小説 | ナノ




隣人を愛せと主は云った。
物理的にも精神的にも、意志を持ちその先に明確な目的が在りさえすれば、誰かを愛することなど容易い。
但しそれはあくまで一方的な愛の話であって、例えば隣人を愛した上でその人に愛された場合の、対応の傾向と対策など、その本の一体どの頁に書かれてあっただろうか。

「…眼には眼を、歯には歯を、かな」
「ああ?」

碧の瞳が瞼に阻まれながら、怪訝な色を浮かべてみせた。

「ナンの話?」
「…隣人の、話だ」
「はあ?ケンカでもしてんのか」
「そうじゃないよ」

彼にとっての不可解は、彼の表情をぐっと幼くさせる。
そのわりに、僕の肩を抱き頬を包む左腕と右手はえらく大人びて、雄々しい色気と逞しさを備えていて、そのアンバランスさにひっそりと胸を打たれることもある。特に、こんな夜には。

「愛された分だけ愛しなさいと、神様が言ってるんじゃないかと思ってね」
「…ヘェ。じゃあ、期待しとかねーとな」

がっちりと身を包囲されて、食らいついてくる唇を避ける術も無く、されるがまま。
下瞼、特に涙袋の辺りがお気に入りらしく、何度も唇で触れ、時折舐めては頬や顎の輪郭を撫でまた唇へと戻る。滑らかに侵入してくる舌が熱い。自然と熱い息を漏らすと、キスをしながら彼は笑う。それすらも滑らかに。背丈や体格は変わらない筈なのに、肩と頬を包む手のひらは僕のそれより明らかに大きい。

「んっ…たぶん、きみが考えてる愛とは、性質が違うんだけどな」
「知らねえよ。俺の愛ほどわかりやすいモンねーだろ?」

きみの笑う顔は好きだ。どんな時でも自信に満ち溢れて、そこにはあらゆる敗北の光も霞んでしまう。
「そうだね」きみの自信を確信に変えるような、正しい返事を果たして、出来ただろうか。
照れ隠しを更に隠そうと、今度は自分から目の前の唇に自分のそれを押し付けた。これじゃあ結局、愛される際の対応としての傾向と対策というより、やっぱり一方的な愛の押収かも知れない。眼には眼を、歯には歯を。けれどまたきみがこんな近い距離で笑うから、僕は僕ときみの愛にまた今日もすくわれる。















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