小説 | ナノ




ブーケが空を飛んだ。滑らかな弧を描いて、ドレスのひしめき合う円の中央に落ち円からは歓声が上がる。その中には知香の姿もあった。純白のドレスに身を包んだかつての同僚は、俺達の知らない男の隣でしあわせそうな笑みを浮かべて居た。



「綺麗だったな」
「あ?」
「花嫁は、どの国で見てもみんな、とても綺麗だ」

つい半日前のこと、ベッドの上で仰向けに転がって、反芻するトーマを横に同じように転がって俺は見て居た。
式の二次会でぐでぐでに酔っ払って、柄にもなく二人で肩組んで笑ったりして、淑乃には「あんたたち、そんなに仲良かったっけぇ?」なんて軽口を叩かれたりして、ふらつく脚のままノリだけで入ったラブホテル。一目散にベッドに飛び込んだ俺と、スーツが皺になるのを一瞬躊躇って、それでもおずおずと隣に寝転がったお前。8年ぶりの再会の夜に二人っきりでラブホテル、なんて、8年前の俺達が見たら悲鳴を上げる光景だろう。
とは言えベッドに飛び込んだ時点で軽く酔いは醒めていた。トーマはまだほんのりと首筋まで真っ赤にして、俺の見慣れない眼鏡の向こう、昔と変わらない蒼の瞳が微睡んでいる。

「こういうとこ普通に入るんだな、お前も」

なんともなしに言った。

「…残念だけど、はじめてだよ」

おざなりに前髪を掻きあげて、気怠そうな顔と声で言うトーマを見て、俺は安堵した。なんともなしなんて嘘だった。少なからず動揺したこと、俺は絶対一生お前に悟らせるわけにはいかない。
蒼い眼を覗き込もうと、寝転がったまま肘をついて隣の体に寄り添った。「…何だい」眼が合う。何も言わずに居ると次第に真下の顔が苛立ちを見せ始める。「…べつに」漸く零した言葉は我ながら可愛げが無かった。
トーマは溜め息を吐いて、俺の体を押し退けてベッドから降り立つ。ジャケットを脱ぎながら、きょろきょろとシャワールームを探す、後ろ姿をただ見ていた。
ふらりとその脚が部屋の入り口の方へ向かって、消えた。シャワーの音が聞こえる。すぐにまたトーマは出て来た。すかさず飛び起きて、シャツのボタンに掛けようとする手を、体を、力いっぱい抱き締めた。

「大?」
「…なあ、俺達、さ」
「…」
「…や、何でもない」

零そうとした言葉は、舌に絡まって、溶けて無くなった。だから代わりに8年ぶりのキスをした。「…ッ、」そのくぐもった声は確かに怯えていたんだけど、全部無視した。シャワーが床を叩く音をBGMにして、邪魔な眼鏡も奪い取って、何度も何度もキスをした。トーマは抵抗なんてしない。細い体を抱き抱えて、ベッドへ連れ戻す。


「あれから、俺以外と、した?」

愛撫の最中、なんともなしに聞いた。
吐息と小さな悲鳴の合間、トーマは神妙な、或いは何処か傷ついたような顔をして、でもすぐ気丈な笑みを以って、「残念だけど、きみ以来、かな」言葉とがちがちにキツい穴で俺を肯定する。
「そっか」それから何度も何度もセックスをした。なんともなしなんて、やっぱり嘘だった。





この3年後に、あきらめきれない
















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