「生まれて初めてっていうフレーズあるじゃん?」

飴を口いっぱいに頬張りながら篠原初がそういったので千晴は携帯をいじる手を止めた。

昼時のカフェテリアで市販の飴を食べあさる篠原初に千晴は目線を合わせる。言いたいことはたくさんあったがとりあえずカフェに来てるんだからカフェで頼んだものを食べなよと言いたかった。言いたかったがそれより先に篠原がごくりと喉を鳴らして話を始めてしまった。

「ほら巷で有名なアレアレ!うまれ〜てひゃっはっはーじめーてって奴!」

「うん知ってるよ。途中で噛んだのはあえてスルーするね!」

「かっ噛んでないし!」

「はいはい。それがどうしたの?」

真っ赤になってテーブルを叩いた篠原を落ち着かせにかかる。篠原がむっすりしながら黙り込む。ふて腐れたような横顔に千晴はどう機嫌を直すべきかを考えたが、勝手に飴をまた舐め始めたのでそっとしておくことにする。

「あの映画の歌ってすげぇ頭の中に残るよな!俺、もう半分以上覚えたぜ!」

「へーすごいな流石篠原君」

「そっそうかな!俺流石かな!?」

照れて袋の中に入っていた飴玉を机の上にぶちまける。カラフルな包装に入っていた飴が広がっていき落ちそうになったものを掌でキャッチしてまた机の上にそっと置いた。一気に機嫌を取り戻した篠原にほっとしながらコーラを飲む千晴。

すると隣でジャンボパフェを切り崩していた桜井が会話に入ってきた。

「ああアレな!俺見に行ったぜ!」

「えっ嘘マジかよ!俺まだ行けてねんだけど!」

「まだ行けてないのに誇らしげに語ったの篠原君!?」

「うっうるせえ!それでどうだった!?やっぱり生まれて初めてだったのか!?」

「普通に面白かったと思うけどな〜俺グルメ映画見に行く予定だったけど間違えてチケット取っちゃって!あんまり内容覚えてないんだわハハッ!やけくそでポップコーンばっかり食べてた!」

無邪気に笑いながら桜井は散らばる飴に手を伸ばして包装を破った。そしてひょいっと口の中に入れて一舐めもしないうちにガギリと鈍い音を響かせる。

噛むの早すぎだろ。千晴はげんなりしながらボリボリ飴を噛み砕く桜井に肩を落とす。

「えええ!もったいねぇよ!俺も見たいのにもったいねぇよ!」

篠原君は羨ましそうに唸った。

「じゃあ今度みんなで見に行こうぜ!俺ポップコーンあったらちゃんと大人しくしてられるから!」

「よっしゃみんなで行こう行こうぜー!千晴も来るだろ!勿論来るだろ!」

「えっ俺も!?」

篠原君の唐突な巻き添えに声を荒げずにはいられなかった。別にこの二人と出かけるのが嫌なんじゃなくて、いやある意味嫌かもしれないけど!決して二人が嫌いなんかじゃなくて、俺一人でツッコミ切れないっていうかなんかその!

「楽しみだなポップコーン」

「桜井そこはせめて映画が楽しみっていようぜ!?ほんとに楽しみだなー!」

心底楽しそうに予定を話し合い始めた二人に千晴は諦めがついた。

バリバリと噛み砕く音が左右からダイレクトに聞こえてくる。千晴は耳を抑えながら顔をしかめて来週の日曜日の予定に思いを巡らせたのだった。



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