小説 | ナノ








「お前、大人気ねーな」
そう言ってげらげら笑う奴の横顔を殴り飛ばしてやりたかったがぐっと堪えた。大人気無いのはどっちだ、とか、そういう問題じゃない、とか、言いたいことも山ほどあったのだが、そこに突っかかる体力と時間が無駄に思えたのだ。代わりに沈黙を貫く。「…なあ、怒んなよ」たいして時間を置くことも無く、今度は猫のように擦り寄ってくる大型犬の手の甲を抓ると痛い痛いと喚いた。
「夏は肌出すなって言うし、冬はもっと出せって言うし、そりゃナナミも拗ねるって」
「肌を出せなど言っていない。意味のわからない格好で職場に来るなと叱っただけだ」
クリスマスが近いから。そう言っていかがわしいサンタクロースの格好で出勤してきたナナミを強く叱ったのが事の発端だ。大の言い方には語弊がありすぎる。堪えたものが爆発して、雪の降る夜道に蔓延しそうだった。
「いいじゃねーか、したい格好させとけば。ナナミは制服無いんだしよ。それとも何か、お前もサンタ着たいの」
「きみのその思考回路は理解出来ないな、昔も今も」
「そりゃどーも」
「褒めてない」
ただでさえ大とナナミが同じ空間に居るだけでこちらとしてはリズムが狂い気が気でないのに、当の本人はナナミに対していやに寛容だから、尚心地が悪い。ナナミもそれを理解しているのか、最終的には「ほら、大もああ言ってますし?」と悪びれもなく言ってのける。そろそろ眉間が痛い。
「綺麗な顔が台無しだぜ、オウジサマ」
「きみのその口の聞き方も、せっかく良いご家庭で育ったのが台無しだな、ガキ大将くん」
「うるせー。可愛くねえ奴」
大はそっぽを向いた。彼の肩に落ちた雪は、その瞬間透明になってそのまま消える。距離が縮まっても温度は変わらず、引き際は潔くなったが投げ合う言葉はあの頃と同じくだらなさのまま、今年も冬を越すことが出来そうで、ひっそり安堵する。


















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