■エロのみ



月浮かぶの狭間で




ギシギシとベッドのスプリングが激しく唸り、その上に乗る二人の人間は息を荒く吐きながら全裸で絡み合っている。

「んあっ……そ……こ、きもち……っ!」

正常位で臨也の『いいところ』をピンポイントで攻めてやれば、自ら腰を浮かして体を震わす。繋がっていない上も欲しいと、両手を挙げてきたので、体を倒してひっきりなしに喘ぐ唇に噛み付く。舌を吸って、歯列を舐めれば、大量の唾液が溢れてぶちゃびちゃと卑猥な音がする。そちらに集中して少し疎かになった結合部分からも、腰を打ち付けるたびにパンパンと猥雑な音がする。
臨也の陰茎からは、てらてらと透明な先走りの汁が出て、もう限界だと主張していた。

今日は夜道を明るく照らす、満月の夜だった。
二人が初めて交わったのも、同じような満月の夜。いつものように池袋で遭遇して、臨也が逃げ切るか、軽く一発静雄が拳をお見舞いすれば終わるはずだった殺し合いが、その熱くなった火照りを冷ますために性交という手段へ移行したのは、お互いに酔っ払っていたからに他ならない。そのときのことは曖昧で、むしろ思い出すのも嫌な記憶だ。

そんな関係になっても、おおよそ恋人なんてかわいらしい間柄になるわけもなく、かといって、肌を重ねる前の殺し合いをするだけの関係にも戻ることはなかった。
お互いの体を貪り喰う場所はホテルで、それも決まった場所はない。臨也が事前に調べたり、適当に近くにあった所へ入った。相手の家にはどちらも行ったことはなく、お互いがテリトリーを侵すことなくこの行為に及ぶことで、自分たちの関係がひどく希薄であることに安堵していた。

昼間に出会えば殺し合いをして、その夜は必ず繋がった。
とりわけ、臨也は多忙な合間をぬっては自ら池袋に出向いて渇いた喉を潤すように、静雄に抱かれることを望んだ。そして、ベッドの中ではいつもの理知的で狡猾な印象は影をひそめ、箍が外れたように乱れるのだった。今夜もその例外ではなく―――――

「んっんっんっ……ふぁ…も……だめ か……も……イっちゃ……!」

「……イけよ!」

射精したいとさらにいきり立った臨也の陰茎を静雄が握って、扱く。
後孔は静雄のものが出入りして、ヒクヒクと戦慄いた。けれど限界はすぐそこだと、己が一番わかっているはずなのに、嫌だと舌っ足らずな声で拒む。

「や……一人でイクの……やらぁ……し……ちゃんも……お……ねが……」

同時に果てたいと乞われて、まだ射精感がなかった静雄は内心舌打ちをした。

「うぜぇ」

自分はまだこの気持ちよさを味わっていたかったのに。お願いされたからと言って、その通りにする義理などない。先にイかせようと静雄が動こうとしたとき、臨也から再びお願いされる。

「らって、す……き……なの  す……き………いっしょが  いっ……!」

喘ぐ声の狭間で放たれた言葉は主語が抜けている。そこに静雄がいじわるく聞き返す。

「すきって何がだ?」

「?」

「セックスか?」

―――――ずんっ

「んあ」

「俺か?」

―――――ずんっ

「ああ!」

「それとも、旨そうに咥え込んでる『これ』か?」

―――――ずんっっ

「ひゃあっ!!」

質問するたびに腰をスライドさせて、さらに煽ってやる。
観念しろとでも言うように、最後は奥深くに突き刺した。

「ふぁう……ぜんぶ…だよ  ぜんぶ……す……き……」

ぼろぼろと涙を流しながら、うわ言のように囁かれれば、静雄の冷静さを吹き飛ばす。

「はっ この淫乱野郎が!!……仕方ねぇな」

そう言って、望みどおりにしてやろうと、臨也の体を繋げたまま反転させる。
反動で刺激が走ったのか、臨也はまた「んんっ」っと甘い声を漏らした。
自身を臨也の後孔からギリギリまで引き抜いて、強く打ち付けた。

「オラ、イっちまえ!!」

それを皮切りにラストスパートでもいうように激しく攻め立てる。
腰を天井に突き出す形となった臨也は、ひんひんと声にならない声で喘いでいる。
正常位では届かなかった場所まで侵入して、そこから広がる快楽は相手が殺したいほど嫌いだったことなどを忘れさせた。次第に律動は二人の射精感を高めて、最高潮へと導いていく。程なくして、臨也の膝がガクガクと震えだした。

「あん……も イク!!イク!!イッちゃう!!んっっっ」

「くっ俺も…イクっ!!」

二人が叫ぶと同時にお互いの精液が勢いよく飛び出す。
静雄の陰茎はビクビクと臨也の中で脈動をうち、臨也の陰茎からもどくどくと白濁液がこぼれていた。




―――――こんなに激しい交わりを経ても、彼らの関係は変わらない。
―――――甘い囁きはベッドの中限定で。
―――――またそれに突き動かされることがあったとしても、次に会うときには忘れ去られている。
―――――甘い関係など求めていない。
―――――なぜなら、殺し合いとセックスでそれは十分満たされていたから……。

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