本当に美しいものはなんだろう。

「我は美しい…どうしてこんなにも美しいのか。罪深い…」

小さな声でぶつぶつ自身への賛美を繰り返し呟いていたミリの前をピンが通り過ぎる。

ピンの金に煌く美しいブロンドには艶があり滑らかな光を発していた。薄暗い部屋にも関わらず揺れる耽美さにミリは思わず手を伸ばす。さらりと縫い目のある掌を優しく撫でる絹のような滑らかさ。

「ちょっとなにするのよ。髪の毛掴まないでくれる?」

少し顔をしかめて振り返るピンに鼻を鳴らす。

美というものはとてつもなく奥が深い。美しいものとをいうのはなかなか手に入らないから美しいものであり、簡単に手に入れてしまうようなものは美ではない。普通のモノとは価値が違う。嗜好品こそ美であり日常で使用するものはただのモノだ。

しかもありふれていてはいけない。できるならたった一つがいい。世界で一つというフレーズが美しさに拍車をかける。つまり、この世で一つしかない。一人しかいない自分こそ究極の宝石なのだ。

「美しいものを引き止めて、何が悪い」

全く悪びれもなくピンの髪を弄ぶ。

さらりと指の間をすり抜けていく髪の毛たちはよく手入れされている。

いつも何時間も部屋にこもって何か手入れをしているだけある。ミリからすると手入れしなければ綺麗にならないなんて考えられない。究極は何もせずとも輝きを維持できるものだ。

「引き止め方っていうものがあるでしょう」

ミリなりの最上級のほめ言葉を軽く流してまだ怒っているピンを見上げる。高さのあるミリよりもまだ背が高いピンの顔は彼の目から見ても整っていた。縫い目がない顔が憎らしいほど羨ましい。ミリには縫い目があるがそれも彼の美しさを強調するの道具だと思っているが、やはりなんとなく気に食わない。

白い肌に静かな海辺を思わせる端正な顔立ち。赤くひかれたルージュが妖艶さにあふれかえっていた。

まだ他にも条件がある。それは見るものの興味をひくことだ。何にも振り向きもされないモノに美どころか価値すら存在しない。

絵画を見れば人は何らかの感情を動かされる。それがたとえ恐怖だろうが怒りだろうが。自身の心がそれにより新しい感情を芽生えたことはゆるぎない真実だろう。

「嫌か」

「嫌じゃないわよ。ちょっと吃驚しただけよ」

問うとやれやれと肩をすくめられる。ミリからすればそんな気はなかったが、身長も高く精神年齢も大人なピンからすると、どうも拗ねているように受け取られたらしい。暖かい微笑を浮かべミリの頭に手を置く。そっと撫でる手つきにミリがピクリと揺れた。

美というのは価値があり一つしかない心を射止めるようなもの。

確かに今頭を撫でている手は、この世で一つだ。

「また後で構ってあげるわ。あたしこれでも忙しいから」

離れていく偽物の温もりに目を閉じる。長い睫が瞬いた。背中を向けて暗闇に消えていくピンに伏せ目がちな視線をおくった。そしてお決まりの一言を慈しむように呟く。

「我が一番美しいがな」



追いかける。対抗心と何かを




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