小説 | ナノ




知らぬ間に、犬は思いの外自分に懐いていたようで、面食らうと同時に何処か嬉しく思う自分も居た。 これでは何のために最初の日にわざと冷たくして追い返したのかわかったもんじゃない、とあれから毎晩考えている。更には、犬はれっきとした男だった。わかりきっていたこと。瞼の裏に映る強い瞳と寝返りの無限ループ。頭の中の信号が赤点滅している。



「高校生を連れ込むなんて、犯罪ではなくて?」

三度目の大の来訪の後、奥の部屋からひょっこり顔を出したナナミに、さも可笑しそうに言われた。耳がぽっと熱くなるのを感じる。

「連れ込むも何も、向こうが勝手に上がり込んできているだけだ」
「あら、そのわりにトーマも楽しそうにしていたわね。ああいう子が好みなの?」
「ッ…、好みも何も、」
「顔、真っ赤ですわよ」

全てを見透かすようなナナミの物言いに思わず口の中で舌が絡まる。ふふ、と可憐に笑って頬に手を添えてくるその仕草はあまりにセクシュアリティを前面に打ち出すもので、これがナナミで無ければ、と思うとぞっとした。そもそもナナミ以外の女と部屋を共にするなど一晩でも断固拒否したいくらいだ。かと言って、ナナミとの共同生活も元来望んでいたものでは決して無かったのだが。

「あの子にはきちんと言ったの?わたくしはただの居候ですって」
「…そもそも、きみのこと自体話して居ないが」
「まあ!ならきっと勘違いしているんでしょうね。かわいそうに」
「かわいそうも何も、関係の無いことだろう。きみにも、彼にも」
「そうかしら?」

ぱ、と手を離しナナミはキッチンに向かう。ランジェリー姿の背中はまた一段と痩せたように見えたが、柔らかな丸みはバランス良く保ったままで、きっとあれは女性として極上の体なのだろう、と他人事みたいに思う。
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをこくりと飲んで、ナナミはまた悪戯に微笑んだ。

「あなたが同性愛者で、もし彼が恋愛対象になり得るなら、もう関連はあって然るべきではなくて?」
「…」
「少なくとも女のわたくしなら一番に気にしますわ。気になる人には、いつだって誠実な対応をしたいもの。まあ、あくまで女の意見ですけれど」

至極最もだと思った。だが、それを言葉で認めることも、かと言って闇雲に否定することも、躊躇われた。ナナミは頭が良い。きっと僕のこの戸惑いだって、きちんと見抜いている。だからこそ身を以って優しく僕を詰るのだ、そこに悪意は無い。
ただ、その晩以降もやっぱり、あの瞳をひたすら思い出している。彼はまた来るだろうか。またこの部屋で、紅茶を飲むだろうか。ひたすら考えて、知らず知らず願っている。







フラグがあるようで全く無いトマナナ萌え。この話を書きたいだけだったのに前フリ長過ぎてもう何がなんだか。ぼちぼち続きます。















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