、自分の手の冷たさと大して変わらない温度だ。
ジューダスが複雑な顔をしたが、背中を押され強制的に脱衣場に入らせられる。
そして扉外から手を振っては、サッと閉められてしまい、もう何も言えなくなってしまった。
ジューダスもまた早めに上がることを決意して、すぐさま濡れた服を脱ぎ出す。
そうして数分で上がったジューダスは急いで心配する彼女の元へと駆けつけたのだが…。


「っ///」


暖炉の前のラグの敷かれた場所に丸まって寝ていた彼女は、予想通り寒そうにしていた。
極力寒くないようになのか、丸まっている彼女が可哀想だ。
だが、その丸まっている姿のせいでシャツから素足が惜しげもなく晒されている上に、何ならそのシャツの中まで見えてしまいそうなほど、色々ギリギリである。
直視出来ない状況を鑑みてジューダスが視線を逸して顔を手で覆ったが、羞恥心よりも先にやる事があるではないかと再びスノウを見る。
そしてその手を握ってみれば、やはり風呂上がりのジューダスよりも冷たい。
ちゃんと浴室が濡れていたことから、本当にシャワーを浴びた事は浴びたのだろう。
だが時間が短すぎて、温まりきらなかったと見える。

すぐに何かを探すように動き出したジューダスを見て、シャルティエが不思議そうにするものの何も言わなかった。
そして別の場所から暖かそうな毛布を取ってきたジューダスはそっとスノウをそれで包み、そのまま抱えるようにして抱きしめた。
暖炉の前ということもあり、すぐにジューダスの体は温かくなっていくが……彼女はそうじゃない。
毛布にくるまれていても、その上から分かる彼女の体温。
それを肌で感じた瞬間、ジューダスはギュッと少し強く抱き締めた。


「…まだまだ冷たいじゃないか。何の為のシャワーだと思っている。……阿呆。」


そう小声で漏らすくらいには、今のジューダスからすれば冷たかった。
そんな小声など聞こえていないスノウは、すやすやと穏やかな寝息を立てる。
しかし、一気に熱源が近くになったからか彼女が薄ら目を開ける。


「……?」


まさか、ウトウトしすぎて暖炉の中に頭を突っ込んだか、と一瞬考えもしたが、その温かさの理由が分かってスノウはジューダスに擦り寄るようにして頭を彼の肩へと置いた。


「…起きたか?」
「……もう少しだけ…こうさせてくれないかい…?」


掠れた声は風邪を引いたのではないか、と思わせられるほど。
ジューダスが顔を顰めさせたが、黙って自分の体の方へとスノウを寄せた。
それだけで口下手な彼の答えが分かったスノウは、嬉しそうに口元を綻ばせる。

そうして暫く二人が黙っていれば、木片の爆ぜる音がパチパチ、パチパチ…と聞こえてくる。
服が乾かないことにはこの格好から開放されないスノウは、暫く眠気と戦うことにしてジューダスに話しかける。


「……ねぇ、ジューダス?」
「(眠そうだな…。) 何だ。」
「やっぱり、君の温かさってさ…、どこか安心するよね。」
「…そうか。」
「服が乾くまで…どうする?」
「別にどうもしない。服が乾かないことには外にも出られない上に、……こんな格好で外に出たら今度こそお陀仏だからな。特にお前の事だぞ。」


ジューダスはこの旅の間で身長が伸びたのもあり、丁度よい服があったものの、確かに身長の高い男性服が多い印象は受けた。
あの様子ではスノウがこれを選ぶのも仕方がないだろうが……もう少し、良いものはなかったのか。
上下セットのもので。

思い出した途端に顔を真っ赤にさせたジューダスの顔を、彼へ体を寄せているスノウが気付くはずもない。
端から見れば、赤い顔をどうにかしようとするジューダスと、ぬくもりを求めるスノウの面白い光景のコンビの出来上がりである。
そんな中、スノウが「もう大丈夫」とでも言いたげに体を動かし、ジューダスの腕から離れようとする。
しかし今離れてしまえば、またあの格好を間近で拝まなければならないのは火を見るよりも明らか。
……いや、見たくないわけではないが、彼の場合は羞恥心に耐えられないといったところなのだろう。
逃さないようにギュッと腕の中に押さえつけたジューダスを感じ、スノウがその言葉無き言葉に甘えるようにしてまた頭をコテンと彼の体へと乗せた。


「……心配性だね。君は。」
「(今動かれると敵わん…!だが、いつかは離さないといけない時が来る。くっ、どうしたらいい…?!)」
「ねぇ、レディ?」
「…なんだ。」
「いつもいつも感謝してる。本当、ありがとう。君のこの温もりが…私を生かしてくれてるんだよ?感謝してもし足りない。」
「…これくらい、幾らでもやってやる。だからまずはその格好をどうにかしてこい…。」


