小説 | ナノ




冷静なのはかたちだけ。理性と衝動が、自尊と自責が、頭の中でぐるぐると廻る。



やってしまった、と思った時にはもちろん時既に遅し。全てが終わった後、蕩けた顔とは裏腹に強い力で腕を引かれ、唇を吸われた。けれど僅かに残った理性を総動員させて、すぐに体を引き離した。(これ以上は、駄目だ)不思議そうな顔をして見上げる大に、トーマは「…もう、終わりだよ」とそれまでとは一転、冷めた声を作って言った。

「え、なんで、」
「いいから離せ。そして仕舞え」

主語の無いそれを大は即座に理解して、言われるがまま手を離した。するりとそこから抜け出て立ち上がり、「冷めてしまったな、淹れ直そうか」と二つのカップを持ってキッチンに向かう。後ろからカチャカチャとベルトの擦れる音と、「おい、待てよ」焦りから少し上擦った声が聞こえたが、無視して湯を沸かす。

「待てって…なあ、トーマ」
「…待ったところで、どうしろと言うんだい」
「だって、あんたも…」
「いいんだ。きみが良かったならそれで」

態と吐き捨てるように言うと、大は不可解そうに、ともすれば面白くなさそうな顔をして、唇を尖らせた。

「…帰る」

湯が沸く直前だった。大はぼそりと呟いて、そのまま大股に玄関を目指し出て行った。トーマには一瞥もくれずに。
残されたトーマは溜め息を吐いて、普段よりも砂糖を多めに一人分の紅茶を淹れた。


その夜は矢張り眠れなかった。夜毎思い出す強い瞳に加え、唇や肌に触れた感触と、熱に浮かされた声を反芻し、自然と己の自身に手が伸びた。己を慰めながら、思い浮かべる彼の名前を、口から漏らさないよう必死で、果てた後はただ無性に虚しかった。














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