眦に浮かぶ涙は一体どんな味がするのかな

「多分、ストロベリー」

「?」

フウァンが一人心地に呟いた囁きは、レイドにも届いていた。

フウァンのボスであるコルドが別件で席を外している間、待機を命じられたレイドは黒張りのソファに座っていた。上質なソファの程よい硬さにまどろみを誘われていると、いつの間にかフウァンが隣に座っていた。

ゆっくりと眠りに落ちかけていたとはいえ、一部隊を任されているレイドが気付けないなんて事は無いはずなのだが、そこは腐ってもファミリー幹部であるといえる。

フウァンに少し苦手意識を抱いているレイドはぎゅっと唇を噛み締める。そそくさとさり気なく端に寄って距離をとろうとするがすかさず肩を組まれてしまい、失敗に終わった。

「よっレイドちゃん。退屈そうだねー暇ならお目目見せてくれても」

「…嫌です」

小さな、しかしはっきりと否の圧を込めて言ったレイドに、フウァンはしょぼくれた表情を見せる。

「えーお金ならちゃんと払ってあげるからさ。ねねっちょっとでいいから〜」

「…そういうのは、やってないんで」

などと終わりの無い押し問答に飽きてきた頃。レイドはどうにか理由をつけてこの場を離れるか、早く用件を終わらせたコルドが帰ってきてくれることを願っていた。

熱烈に瞳を見せてくれとアプローチをかけてくるのを適当にあしらっていると、ふと真顔になり冒頭の意味ありげな呟きを落としていったのだ。

「いや林檎かもしれない。あえてのフルーツトマトとかも」

「…何がですか?」

何の脈絡も話の道筋も無いずれた話題にレイドは首を傾げた。

ストロベリー、林檎、フルーツトマト。どれもこの状況にそぐわない食べ物の名前だ。フウァンはどういう意味でこれら三つの単語を並べたのだろうか。共通点は、どれもこれも赤いところだけ。フルーツトマトというならば、全て果物だというところも似ているといえるのかもしれない。

「レイドちゃんの目。どんな味がするのかなって思ってさ」

「…味なんてしないと、思いますけど」

「いやすっげぇ甘そうだよ。飴玉とか、宝石みたいでさ。ずっと見てても飽きないんだよなぁマジで」

すっとんきょな事を言われ、気をとられたレイドの抵抗の意思が緩んだ瞬間を見逃さない。素早くレイドの前髪を掻き分け、二つの宝石の輝きを眼球の奥に刻み付ける。舐めてもいないはずなのに、見ているだけで口の中に甘美な味が広がっていく。

彼の瞳の奥にはきっと、甘さとは無縁の味が眠っている。だからこそ、美しいと思える。

ハァと嘆息したフウァンの手はすぐさま払い落とされ、宝石は再びケースに片付けられてしまった。

「あーやっぱりスキだわレイドちゃんのおめめ。ずっと眺めてられる」

「勘弁して下さい…」

「うーん。やっぱりストロベリーが一番近いね絶対!中にちょっとすっぱいソースが入ってるやつ!」

「…ハア…」

レイドは疲れた息を吐き出し、ソファに凭れ掛かりテーブルの上に視線を落とす。小さな籠に盛られたお菓子の山の中に、何の因果か桃色の包みを見つけてしまい、今度こそ大きい溜息をついてしまった。


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