■軍服パロ
「ノミ蟲ぃぃぃ!!」
バンッと大きな音を立てて勢いよく執務室の扉が開かれる。
「シズちゃーん。た、い、さ、でしょ。上司のことノミ蟲扱いよくない。実によくない」
「うるせー!!んなことどうでもいいんだよ!!」
自分より上位階級を示す黒い軍服をまとった臨也に対して、たしなめられた口調を正すことなく静雄は言った。
「手前また余計な事しやがったな!!お陰で作戦が目茶苦茶になっただろーがっっ!!」
臨也は椅子に座って、書類への調印をしていた。突然来た乱暴な訪問者――自分より二つほど階級が低いダークグリーンの軍服を着た静雄のために一旦、その手を止める。
「余計だなんてひどいなぁ。スムーズに事が運ぶよう手助けしてあげたんじゃない」
臨也は机に肘を突いて口元で手を組んだ。微かに笑いながら話しはじめる。
「だってシズちゃんいつも真正面から行くしか脳がないからね。より狡猾に最大限の成果をあげるために大佐として動いたまでだよ」
「ああ?そりゃどうも気ィ使ってくれたみてーでわりいなぁ、臨也くんよぉ」
ピキピキと今にも掴み掛かりたい気持ちを抑えて、静雄は臨也の方へ詰め寄る。
「でもよォ 俺は手前のくそ汚ねぇやり方が気に入らねーんだよ!!そのせいで俺の部下が怪我を…」
――ガタンッ
話を遮るように臨也が席を立った。
「知ってる。ヴァローナでしょ。殊勝にもシズちゃんを庇って怪我したんだって?部下の鏡!シズちゃん愛されてるー!」
そう茶化しながら、カツカツと歩いて静雄の目の前までくると、ずいっと静雄の胸に右手の人差し指をつき立てて言った。
「最近っ!そのヴァローナと二人だけで作戦遂行すんの多くない!?庇われた時だって、あんな風に体の上に簡単に乗られて…、密着してたし…普通なら浮気扱いだよ?」
急に浮気というこの場にそぐわない単語が出てきて、面食らう。
「浮気って…おま…」
今まではトムさんという静雄より1つ階級が上の人物と三人で行動することが多かったが、現在彼は本部からの命により遠地へ派遣されている。
だから、臨也の言っていることは仕方のないことだ。プライベートで二人きりなどということならともかく、任務なのだから責められるのは心外である。
ふう、と静雄は一息つくと、大佐専用の机に軽く腰掛け、懐からタバコを取り出す。
「ここ、禁煙!!」
部屋主が制止を求めるが、ちゃんと机の上に静雄専用の灰皿が置いてあるため聞き入れられなかった。
「浮気とか馬鹿なこと言ってんな。射撃されたことに先に気づいたヴァローナが身を挺して俺を庇ってくれたんだよ。作戦中のことなんだから仕方ねーだろ」
「仕方ない!?あのさー、今日でどれくらいぶりに会ったと思ってんの!?俺は全然触れてないのに、他の人間にあんなにひっついとい、」
て、と最後まで言う前に腰を引き寄せられた。
「どれくらいぶり?視察だなんだと忙しくて会ってくれなかったのはどっちだよ」
「それこそ、仕方ないことだろ。俺は大佐!!超忙しいの!」
臨也の腰に手を当てたまま、タバコを灰皿に押し付ける。
「帰ってきてたんなら、すぐおしえろよな」
そう言いながら、静雄は臨也に口づけた。
「は……、 ちょっと ん シズちゃん、」
濃厚に舌を絡ませて、相手の味に酔いしれる。臨也は流されそうになるのを抑えて唇を放した。
「続きは今夜、俺の部屋に来てよ…」
照れながら夜の誘いをするが、相手にとっては不服だったらしい。今度は後頭部を掴まれて、またキスを開始された。
「ふ…ぁ んん しつこいっ…」
ちゅくちゅくと口内を舐め回される。
「知ってるだろ?俺は”待て”は苦手なんだ」
「んぁっ シズ…ちゃ… だめだって…俺これから、会議……だしっっ」
大佐として大事な会議を欠席するわけにはいかない。
気持ちよくなってきた頭の片隅で臨也は波にのまれるを拒もうとするが――
「行かせねーよ。…手前はこれから俺と二人で秘密の会議、だろ?」
「し、ずちゃ…ん―――――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あの、変な妄想するのやめてくれませんか?狩沢参謀長」
「いやーイザイザはしずちゃんと二人きりのときはこんなかなーって」
にこっと笑顔を向けられるが臨也の表情は引きつる。軍の最高トップ、狩沢参謀長は妄想…想像力がたくましいらしい。
「話聞いてました?移民の件で重要な話があると、セルティ大使から連絡が…」
「もう!イザイザったらつれなんだからー」
ぷうとふくれられるが、ここは譲れない。
「毎回毎回、そんな話…。しかも、俺とシズちゃんなんてこの世で絶対ありえないことですよ。ムダな妄想はお慎みください」
ピシャリと言い放つが、毎度のことで手ごたえはない。
「いいじゃない、妄想くらい!乙女の妄想は世界を救う!だから、イザイザとしずちゃんがボーイズにラブラブっちゃってもぜんぜんオッケーだからねー!!」
「…マジ、セクハラで訴えますよ。はあ、俺はこれから視察の準備があるので失礼します」
と一礼して、部屋をあとにする。閉まる扉の隙間から「まったくイザイザは冗談通じないんだからーー」とふてくされた声が聞こえた。
ホント冗談じゃない。長い廊下で臨也はよろよろと壁に手をつく。
なんで・・・・・・。
なんで、俺とシズちゃんのことばれてんだ!!?参謀長、あなどれねーー!!!
なに、もしかして俺の部屋に盗聴器が仕掛けられてるとか!?
信じがたい結論に至って、臨也は頭を抱える。こうしてはいられない、と、すぐさま、自室へと急いだ。
その日、部屋の隅々まで探し物をする大佐の姿が目撃されたという。
―――――
軍服らぶ!
臨也が眼帯してるとかもかっこいい!