小説 | ナノ


title by DOGOD69
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内臓が朽ちるバースデー

春は嫌いだ。人が、街が、世界が、確実に移り変わる様を否応なしに見せつけられる。追い縋るための藁は雪解けと共に朽ちて、代わりに剥き出しのコンクリートが体感重力を倍化させて、あとはもう健やかに闘うことしか赦されない。だから春は嫌いだ。それを打ち明けると、きみは不可解な表情を浮かべてから、笑った。「当たり前じゃねえか、人は変わるんだ」そう、当たり前なのだ。僕らがまたひとつ歳を取る春、僕らが出逢った春、僕らを切り離した、春。健やかに闘うこと、それを恐れないきみがいつまで経ってもまぶしい。



眼球が抉られるグロウ

あいつの眼には、俺には見えないものがたくさん映ってる。それに気付いたのは、出逢って何年かして、「ああ、こいつも案外崖っぷちだったんだな」って理解した後のこと。その理解は果たして、俺の頭と精神年齢が判断出来るところまで漸く追い付いたからなのか、それともあいつがひた隠しにしてた瀬戸際感を何かの拍子にぽろっと零し見せてしまったせいなのか。とりあえずあいつも人間なので、泣くという行為の仕方は知ってたみたいで、ちょっと安心した。目玉が飛び出そうなくらい、吃驚したのは内緒だけどな。



神経が削がれるマイワールド

大が現実世界に帰還すると聞いて、まず最初に僕は日本行きの航空券を手配するより前に、書き掛けの論文の一節をすべて消して、新しく一行目だけを書き記して一息つくべく紅茶を淹れたのだった。執事は心配そうに、ともすれば僕以上にそわそわと、日本の天候やら情勢やらを語り掛けたが僕はひたすら茶葉と対峙することに専念した。消した論文の中身など、もう既に思い出せないくらいなら最初から無かったも同然で、天候より情勢より僕が今すぐ日本へ発つことの理由と必要性と言い訳を一から思案しなくてはならない。



鼓膜が裂けるコミュニケーション

そう言えば俺、こういう生き物なんだよなあ。人間界に帰ってきて、改めてしみじみと思った。たかだか六年の冒険はしかし、人格こそ置いておいても体感温度や時間やその他諸々を確実に変化させた。「きみの体は本当に化け物並みだな」「アア?久々に逢っていきなりそれかよ」「治った後でも、そこに傷があったことくらい僕にはわかる。大人しく検査と治療をされろ」「その前になあ、おかえりくらい言いやがれよ、トンマ!」懐かしい匂いがしていた。変わるということを、生まれて初めて少し怖いと感じた。



延髄が呻くハグ

数年の間にあらゆる面で現実世界は発展と進歩を遂げ、その過程には僕の研究の大方ももちろん含まれていた。通信も機械も医療も何もかも、あの頃の僕らや今のきみには想像もつかない程新しい世界へ進んでしまったのに、それでも僕はきみの頭の中にある回路や導線をいつまでも把握し切れない。他のあらゆる全てを知っていても、手にしても、きみの心だけは知れないし手に入らないし何よりそれが口惜しい。手に入らないすべてが。みっともなく溢れる涙をそのままにしておくときみは狼狽えた。「おい、なんだよ、トーマ、なあ、」こんな温もりが欲しかったわけじゃないのにと、言い訳をする余裕すら無い。他のあらゆる全てより今はこの安堵を、すべからく享受するしか無い、がしかし、こんな方法でしかきみに乞うことが出来ない僕をきみはどう思うだろうか。



脳髄が痺れるキス

他人の涙には弱い。でもなんだっていい歳した男がぼろぼろ泣いてる様を帰ってくるなり見せつけられなくちゃいけないのかという腑に落ちない憤りと、あれでも今泣いてるこいつは俺にとって一体他人だったっけ、なんて場違いなことを考えるもう一人の、おれ。どうやら肝心な記憶を六年前のあの場所かもしくはあっちの世界に置いてきてしまったようだ。状況整理に追い付かない頭を掻く。そう言えば、誰かに伝え忘れた言葉が、あったような気がしていた。曖昧な感覚を全身で否定するみたいに、ともすれば泣いてる子どもをあやすみたいに、俺はお前に向き合って泣き顔を見ずに済む手段を取ったけど、やっぱり曖昧な壁はそこにあって、それをどうにか取り払うことが出来ないかと夢中で唇を寄せたのだ、それこそその空洞にじれったい何かの出口を探して。「…きみの、せいだ。きみが、」震える言葉の先を聞きたくなかった。それらは人が人へ愛を与えるための行為だと、全てが終わって、漸く気付く。



