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「“消滅する”、ってさ、たぶん俺、どういうことなのかあんまし分かってなかった気がするんだよな、あの時」
肩を鳴らし気だるげに懐かしい部屋へ入ってきた大が零したのはそんなことだった。
「言い訳がましいわね」淑乃は素知らぬ顔でそっぽを向いた。郁人は、そんな二人をハテナを浮かべた顔で見上げていた。
僕は黙って紅茶を啜った。主語の無い大のぼやきを、なんとなくの範疇で理解して、淑乃の返答に確信する。同時に、まるで自惚れている自分の意識にちいさく絶望する。なんてくだらないことだろう。大が過去形で語ることは多方、その本質を彼自身の心の内に取り込んで昇華しきった後のものだ。つまり、完全に過去になったということ。
理解し難かった“消滅”が、彼の目の前に立ちはだかり、そして過ぎ去った。その瞬間を、彼はとうに通り過ぎ、乗り越えてしまったということ。
大が現実世界に帰ってきて早1年が経ち、再び発足したDATS日本支部は、事件勃発とは程遠い春の暖かい陽気に包まれていた。あの頃頻繁ではない事件は、しかし起きる時には起きる。淑乃の嫌味に言い返すこともせずムッと押し黙っていた大が、けたたましく鳴るサイレンに勢いよく顔を上げた。
「行くぞ、アグモン!」
「おー!」
先陣を切って駆け出して行くのはいつも彼らだ。空になったカップを置いて、僕も倣ってガオモンと共に席を立った。


















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