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暫くの間、お兄ちゃんはかたくなに家にあの人を連れて来なかった。
理由を問うてみても釈然としない返事ばかりで、これはあやしい、と母と父と夜な夜な会議を開いたりもした。(しかし全て2分と持たず終わった)ただ、夏の終わりくらいから、それまで事件や喧嘩さえ無ければ真っ直ぐ帰宅し夕食を共に摂っていたお兄ちゃんが、理由を言わない外泊をするようになった、それもわりと頻繁に。
「何かあったのかしらね」「大も年頃だからなあ」そう言って母も父も笑っていたけれど、あたしはもちろん腑に落ちない。だから郁人を連れて、DATSに飛び込んでみた。夕勤の淑乃さんが出迎えてくれたけど、あたしの目当ての逞しい背中はそこには無かった。それから、あの人の姿も。
「ピヨモンに逢いたいの」あたしは嘘を吐いた。ピヨモンに逢いたいのは当然、ほんとうのことだけれど、此処へ来た理由はこれじゃあない。郁人は心配そうな眼であたしを見ていた。一体何を心配してくれているのか。あんまり考えたくなかった。
「もう少ししたら、デジタルゲートも開けると思う。知香ちゃんが大人になるまでにはね。だから、もう少し待っててね」
淑乃さんは大人だ。頭をやさしく撫でられて、これだけでもう此処に来た甲斐があったかも知れないと思ったし、そう思った自分が負けだなとも思った。思ってる。
「知香?なんでこんなとこに居るんだよ」
背後から飛んできたのは敗北を確信した後のことで、だからあたしは一瞬びっくりして、反射的に飛びついてしまいそうになる衝動をぐっと堪えて、「最近帰りが遅いから、迎えに来てあげたのよ」すました声と表情を作った。
「…そっか、ありがとな」
なによその間、なによその間に一瞬隣のあの人と顔を見合わせて、アイコンタクト。
「よし、じゃあ帰るか、知香」
差し伸べられた手を取るのに少し躊躇した。あの人も大概大人だなあって、その事実に気付かないフリをして、子どものままで居てたいせつな暖かい手にもう少し甘えて居たかった。

















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