『 ◆大上と華/オーマガ 』12/03/16
ヤツドキサーカス団との事件が終わって何日か立ったある日の夜。
九月といえ、夏休みが終わったばかりの夜はまだまだ暑い。私は頬を流れる汗を止めるべく、夜風に吹かれに外へ出た。
今夜はこんな時間だというのに外が明るい。
満月のもと、ちょうど近くの場所にあった横長のベンチに腰をかけた。
すると後ろから、三角の耳がピンっと立った背の高い影がかかる。
「華ちゃん。ちょっと隣いいかな?」
振り替えると、ヘラッと緩く笑った大上くんが立っていた。
「うん。もちろんどうぞ」
「それじゃ失礼しまーす」
ドサッ、と腰をかける音がして、暫く二人でなんとなく会話もせずにほっこり月を眺めていた。
「そういえば大上くん、どうしてここに?」
「だってここ俺の檻のすぐ目の前じゃん。華ちゃんがこっちやってくるの見えたからさ。俺も暑いし出てきちゃったんだ」
なぁんだ。そうだね、今日はすごく暑いよね。大上くんは全身毛皮だから大変だね。
そう続けると、もうさっきから舌出しまくりだよ。と長い舌をベロンと出し、苦く笑って返してくれる。
それでまた暫く二人で月を見てて、またなんとなく会話が続かなくなっちゃったからここはなにか喋らなくっちゃ。
私は唐突に最近感じていたことを話だす。
「あのねぇ、大上くん。私ここに来る前までは君たち動物とこんなふうにお喋り出来るだなんて夢にも思ってなかったんだぁ…。だからねっ、今私はすっごく楽しいの。動物とお話するのは私の小さいころからの夢だったから」
私が笑顔で大上くんに顔を向けると、すこし眉の下がった笑顔で返された。
「いいなぁ華ちゃんは。俺と違って順応早くて」
「それってどういう…」
すると大上くんはまた夜空にかかる大きな月へと視線を戻しながら、つらつら語りだした。
「華ちゃんは初めて俺らのこの姿を見たときびっくりしただろう?俺ら動物達がいきなりみんな変身しだしたんだから。でもな、それで驚いたのは華ちゃんだけじゃないんだ」
大上くんは月を見る目を細めながら続ける。
「俺が初めてここに来た時はさぁ、見たことのない場所でワケ分かんねぇし、俺よりでかい生き物とかも初めて見たし。何を見ても、まぁ俺こんな性格だし?とにかくビビってばかりだったんだ。」
そして大上くんはバツの悪そうな苦い顔ををしてこっちをちらりと見た。
「そんでさっ、ここ来て初めて園長の煙で変身したときは自分でもすっげぇ驚いたんだ。だって俺さっきまで普通のドールだったのにだよ?煙浴びたら体が熱くなったような気がしてさ。気付いたらなんか自分いきなり人間みたいに二足歩行出来るようになって、毛皮の外側には服も着てて、俺元は四足動物だからいつも鼻のすぐ近く地面があったのに…とにかく最初は俺の目線がいきなりグンッと高くなってビビってた」
カッコ悪いだろ?
そう付け加えると、また長い舌をちろりと出した。
「そんなことないよ!きっ、とそれは普通の反応だと思うよ」
「ははっ、そうか?」
そして短く笑うとまた空に視線を戻した。
そっかぁ、私も十分驚いたけど、みんなも最初はすごく驚いたんだ。
「みんな大変だったんだね」
「いんや、こんなに驚いてたのって俺だけだったみたい。他の奴らはけっこうひょうひょうとしてたぜ。みんなすごいよなー」
「大上く…」
「でもさっ、俺みんなには感謝してんだ。だってそうだろう?園長が俺を見つけてくれたから俺はここに来れたんだ」
私の言葉を遮ると、バサッとコートの裾をひるがえして立ち上がった。
「視界が変わることで見えるものが増えた。後ろ足立ちあがることで手が使えるようになった。草食動物はみんな餌?人間や他の肉食動物はみんな俺を殺しにくる敵?違う。ここにいるのは仲間だ。俺以外の生き物は餌か敵。そう思っていた俺に仲間が出来た。人語が使えるようになったから華ちゃんともこうしてお喋りができるようになった」
大上くんは私の方を向きなおすように満月を背に向けた。
「園長がいて、華ちゃんがいるから俺は変われたんだ」
そうして、片足を膝まづいた大上くん。私の手を顔の前で握る
「ありがとう。華ちゃん。キミのおかげだ」
どうしよう。今私きっと顔真っ赤だ。
「あと、園長だな」
ですよねー。
ここは昼間は普通の動物園。夜は変身するその名も逢魔ヶ時動物園。
夜の間だけできる秘密のお喋りはまた明日。
じゃあ、おやすみなさい。
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