小説 | ナノ




「おれは?」二つの意味を含ませて問うたのは、無意識のことだったような気がする。好奇と期待。きっちり掬い上げて尚その上をいく展開から、手招きする彼から、目が離せない。



「…試してみるかい?」

まるで誘うような言葉と、頬に触れる指と、薄く笑ったくちびる。目が離せなくて、そのまま吸い寄せられるように目の前のそれに口付けた。
動じること無くじっと俺を見つめたままの相手の様子に、ああこの流れは正解なんだ、なんて今更なことを思って、一瞬僅かに離れた唇を再度押し付ける。頬に触れていた手が落ちて、代わりに両腕を首に絡められてそっと、しかし確かな力で引き寄せられて、先刻よりも口付ける角度が深くなった。
幾度か表面を啄むように口を動かすと、観念したようにトーマはその目を閉じて、生暖かい舌で俺の唇の表面をちろりと舐める。すぐに引き返そうとするそれを追い掛けて、舌を差し込み先端を押し付けた。「んッ、…ふ、ぅ」肌に、口に、直接相手の吐息が掛かって、それまでの姿からは想像も出来ないくらいの甘い声に、どうしようもなく興奮した。絡み合う舌からは、いつもの紅茶の味がする。
互いの口周りが唾液でべとべとになるのを感じながら、暫く相手に誘われるまま夢中で唇を貪っていた。あまりの至近距離で響く艶めかしい声はまるで麻薬のように、鼓膜から体中に溶けて熱を生み出す。

不意に、肩を弱々しく押す力に気付いて、舌を引っ込めるとトーマは荒い呼吸を抑えつつ神妙な表情を浮かべた。

「…女性との経験は、あるのか?」

その問い掛けに、それがキスのことなのか、キスを含めたいろいろのことなのか、瞬時に判断しかねたけれど、どちらにしても答えは同じだったので「ああ」とだけ言った。「そうか。なら、いい」蒼い眼がまた、寂しそうに揺れたような気がしたけど、それについて訊く余裕は無かった。覆い被さる勢いで擦り付けていた体を、トーマは優しく押し返して、今度は逆ににじり寄られるような格好になった。背凭れに背を預け体制を落ち着けると、耳元でその低く甘い声は囁く。

「無理があれば、目を閉じて、女を想像するといい」

どういうことだと問う暇を与えず、トーマはするりと体制を落とし、床に膝をついた。それから、脚の間に体を割り込ませて、徐ろに大のベルトに手を掛ける。「…え、」想像以上の展開に大は思わず眼を見開いた。が、ズボンの前を寛げさせ下着越しに、しっかりと反応している自身を触られると、興奮と気恥ずかしさから何も言えず赤面するしか無かった。
そんな大の反応をちらりと上目遣いに見て、至って冷静に、トーマは下着をずらし取り出した大の自身を躊躇無く口に含んだ。右手の指を竿に絡め、裏筋をなぞるように扱きながら、舌で先端を刺激する。零れ出る唾液で動きは徐々に滑らかになり、つられて大の息も上がる。(やばい、やばい、ヤバい、)強烈な刺激に、締まらない口からは吐息が漏れた。

「っは、…トーマ、」
「……ん、我慢しなくて、いい」

直接的な刺激に大の自身は生温い口内で膨れ上がり、喉奥まで圧迫する。諭すような言葉に促され、思わず腰を口の動きに合わせ軽く突くと「んっ、んぅ」と抑え切れずトーマも声を漏らし、その様を見下ろして大は尚全身の血が昂ぶるのを感じた。眼を閉じることも、女を想像することも無く、人形のような綺麗な顔が自分のものを咥えている光景とその刺激だけで頭は興奮で真っ白になった。
唾液と先走りが混じりあって、びちゃびちゃと淫らな音が響く。「…なぁ、もう…ッ、」丁寧な愛撫の末、裏筋をなぞり上げながら先端をより強く吸われ大は吐息を零し果てた。
口で受け止めたそれを、眉根を寄せ自然な手つきで手繰り寄せたティッシュに吐き出すトーマをぼんやりと見ながら、快感の余韻に浸る。思考が覚束ない。

「…どうだった、なんて、聞くのは野暮かな」

そう言って微笑むトーマに見惚れた。(そうだ、見惚れるってこういうこと。)余韻の抜け切らない頭のまま、今度は自分から相手を誘うようにその腕を引いた。














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