小説 | ナノ




喧嘩番長の異名は伊達じゃない。その証拠に、今日も他校の男達を五人ほどのしてやった。予想外だったのは三番目くらいに殴り倒した筈の奴が、完全にイッた目をして鉄パイプをいきなり振り上げてきたことで、後頭部にモロに食らって思わず膝をついた。が、お返しに更にボコボコにしてやった。「覚えてろよー!」情けない捨て台詞と共に逃げ去る五人を見送った後、ピンピンしてた筈の体から一気に力が抜けて、倒れた。ばたーん。その後の記憶が無い。


目が覚めると見知らぬ部屋のベッドで寝ていた。
痛む頭に呻きつつ起き上がり辺りを見回すと、学校の図書室に鎮座しているようなサイズの本棚にびっしり詰まった本、本、本。それとオーディオ機器、傍には英字しか書いていないCD達。台の隅には、小さな鏡台と散らった化粧道具。女の部屋?まさか意識を失ったまま何処ぞの女の部屋に忍び込んだ上ベッドインなんて…うわぁああ、と動揺して大が頭を抱えた時、ドアが開いた。

「目が覚めたか。具合は、どうだ?」

低く落ち着いた声は間違いなく男のそれだった。見上げると、(あれ、女?)艶のある金髪に蒼い眼をしたまるで人形のような人間が、ドアから半身を覗かせてそこに立っていた。

「あ…えっと…ここ、どこ」
「僕の部屋だ。まあ、無理も無いな」

人形のような人間はやっぱり男だった。溜め息を吐いた男は、すぐにぱたりとドアを閉めた。突然で不可解な出来事に混乱する頭を再度抱えた。殴られたせいか、無用に動こうとするとズキズキ痛む。
再びドアが開き、男は部屋に踏み入って来た。

「飲みたまえ。あと、まだあまり動かない方が良い」

そう言ってグラスを手渡された。「お、おう」大は恐る恐るそれを受け取り、言われるがままに飲んだ。ただの水だったが、乾いた喉が急激に潤う感覚が心地良い。

「見える部分の手当ては簡単にだがしておいたよ。帰っても痛むようなら改めて病院に行くように」
「あー…ハイ、ども。って言うか、あんた誰」
「家の近所で軽傷を負った人間が倒れていたので拾って看病した、親切なただの他人だよ」

そう言って、人形みたいな親切な他人はちっとも楽しく無さそうに笑んだ。日頃強気で怖いもの知らずな大もさすがに怯みそうになったが、ここで引き下がってはいけないと無駄な闘争心に駆られる。

「あっ、その、ありがとう、ございま、した」
「構わないよ。ただ、何があったか知らないが、道端で寝こけるのはもう金輪際やめた方が良い。傍迷惑だ」

男はベッドの縁に腰掛け、一緒に持ってきていたマグカップに口を付けた。(なんか、ヤな奴)嫌味のような言葉に、大は介抱して貰ったことを棚に上げ心の中で毒づく。
そんな大の心中を知ってか知らずか、男は不意に蒼い瞳を大に向けた。(マジで人形みてぇ)間近で見ると肌も陶器のように透き通って、身に着けている黒のカットソーとのコントラストに、金髪と蒼い眼がよく映えている。思わずまじまじと見つめて居ると、男は怪訝な顔をした。

「…僕の顔に何か付いてるか」
「いや、その…」
「顔色も良くなったし、帰るといい。もうじき日も暮れる」
「…なあ、アンタ名前なんつーの?」
「知らなくていい。さっさと帰りたまえ、玄関は廊下に出て左だ」

ぴしゃりと。男は吐き捨てるように言った。(マジかよ!)大は今度は心の中で頭を抱えた。ここまで他人に手当てだの親切なことをされるのも、ここまで他人に冷淡な対応をされるのも、生まれて初めてだったがもはやそれらは混乱と苛立ちの種にしかなり得ない。「ハイハイ、どうも!」捨て台詞だけ残して部屋を飛び出した。男の言った通り辺りはすっかり日が落ちて、苛立ちも相まって通い慣れた道が滑走路みたく走ることを強要してくるような感覚に見舞われた。(やっぱり、ヤな奴、ヤな奴、ヤな奴!)果たして家に帰り着くまでに、心の中で何回叫んだだろうか。















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