小説 | ナノ




#トマトワンライ

【きみ/おまえのことがきらいだ】
【食事】



「お前、納豆嫌いなの」

意図的に遠ざけた小さな容器と僕の顔を交互に見て、目敏くきみは指摘した。触れられる気配の無い白い四角い見た目のそれ。母がきっと嫌いだったのだろうそれと、幼い頃に対面した記憶は無かった。ましてや向こうの家では見たことも聞いたこともないそれは僕にとって、興味本位だけで二度と開けてはいけないパンドラの箱。無意識に苦々しい顔をしていたのだろうか、大はまるで面白いものを見つけたとでも言うようにえらくニヤニヤと僕を眺めながら自分のそれを――とっくに蓋を開いた中身を、慣れた手つきでぐちゃぐちゃに掻き回す。思わず薄目になってしまう見た目はもちろん、それ以上に脅威なのは匂いだ。途端に食欲さえ奪われそうなその強烈な匂いに、しかし僕は平静を保つ。こんな安っぽい挑発に屈している場合ではない。

「…そうだな。たとえばきみのそういう、無闇やたらに他人の粗を探して笑いたがる、子どもじみた悪癖と同じくらいには嫌いだ」
「は。…お前、食わず嫌いって言葉知ってっか」
「納豆は確かに食わず嫌いでも、きみのそれは嫌というほど目にしてきたつもりだが」

ふうん。と今度は面白くなさそうに相槌だけ打って、大はぐちゃぐちゃのそれをほかほかと湯気の立つ白米の上に垂らした。見ているだけでぞぞ、と背筋に悪寒が走る。

「俺も嫌いだな。お前のそういう、素直じゃねえとこ」

そんな得体の知れないものが乗った白米をがつがつと掻き込みながら、大は反撃のつもりか、唇を尖らせてぼそりと呟いた。とにかくあれが視界から消え失せたことに安堵して、僕は落ち着いて味噌汁を啜った。奴やその他諸々の一部を除けば、日本の食文化ほど身と心を落ち着かせてくれるものは無いのだ。僕はきちんとわかっている。本当に素直じゃないのが僕ときみのどちらかということももちろん。

「…大。“砂糖食いの若死”を知ってるか」
「は?なに、カジ煮?」
「…何でもない」

伝わらないくらいが僕らの関係には丁度良いのだ、この味噌汁に染みた塩分量みたいに。「つか、これいらねーなら貰うぜ」そう言って大が手を伸ばした30秒後、意地でも拒否すれば良かったと、悪寒に見舞われながら僕は心から後悔するのだった。














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