彼は私に手をあげます。




頭から足先まで何回も何回も何回も彼は腕を振り下ろします。

毎日毎日、それの繰り返し。

なので傷の無い日はありません。



でも優しい人なんです。いい人なんです。


いつも腕を振り下ろす時に辛そうな、泣きそうな顔をするのです。

なので私は何も言いません。抵抗もしません。


せめて彼の前では笑顔でいようと心がけ、どんなに酷いことをされても、次の日には何も無かったかのように彼に笑顔でおはよう。と言うのです。

でも彼は腕を振り下ろすのを止めません。

それでも私は彼の傍から離れずにずっと部屋に居るのです。



彼を、愛しているから。



彼が私を愛していないことは知っています。解っています。


だから私は泣きません。文句も言いません。抵抗もしません。

きっと私が人形でなくなったら、彼は飽きて棄ててしまうから。



そして、今日も腕は振り下ろされる。





遂に私は死んだのだ。







彼は私を愛していない。それでも良かったの。









俺様は彼女に手をあげる。



昼夜を問わず、何度も何度も何度も腕を振り下ろす。

お陰で彼女の白い肌は赤黒く変色してしまった。


それなのに彼女は何も言わない、抵抗しない。

そして、次の日にはケロッとして笑顔でおはよう。と言うのだ。


それが一層俺様をイラつかせる。
また手をあげてしまう。

そうしてしまう己が嫌いで、彼女を抱きしめて、すまない。と言いたいのに、抱きしめる為に伸ばした両腕はいつしか彼女を傷つけてしまう。
頬に手をやり、痛いだろう。と言ってやりたいのに、その手は彼女の頬を平手で打ってしまう。




彼女を、愛しているのに。



そもそも、俺様は愛を知らない。解らない。


彼女の眩しいばかりの笑顔が好きで、彼女の真っ白な肌が好きで、彼女の、暖かな体温が、好きで、

だから、それらを壊したくなる。


そして、今日も腕は振り下ろされる。




遂に彼女は死んだのだ。





「ドロシー」

呼んでも反応がない。

「ドロシー、」

またしても反応はない。

「ドロシー ドロシー ドロシー」

何回呼んでも、反応はない。

「ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー ドロシー」

狂ったように名を呼び続ける。


そういえば、彼女に出会ってから一度も名を呼んでいなかった。呼ばなかった。


それには眩しいばかりの笑顔も、白い肌も暖かな体温も何もなかった。


ただの死体だ


ああ、そうだ俺様は。





彼女にこの行為を否定して貰いたかったのだ。
(そして、彼女にたった一言"愛している"と言えなかった。)





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