小説 | ナノ




「…」
「…」
「…」
「…久しぶり、だね」
「…ああ。さっきの奴、だれ」
「…きみには、関係無い」
「関係あるとか無いとかじゃなくて気になるから聞いてんだよ。そんくらいわかれよ」
「…」

それっきりまたトーマは押し黙った。なんか尋問してるみたい、と思ったら途端に馬鹿馬鹿しく思えてきて、そもそもこの為に今ここに乗り込んできたんじゃない、と大は思い直しその勢いでつかつかとトーマに歩み寄った。冷静を装う表情の中で、記憶の中に何度も見た蒼い瞳が、揺れていた。

「なあ。俺、アンタのこと気になってんだけど」

率直に言った。トーマは黙ったままなので、構わず続ける。

「アンタのこと考えてたらすっげーイライラしてくるけど忘れらんねえし、さっきみたいな奴がアンタの周りうろちょろしてんのはもっと腹立つし、その癖アンタが、俺のことなんて一つも気にしてねーのかなとか考えたら、死ぬほど嫌だ」
「…」
「ってことはつまり、アンタのこと一人で考える暇も無いくらい一緒に居て、変な奴が寄り付かないようにして、俺のことばっかりずっとアンタが考えてくれたら死ぬほど嬉しいんじゃねえかなって、思って。それを確認したくて来たんだけど」
「…随分極端且つ傲慢な考えだな」

漸く口を開いたかと思えば可愛げのない返答に大の眉はぴくりと動いた。トーマは更に「思春期特有の思い込みに振り回されてるだけなんじゃないか、きみのそれは。必ずしも相手が僕である必要性が無い」と牽制する。「関係性とか、必要性とか、そんなんばっかりだな、アンタ」大も精一杯大人ぶって応えた。トーマはまた言い得ぬ溜め息を吐く。

「…確かに、最初に優しくしたのも、手を引いたのも僕だ。安易なことをして悪かったと思ってる。ただ、きみをこれ以上振り回して、きみの価値観を曲げてしまうのは良くないと思って」
「はあ?」
「きみはまだ若いんだ。僕なんかと一緒に居るより、普通に女性と付き合って、一般的な経験をそれなりに積む方が、後々きみにとっても」
「ふざけんなよ!」

淡々と語り続けられるトーマの言葉を大は激高で遮った。トーマは「え、」と驚愕の色を浮かべ視線を上げた。大きな瞳が真っ直ぐ、自分を捕らえていた。

「安易とか普通とか一般的とかどーだっていいよ!アンタのその、俺のことを気遣ったみたいな言い草が建前なのか本音なのか知らねーけど、何回も言うけど俺はアンタのことばっかずっと考えてるしアンタにもおんなじようにずっと考えてて欲しいんだよ、俺のこと!」
「まさ、る」
「考えらんねーなら考えるようになるまで何回だってここ来るし、そうやってアンタがしょーもないことで悩まなくなるまで俺からも何もしねー。キスも、それ以外も、全部、だから、」

なあ、たぶんもうほんとの意味で好きなんだよ、アンタのこと。

最後は息が続かなくって、ついでにだんだんこっ恥ずかしくなってきて、絞り出すような声だった。それでも言った。言いながら、(ああ、こんなこと思ってたんだな、俺。)と何処かで自分を俯瞰して見ている自分が居る気がして変な感覚になった。
トーマは驚いて、戸惑って、暫く口をぽかんと開けたまま大を見ていた。勢い良く捲し立てられた大の言葉を、時間差で汲み取り、反芻して、咀嚼して、飲み込む。その過程で、じわりと喉元から熱が生まれ体に拡がっていく。

「…きみは、本当に、真っ直ぐなんだな。いつもいつも」
「…」
「僕も、きみのことを、ずっと考えてた」
「…え」
「僕と居ない時にもきみが僕のことを考えてくれて居たら、なんて想像することもあった。その内、同性ということも無視して僕のことを好きだと言ってはくれないだろうかと、願ったりもした。でもきみは、僕とは違う人間だから、安易に欲しいなどと言ってはいけないと思った。…たぶん、本当の意味で先に好きになったのは、僕の方だよ」
「…トーマ、」
「これで、満足かい?」

そう微笑んだ彼に、大はまた一瞬、見惚れた。もうこれで何度目だろう、見惚れるを体感するということは。ぼんやりと頭の隅で場違いなことを思いつつ、今度は自分が、トーマの言葉を一つずつ咀嚼し、飲み込む。

「…やべ、死ぬほど嬉しい」

ぽつりと呟いて、それから、ほとんど無意識に目の前の体を抱き締めた。加減がわからなくて、とにかくひたすら、力強く。大人ぶった笑みとは裏腹に、真っ赤に染まった耳と頬が、抱き締めた体温の温かさが、嘘みたいなほんとの気持ちをまるで子どもみたいに赤裸々に表して居た。












「なあ、ところでさ」
「なんだい?」
「さっきの奴と、チューした?」
「…」
「…」
「…すまない、不可抗力で」
「…」
「…」
「…消毒しなきゃな」
「僕が悩まなくなるまでしないって、言わなかったか?さっき」
「これは別モン。それに、もう悩ませねえから。消毒兼ねて、誓いの口付けってヤツでいーよ」

そう言ったらまた微笑ったその唇に、ありったけの気持ちを込めて優しく齧り付いた。




fin.










あとがき↓
年下×年上、熱血なのにドライ×ツンデレクール、ノンケ×ホモなどなど個人的な萌えを全部ぶちこんだらもはやマサトマである必要性が見出だせないレベルのただの乙女blになりました。反省してますが後悔はしていませんすみません。とりあえず馴れ初め編終了です、無事(?)引っ付いて良かった良かった。
まだまだ表に出てない設定とかも後日談的に書くつもりなのでご興味ある方は引き続きお付き合い頂ければと思います。多謝。















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