手で目を覆っては、頭を抱える様子のジューダス。
そんな彼を見て、クスリと笑ったスノウは短い返事をしてジューダスの腕からゆっくりと離れていった。

一気に温もりが無くなったのは、何もスノウだけではない。
彼もまた、先程まで抱いていた温もりが去り、少しだけ歯痒い気持ちにさせられていた。
しかしそうも言ってられない。
目の前に現れたのは、あの服で惜しげもなく曝け出された素足や胸だったのだから。
一気に顔をこれ以上無いほど赤く染めたジューダスは、遂に顔を手で覆ってスノウに怒鳴り付けた。


「早く着替えてこいっ…!!!!」


そんな彼の言葉と行動に、スノウが苦笑いをしてゆっくりと彼から去っていく。
しかし、それでもスノウは彼の側に再び寄って、彼の前に膝立ちをし、彼の手を優しく退ける。
そのまま触れるだけのキスを彼の頬へとしたスノウは、優しい笑顔でお礼を言った。


「ごめんね?ありがとう、レディ。今、着替えてくるから───」


離れようとしたスノウの視界はぐるりと変わる。
安定した視界になったかと思えば、目の前には天井と彼の怒った顔。
スノウが目を見開いて驚いた顔を見せるには、充分すぎる要因だった。


「…………いい加減にしろ。僕は……僕は、男だぞ。何故、そんなに悠長に構えていられる?」


どうやら押し倒されているらしいこの状況に、珍しいとスノウが暫く様子を見ていれば彼の怒りはどうやら早く着替えなかった自分にあるらしいことが分かる。
そして反対にジューダスとしては、早く着替えて欲しかったがまだ彼女を抱きしめていたかったという苦しい葛藤の最中、……あんな事をされたのだ。
男であるジューダスが、大好きな彼女のその様な行動に堪らない気持ちにならないはずもない。
だからこそ、ジューダスとしては今後の彼女の為にも、ひとつ説教しなければ気が済まない心情であった。
……あと、男として見てもらいたい気持ちもあったのだが。(むしろそっちの方が大きいのかもしれない)


「女がこんな格好で迫ってくるな。男の方が図に乗ったらどうするつもりだ。か細いこの手を押さえつけるなんて、こっちは簡単に出来るんだぞ。」


そう言ってジューダスはスノウの聞き手である右腕を上から押さえつける。
これも全て、彼女の為だと言い聞かせて。


「もっと警戒心を持て。僕だけじゃない、他の男にだってそうだ。」


僅かに動かそうとした右腕はびくともしなくて、スノウが僅かに右腕の方へと目を向ける。
しかしジューダスのもう片方の手が、スノウの顔を真正面に向ける。


「…いいか? 女が思うよりも男は怖い生き物なんだ。それを自覚してくれ……、頼むから。」
「……。」


終始、驚いた顔をしていたスノウだったが、ジューダスの説教が終わると笑顔になって左手で彼の頬に触れる。


「分かったよ。君がそこまで言うなら、気を付けるよ。…でも、触れるくらい…許してくれるだろう? 全く触れないでくれ、なんて寂しいことを言われたら、私は…」
「………………はぁ…」


駄目だこりゃあ。と言わんばかりの呆れ顔のジューダスがスノウの上から退こうとした、まさにその時。


「二人ともー?ここかぁ? 執事さんがご飯作ってくれ───」


ロニの声が聞こえたかと思えば、この家の扉が遠慮なく開けられて声が止まる。
ロニが見たものは無論、ジューダスがスノウを押し倒している光景であり、他人が見たらきっと勘違いされるであろう体勢なのだ。
その上、スノウの格好が恰好なだけに、余計に勘違いされること間違い無し。
ロニが言葉を切って二人を見た後、そそくさと謝りながら罰が悪そうな顔をさせて扉を締めた。


「わ、悪い…。取り込み中だったか…。」
「ばっ、ち、違うっ!!!! そそくさと出て行こうとするな!!」


慌てたジューダスは、そのまま外に出て行ってしまい、スノウが目を瞬かせる。
しかしジューダスも着替えているとはいえ、薄手だったはずだ。
すぐに心配になったスノウは自身のその恰好も忘れて外に出てしまい、すぐさまロニと取っ組み合っているジューダスに怒鳴られる。


「馬鹿者っ!!お前は中に入っていろ!!!!」
「ちょ、スノウのやつ…エロくね?」
「お前は見るな!!」
「何だよ!少しくらい良いじゃねえかよ!」


それでも素足のまま一歩を踏み出したスノウをジューダスが睨んだら、すぐにその足は中へと戻っていく。
そして困った笑顔で笑った後、スノウは家の中へと戻っていった。






‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥






結局、あの後執事さんがすぐに替えの服を用意してくれたものの、どれもサイズが大きく、スノウは何とか借りた服を着ている状態であった。
さらしが無かったのもあり、胸はそのままなのが男性陣には目の毒ではあるが。


