また逢う日まで、さようなら

ひら、と
まるで季節外れの雪のようだと思った。

舞い上がり浮かぶそれは、雪にはない暖かさをもって金色(こんじき)の景色を白く彩る。


「アキちゃん」


やわらかくわたしの名前を呼ぶ声に振り向けば、視界は青髪の少年の姿を捉えた。


『どうしたの、   』


わたしが呼び返せば、彼は儚げな笑顔わたしを見つめ


「僕はきっと遠い場所に行ってしまう」

『遠い場所?』


外国とかだろうか?
言った彼の声がやけにはっきり聴こえて。
ああ、これは君が固い意思で決めたことなんだねって思えた。
だから、その先の不安を無くすようわたしは言葉を返す。


『大丈夫だよきっと
遠く離れたって通じてきたもの、わたしたち
いままでだって、これからも――』


遮るように彼は首を振って否定を示した。
どうして、と言おうとしても喉がからからに乾いて声が出てこない。
その光景を客観的にもう届かない、と思ってしまう自分が憎らしかった。


「僕が居なくなってアキちゃんには悲しんでほしくないんだ

きっといつか会えるから
だからそれまで」

僕のことは忘れて――


そう、悲しげに言った彼の顔は一斉に舞い上がった綿毛に遮られて見えなかった。

あれ、"彼"って誰だっけ。
さっきまで顔を合わせていたはずなのにわからなくて。
顔が、名前が、愛しかった思い出が、全部白く塗りつぶされていく。
愛しかった?そうだ、わたしはあの人のことを愛していたんだと。

それだけは絶対離さないよう記憶に留めて、わたしは白に染まる世界に溶けていった。




―――目が覚めるといつもと変わらない朝で、いつものわたしの部屋。
何も変わらないはず、なのに胸にはぽっかりと穴があいたような気持ちになって。


『夢、見たような』


なんだっけ
いくら考えてもわからなくて、枕に埋めた顔を離して窓に向かう。

カーテンと共に開けられた窓から初夏の心地よい風。
庭先のタンポポの綿毛が舞い上がって幻想的な光景をみせた。


『、…っ……あれ…?』


気がついたらわたしの眼からは涙が溢れていた。
どうしてなのか、わからなくて、それでも目から零れる雫は止まらなくて。
けれど、自然と胸のぽっかりした気持ちは無くなって。
包まれるような陽溜まりのなか、わたしは涙を流しつづけた。


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タイトルはタンポポの花言葉
離別、真実の愛
また逢う日までさようなら




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