なんだか夢みたいだ。

俺が生まれてきたところから地面を強く蹴りつけている今までがすべて嘘なんじゃないかと疑いたくなる。

生きるってことはそもそも偶然の連鎖が続いている奇跡の象徴みたいなもので。

俺という存在が、この地球に人間として足を二本貰えたって些細なところから、難関高校と名高い秀才が集う学校へ入学できたのってこともなんだかすごい偶然のような気がする。

そこが男子高校で男に飢えている野獣どもの溜まり場だってことに気付けなかったのも、運命的な匂いがぷんぷんする。

でも俺みたいな何の才能もセンスも美貌も持ち合わせていない凡人が目をつけられるだなんて思うか?思わないだろ。俺だって考えたこともなかった。

心臓が爆発しそうだ。杯も呼吸器官も全部熱で燃え尽きてしまいそうだった。

それでも、休むことは許されなかった。

なぜならこの世に俺と同じ年に産まれた奇跡的な変態二人に追いかけられているからだ。これまで運命ってなげやりに名づけるなら俺は神様を死ぬ気で怨もうと思ってる。

きめられた一日の授業を受け終わり、あとは放課後が残っているだけになった瞬間戦いが始まる。鞄をひったくり風になった気分を味わえるほど全力疾走をしてげた箱を目指し靴を投げ捨てる。

途中の階段なんてゆっくり下りている時間はないのでほぼ二段飛ばしでハイステップを踏む。たまに失敗して足を変な方向にくじくか転がり落ちるか、基本どちらかの災難に見舞われるが本日は運がよく不幸には出くわさなかった。

「哲くーん!」

「哲!」

砂埃を巻き起こしながら校庭を駆け抜けた。あと少しで校門をくぐれるといったところで背後から妙に甲高い声音と地響きのような低い声が重なって響いてきた。ぎくりと背中に汗が滴る。振り返るまでもない。

俺を悩ませる二大原因の一つだ。腹が立つほど綺麗なあの金髪と、意地悪さ純度100%のあくどい表情を思い返しながら俺は校門をくぐりぬけてターンをした。勢いをつけすぎてかかとが軽く摩擦でえぐれた音がする。


「待って!待ってよ哲くん!ねえ哲くん!なんで逃げるの!?なんで!?もしかして俺がプレゼントっていう名目でハイヒールと薔薇の刺繍が入った鞭をおくったから!?でもね哲君聞いて!俺どうしてもそれを装着した君に思う存分踏みつけられたかったんだ!この気持ち哲君にはわからないかもしれないけど!哲君はドエスの女王様だもんね!ロウソクが似合うドエス目指してるもんね!俺なら全部受け入れてあげるから止まって!そんで砂でじゃりついたその靴で俺の鳩尾あたりを思いっきり踏みつけて!」


「待て哲!なんだ俺から逃げるのか?いい度胸をしているな。そんなにお仕置きされたいのか!今度はナニをしていじめられたい?牛乳を鼻から飲ませてやろうかそれともお前の大嫌いな納豆を口いっぱいにねじ込んでほしいのかよ別に逃げなくてもひどくされたいならそう言ってくれればいいのに!照れるなよ!たっぷり可愛がってやるからとりあえず止まって汗だくになって酸欠状態の哲を見せてごらんたまらなく興奮するから!たまらなく興奮するから俺!」


一向に止まろうとしない俺に悲痛な叫び声がかけられる。

絶対やだわ!金いくら積まれたっていやだわそんなもん!切実に叫んでもやらねえわ!あとドエス

名前は忘れたがこのドエム男とドエス男はどうも俺のことを勘違いしているらしい。まさに自分のゆがんだ性癖を満たしてくれるのは哲だけだというのが彼らの持論のようだ。

さっぱりわからん。頭がいいやつの考えることはよくわからない。分かりたくもない。そんなんなら俺一生凡人でいいや!

「ついてくんな変態ども!ああっ!?なんべんいったら俺にはそんな気ねえってわかってくれるんだよ!」

「奴隷って主人から離れちゃ死んじゃうんだよ!ああんっもうじらすね哲君はほんと!そんなところも好き!じらして楽しんでるんでしょ!このドエス!」

「ついてくんなって言われたらついて行くだろ!哲が嫌がることならなんでもする!嫌々言いながらも内心では嬉しがってるんだろ!この救いようがないドエム!」

精一杯言い返してやるが、あっさりわけのわからない言葉に打破される。

そのまま口汚い追いかけっこは続いたがやがてゴールが見えてきて、速度をあげた。もう死ぬんじゃないかってぐらい全速力で玄関のドアを思いっきり開いて転がりながら中へ入った。

今日は逃げ切った。俺の勝ちだ。

勝った余韻に浸る気分になれないほど披露した俺が玄関で倒れこんでいると、アイスを加えた妹が白目で見下ろしてきた。

「お帰り。今日もお友達と追いかけっこ?」

「ただいま妹よ。今日も追いかけっこだ」

でもこんな友達いらないし友達だなんて思ったこともないよ!

続く言葉は荒い呼吸にかき消されてしまう。

さて次はどちらが勝つのか。

もしどちらかにつかまってしまえばひどい目にあうだろう。絶対に負けられない勝負。ドエスとドエム。どちらの手中に落ちるのも嫌だし、あいつらが飽きるまで全力で逃げ切ろうと思いました。

どんどん付いていく体力に複雑になりつつ、握りこぶしを額の上に置いた。





全力エンカウント!!


(おっはよー哲君!今日もかわいいね寝癖ついてるよ舐めてなおせってこと?はあはあ哲君ってほんと意地悪!)
(パン加えて出てくるなんて誘ってんのか。喉の奥までぐっと押しこんでむせさせたい)
(なっなんでお前ら朝からいるんだよ!)
((哲(くん))と一緒に学校行きたくて)
(ふっふざけんな!死ぬ!マジで死ぬ!)
(あっ哲君待って!)
(逃がさないぞ)
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