脊髄が軋むセックス

自暴自棄になっていたのはお互い様で、僕がきみに自由を許した理由をきっときみは知らない。その理由は確実に、生き物としての生きた時間に空白を持つきみが知れば傷付くものだから、だから一切知られなくていい。涙を流して、血さえ零して、そうやって当たり前に傷付くのは僕の側で充分。なんて、その考えこそがきみへの裏切りだろうか。もっと素直に手を取って、わかりやすい言葉ですべてを打ち明けていれば、きみはそんな恐い顔をしなくて済んだだろうか。だけどこれだけは、これだけはどうか最後まで、隠させておいて欲しい。例えこれがきみの望んだものでなくても、否、望まなかったなら尚更、僕の数年越しの覚悟はやっと慈しまれるのだ、こんな風にあつくていたい時間を共有することで、やっと解放される。『絶対、離したくねえ』きみの言葉を嘘にしたくなかったから、だから最初から無かったことにして、だけど隠し切れない分は今一度、きみの手で粉々に壊してしまってくれ。



心臓が壊れるラヴ

記憶から抜け落ちたということはもうそこには最初から何も無かったのだと言うことに等しい。トーマはなんで泣いてたんだろう?本能のままに、衝動に身を任せても、その答えは見つかるどころか更に遠く、深い靄の掛かった所へ行ってしまった気がした。周りの大人たちに訴えてみても、皆何も知らないと言う。それをトーマに訴えると、トーマはほんとに一瞬だけ絶望したみたいな表情を浮かべて、それからすぐいつものツンとした顔で「人は変わるものだからな」そう言った。俺は何が変わったのか?わからない。とにかく俺は人間なのだと改めて理解して、それからトーマの泣き顔に動揺してなんとなくキスや諸々をして、してしまって、こっちに帰ってきてああ俺変わったのかもなんて自覚した要素はその程度。でもなんでだろうな、なんか気持ち悪いくらいお前のこと、ずっと気にしてる。六年間何処に置いてたかも知れない気持ちが胸に渦巻いて、でもこんなんじゃ、ただの色欲に酔った都合の良い奴じゃんか、それって馬鹿みてえ。なんかもっとお前と俺との間には、もっと馬鹿らしくてもっと大切な何かが、在った気がするんだけど。なんだろうこれは、胸がくるしい。



骨格が砕けるラスト

胸が苦しい、そう真顔で言う大に内科へ行けと言ったらいやお前が診ろよ、だのそういう話じゃねえ!だの喚かれた。「そういう話じゃないなら何なんだ」そう問うとまるで悪戯がばれた小学生のように、途端にむすりと押し黙る。「なあ、お前、何か知ってんだろ」いやに確信を持つ声色は、あの頃のきみのそれよりいくらか低く、僕の意識は半分その生態の不思議へ連れて行かれる。「何かって、何を」「…なあ。頼むから、教えてくれよ」「僕に何かを乞うなら相応の謝礼でも用意してくれないとな、生憎生きてる世界が違うんだ。最も、先に飛び出して行ったのはきみの方だったけどね」「テメェ…もっぺん犯すぞ」「構わないよ。もう僕は泣かない」言ってしまった後に、先手を打ち過ぎただろうか、とヒヤリとしたが、時既に遅かった。「…おう。じゃあもう何も聞かない。たださ、」腑に落ちないながらも決意を固めた顔はあの頃のきみを思い起こさせた。「お前が嫌がることもうなんもしねえから、だから出来る限り傍に居てくれねえか」これを世間では何と言ったか。ああそうだ。デジャヴ。



精神が果てるリボーン

なんだかとてつもなく不毛な争いに感じたので自ら腰を折った。トーマは予想が外れたのか、それとも想定内の範疇に想定外をぶちこまれたせいなのか、とにかく眼を丸くして暫く呆けていた。ああそうだ、俺が言いたかったもうひとつのモヤモヤはほんとにこれ。でも生まれて初めて持つ感情なはずなのに、何処か懐かしい気持ちがするのはなんでなんだろう。「…泣くほど嫌かよ」「泣いて、ない」「あっそ。で、どうなんだ」「…傍になど、わざわざ言葉にしなくても居られるだろう、僕らはともだちだ」「トモダチにわざわざこんなこと言わねえししねえよって時点で察して欲しいんだけどな。やっぱ肝心なとこ言わなきゃ駄目?」トーマは静かに首を横に振った。「言わなくていい」それが建前でなく本音だと俺はちゃんと悟れた。でもお前の前ではもう少しだけでいいから昔通り馬鹿な俺で居たかった。「好きなんだけど。お前のこと、絶対、離したくねえんだ…たぶん、」トーマは涙目のまま、泣かずに、昔通りのませた顔で「絶対なのかたぶんなのか、はっきりして貰いたいところだな」それがつよがりなんじゃないかって、瞬間的に俺は思ったんだけど、考えても考えても一体トーマが何をつよがらなくちゃいけないのかがわからなくて、くるしくて、そこで俺のわからないは限界を迎え、もみくちゃになったキスで潔く果てた。



悪循環

またぼくに恋をするきみに恋をした
















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