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See Sea She




ヤマトとマンションの下で出くわしたのは本当にただの偶然だったけど、「夕飯、今から作んの?」とヤマトの手に下がるスーパーの袋を覗き込むように言ったのは、多少なりとも下心があった。それから、「そうだよ。親父、今日も帰ってこねーから」そうヤマトが苦笑するのは必然だったと思う。「じゃあ、」だからその続きも必然だった。きっと、ヤマトもおんなじように思ってただろう。

久々に上がり込んだ石田家のリビングは相変わらず整頓が行き届いてるようで案外そうでもない、中途半端な綺麗好きの住む家そのものだった。ちらりと視界に入ったシンクはぴかぴかなのに、床には普通にくたびれたスーツの上着が落ちてたりする。

「昨日、リビングで寝こけてたんだよ、親父の奴」

言い訳するみたいに言ってヤマトは上着を拾った。「相変わらず忙しいんだな」「まあな」ヤマトの親父さんはだらしないとこもあるけど、いざって時には凄く頼りになるし厳しくも優しい大人だ。それはきっと俺たち共通の認識だし、ヤマトだってもちろんそうなんだろう。だから変に流したりせず笑っておいた。だらしない家やだらしない家族を、他人にわざわざ見せて笑い話にするなんてことも、そうそう無いだろうから。
リビングのテーブルの上には無造作に置かれたテレビのリモコンと、新聞と、親父さんのものと思われるテレビ番組の企画書(いいのか、こんなモンこんなとこ置いといて)、それから、

「…関西?旅行行くのか?」

観光ガイドの本が、迷子みたいにぽつんと他の物から距離をとって机上に落ちていた。ヤマトは「ああ、」何故か少し戸惑ったような顔をする。

「空と行くんだ?」
「…まだ、行けたらいいなって段階だけどな。親父さんが居る京都にも行きたいって言ってたし」

キッチンに向かうヤマトの背中が喋る。がさがさ、スーパーの袋が擦れる音が一緒に聞こえる。本を手に取りぺらぺらと頁を捲ると、有名な観光スポットの写真や食レポみたいなものがずらりと載っていた。

「…へえー、いいじゃん。俺もUSJ行きてー」

なんて返事をしようか、一瞬悩んだ自分には気付かないフリをしようと思った。

「その気になればすぐ行けるだろ、大阪くらい」
「…まあ、そりゃフランスや島根よりは近いだろうけどさ」
「なんで不貞腐れんだよ。それより、晩飯食ってくだろ。何食いたい?」

エプロンを身につけながら問い掛けてくるヤマトの自然さは凄い。なんでも我が儘聞いてくれそうなこの感じ、小学生の頃から変わらないからもっと凄い。「何でもいいー」なので、今日も存分に甘えさせて頂く。
頁を捲り続けてると、カップル特集なんて文字が目に飛び込んできた。下世話な俺はちゃんとその頁も眺めて、ついでにその頁がきちんとチェックされた形跡があるか否かも、チェック。
こういう光景を、いつか俺は抱き止めるんだろうって予感はしてたんだ、あれからずっと。今、ヤマトが俺と一緒に食うための飯を準備してることがごく自然なことみたいに、久々に顔を付き合わせてもまるで昨日の今日みたいに話が出来るのが当たり前のことみたいに。或いはそれ以上に、ちゃんと見えてたし見据えようと思ってたよ、こういうミライ。

「ヤマトー」
「なんだよ」
「今日、カレーだ?」
「おう。スペシャルメニュー」
「ありったけ水くれ、水」

今更駄々の捏ね方なんて、思い出せやしない。
















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