「まさか、スプリンクラーがあったなんて…。水のやり過ぎで花が枯れないと良いけど…。」
「それよりも、あんたも災難だったねぇ。服が濡れたらそりゃあ仕方がないし。」
「でも、スノウのそんな格好、中々拝めないから良い機会かもしれないわね!」
「ま、服に着られてるけどねー。」


そんなスノウの格好に集いに集った女性陣は、賞賛の嵐。
可愛い、可愛いを連発されたスノウは、照れながらも笑っていた。
すると執事さんが今度はワンピース型の服を持ってくる物だから、スノウが身構える。
しかし女性陣によってあれよあれよ、と言う間にワンピースを切る羽目になってしまった。


「(…恐るべし、女の力…。)」
「「可愛い!」」
「えぇ、とっても良いんじゃない?女の子らしくて。」


ハロルドもそれには褒めちぎることから、スノウが苦笑いすれば男性陣はホッと一息吐く。
さっきまでの格好は、若い男達にとって、あまりにも刺激的すぎたからだ。

結果、その調子で冬のドームをすれば風邪を引くから夏のドームへと変更がかかったスノウとジューダス。
照り返す日差しを見たジューダスが強制的にスノウへと麦わら帽子を被らせ、そして先を進むジューダスの後を追いかけるようにスノウもワンピースの裾を翻しながら駆けていく。
後ろから見るそれはまるで、今からデートする夫婦みたいに。


「夏は暑いわー……。」
「かと言って、その恰好で冬など行かせられん。……だが、まぁ…。その……似合っている。」


彼女の白い肌に合わせたかのような白いワンピースは、彼女にとても似合っていた。
スカートのたぐいが苦手なスノウを知っているとはいえ、その格好はジューダスからしたら珍しい上に貴重なのだ。
ここで褒めなければ、いつ褒めるというのか。


「本当? 君がそう言ってくれるなら少しは自身がつくよ。」


風で飛びそうになった麦わら帽子を、手で押さえながらスノウがジューダスを見てはにかむ。
それを見て余計に顔を赤らめたジューダスは、意味もなく仮面を深く被り直した。


「四季折々って本当、良いよねぇ…? でも…やっぱり一番苦手なのは夏かも。」
「ふん。お前の場合は梅雨だろうが。」
「そうとも言う。」
「減らず口だな。」


他愛ない会話の締め括りに、スノウが右手を高く挙げて指を鳴らす。
そして魔法で全体に水やりをすれば、スノウは眩しい太陽を憎たらしげに……しかし、笑って見上げていた。
汗ばむ顔を腕で拭ったスノウは、近くにあった草を見つめると草むしりを始める。
……この広大な広さを持つドームの、青々と茂ることよ。
骨が折れそうだ、とジューダスも溜め息を吐けば、そのままスノウの横に座り草むしりを始める。
それをスノウもニコリと笑って草取りを続ける。


「……終わんないかも。」
「…そうだな……。」
「ちょっと、ノーム呼ぼうかな…?」
「精霊じゃなくて、お前の魔法で何かないのか? 精霊を呼び出す時のマナの消費量が多くて敵わん。心配するこっちの身にもなれ。」
「ノームなら大丈夫だよ。マクスウェルとアスカ、シャドウとかルナじゃなければ。」
「今は必要ない精霊ばかりだがな。……どれほど、消費しそうなんだ?」
「マナ? それならそんなに減らないと思うよ? ノームを召喚してどれくらい顕現する時間があるかでも変わってくるけど?」
「なら地道にやるぞ。ここで倒れられても、僕が困る。」
「はーい。」


そんな話をしながら仲良く草取りしていたのだが……無論、先に音を上げたのはスノウだった。


「……あー…ごめん。……もう、むり……。」


そう言って草を掴む手が空を切る。
そのまま横に倒れたスノウにギョッとして、ジューダスが再びスノウを抱えてドームを後にする。
完全に脱水と熱中症の診断となったスノウの看病をする羽目になったジューダスは、椅子に座って腕を組みながら溜め息を吐いたのだった。


『春以外、スノウにはキツい手入れでしたね。』
「はぁ…。全くだ。」


ベッド上で目を回し、ばたんきゅーしているスノウを見ながら、二人がそう零す。

そんなこんなで旅行の時間が過ぎていき、夫婦が帰ってきた頃にはスノウも回復していて服も元通りになっていた。
色々あったガーデンの手入れは、スノウにとっては散々なことだったのかもしれないが、仲間たちには楽しいひと時だったようだ。
勿論、ジューダスもスノウの色々な一面を見れて少しは満足したのかもしれない。









▲ 依頼主が旅行中、ガーデンのお手入れをお願いします。
→CLEAR!







BACK/TOP

12/13

×
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -