どうしようどうしようどうしよう。
俺はない知恵を…いや、たくさんある知恵を集結させて切り抜ける方法を考える。別に、素直になれればいいんだけどね。なんだろう、ここまでくるとあとに引けなくなったっていうか…

「おい、ノミ蟲なんとか言え」

「なんとか」

ぐっ!!ちょ、ギブギブ。苦しいから胸倉つかまないでよ。もうほんとシズちゃんは短気で困る。あ、そうだ。単純なシズちゃんにはこれがいいかも。そう思いついてすぐに、シズちゃんに呼ばれた。さぁ、ゲーム開始。

「臨也!!」

「…………ヤンバルクイナ。」

「は?…やん?何言ってんだてめえ」

「ね、シズちゃん。しりとりしない?それに勝ったらシズちゃんの望む言葉いってあげるよ」

「はあ?なんでわざわざ、んなことしなきゃなんねーんだよ。手前が素直になりゃいい話だろうがよう?」

いやごもっともだけどね。シズちゃんは無償でずばっと言ってくれて俺はきゅんきゅんしちゃったわけだし。でも、お願い乗って!なんか素直になるの恥ずかしいんだよ!!

「別に、言ってあげないって言ってるわけじゃないじゃん。しりとりで勝ったら存分にシズちゃんが嫌になるくらい、言ってあげるよ?それともなに、負けるから嫌なわけ?」

「っざけんな。おーし、やってやろうじゃねーか。俺は負けねー!!ぜってー負けねーかんな!!手前こそ後で吠え面かくなよ?」

よし、なんとかシズちゃんの操縦に成功。ほんとすぐ挑発にのるんだから。単純でよかったあ。

「じゃあ、さっきの続きからね。ヤンバルクイナの『な』!」

「『な』か。っつーかヤンバルクイナってそもそも何だ」

「動物界脊索動物門鳥綱ツル目クイナ科の鳥だよ」

「ん?鳥ってことか?」

シズちゃんがヤンバルクイナにくいついてる…いや、俺も詳しくは知らないからはやく続き言ってよ。

「な、ナス」

「スカンジナビア半島」

「…うし」

「屍」

「ねこ」

「コロンブスの卵」

「ゴリラ」

「ライブラリー」

「りす」

…さっきからシズちゃん動物ばっかじゃん。何なのかわいいんですけど!!


〜〜〜〜中略〜〜〜〜


「染色体」

「イス」


「す?また『す』!?もしかしてシズちゃんなんか狙ってる?」

シズちゃんがニヤッと笑った。な、生意気ーー!!シズちゃんのくせになんなの!?
もう、絶対負けないし、言わないから。途中まで区切りのいいところで負けてあげようとか思ってたけど、やめた。

〜〜〜〜中略〜〜〜〜

「いも」

「モノフォビア」

「?何だそれ」

「『モノフォビア』…孤独恐怖症のこと」

「ほんと難しい言葉知ってんなぁ。あ、アイス」



そろそろ、言葉の応酬にも飽きてきた…。
っていうか、また『す』か…。シズちゃんも意外にない知恵絞ってがんばってるね。粘るって言うか…そんなに俺からその言葉聞きたいのかな?もう、しょうがないなぁ…

「『す』ね…。じゃあ、」

もう決意を固めてお望みの言葉を言ってあげようと、ごくっと唾を飲み込んで続きの言葉を紡ぐ。

「…す…き………」

そこまで言うとシズちゃんがぴくっと動いて俺の言葉にじっと聞き入る。うっっ恥ずい!!
近距離で見つめられて、シズちゃんに迫られている格好だから余計に恥ずかしい。
あーやっぱだめ。俺は羞恥心からその場の雰囲気に居たたまれなくなって思い切り振りかぶった。

「…やき食べない?なんかお腹すいてきちゃった。わ、もう外真っ暗じゃん。どんだけしりとりやってたの俺たち。なんか、意外とシズちゃん手強いし、なかなか終わんないから、もうこの辺で切り上げない?夕飯、材料買ってこないとないから、スーパー行かなくちゃ」

「おい、手前なに勝手にやめようとしてんだ、コラ。逃げる気か!?」

突然単語ではなく話し出した俺を責める。それを無視して、さらに続けた。

「ついでに、食後のデザート買ってくるよ。何がいいかな?新しくできたプリン専門店のプリン、シズちゃん食べたがってたよね?いろいろ種類があるみたいだけど、どれがいい?とりあえず、スタンダードなカスタード味は買うとして、あとは違う味の買おうよ!俺はどれにしようかな。ちょっと苦味が入ってるのがいいから、カプチーノ味とかあるみたいだし、それにしようかな。シズちゃんはどうする?イチゴ味?それともチョコレート?」

といい終わって目の前のシズちゃんを見据えれば、ぴきぴきとキレそうになっている。
シズちゃんが手をついている壁にうっすらヒビが入る。げ、やめてー!!
俺は慌てて、シズちゃんを指差しながら叫んだ。

「……の、『と』ぉぉぉぉぉ!!!」

大きな声を出した俺にシズちゃんは驚きながらも、急に振られたことでさっきまでやっていたしりとりの続きだと理解して、すぐさま答えた。

「なっ!そうくるかよっ!と、『と』か」

シズちゃんは一瞬考えて、ピンと何かをひらめいたらしく、笑顔でこう答えた。

「トムさん!!」

よしっ!!俺は心の中でガッツポーズをすると少しして自分の失言に気づいたのか、しまったとばかりに顔が青くなっていくシズちゃんを見つめる。

「『ん』って言ったねー!これでシズちゃんの負け!俺の勝ち!この話は終わり!!」

くそっきたねーぞ!とシズちゃんは負けを認めるのが悔しいみたいでぶつぶつつぶやいている、。あーうん、たしかにちょっと汚かったかもね。少し申し訳なく思いながら口を開く。

「じゃあ、ほんとにご飯にしようよ?買い物行ってくるからシズちゃん待っててよ。何がいい?さっき言ったすき焼きもいいかもね。鉄なべないから買ってこようかな」

「なに勝手に終わらせてんだ。さっきのはあれだ。人の名前だったからダメだ」

シズちゃんがどうしてもしりとりの負けに納得してないようで、撤回を求めてきた。

「いや、俺は気にしないよ?でも、一度言ったことをやり直しできたらそもそもゲームにならないよ?百歩譲って、敬称略にして続ける?」

「けいしょうりゃく?」

「”さん”づけをやめること。つまり、さっきのシズちゃんの返答だと『トム』になるね」

シズちゃんにわかりやすく説明してあげる。

「な!トムってトムさん呼び捨てにできるわけねーだろ!!」

うん。だろうと思ったから嵌めたんだよ。ごめんね、シズちゃん。

「じゃ、やっぱりシズちゃんの負けだね。オーケー?」

「っくそっ。ノミ蟲手前…」

どうやらまた怒りがふつふつと沸いてきたようなので、慌てて制止する。

「ま、待って!シズちゃん本当にご飯にしない?話はそのあとでゆっくり聞くからさ。お昼から何も食べてないから俺お腹すいてきちゃった。すき焼きでいいでしょ?シズちゃんの安月給じゃ買えない高級お肉ご馳走してあげるからさ」

チラッと時計をみて、時間を確認するとシズちゃんも夕飯の時間であることに気づいたのかとりあえずは怒りを沈めてくれた。

「ちっ仕方ねーな。買い物行ってこいよ。ってか俺もつきあうか?」

「ありがとう。でも、いいよテレビでも見てて。たしか、幽くんがでる番組もうすぐ始まるんじゃない?」

そう即すと、そうだった、やべーとテレビの方へシズちゃんは向かった。ふう。長い攻防戦が終わってやっとシズちゃんが来たときの雰囲気が戻る。ほんと、どうしてこんなことになっちゃってたの。あはは。ま、結局は全部俺のせいなんだけどね。

「じゃ、行ってくるから」

「おう、気をつけてけよ」

夕飯の買出しに一人マンションをあとにする。あたりはすっかり暗くなっていた。
疲れた。なぜか知らないけど非常に疲れた。でも…
シズちゃんが夕日がさす中で言ってくれた言葉を思い出す。
好きだ―――――愛してる。きっとあの情景は忘れることはできないだろう。
思い出すだけでまた心臓がドキドキする。
真剣な眼差しで言ってくれたシズちゃん。それなのになんで…なんで俺は言ってあげることができなかったんだろうと己のひねくれ加減に幻滅する。

ちゃんと言えばよかった。茶化したりなんかしないで、心のままに。
そうすれば、シズちゃんもきっと俺みたいにドキドキしてくれたはず。
夜空に光る星をながめながら、今更言えなかったことを後悔する。

夕飯のあとで言ってみようか…。今更なんだと言われるかもしれない。
どうせ言うならとっとと言っとけとも。結局言うなら、あのしりとりはなんだったのか。でも、楽しかったな。

ふと、家で待つ恋人を思い浮かべて顔が緩む。うん。やっぱり言おう。
すごい恥ずかしいけど、俺がシズちゃんを好きだってちゃんと伝えたい。
俺は早く帰るべく、歩調を少し速めた。


この想いを言葉にのせて。



―――――――

はい。しりとりネタがやりたかっただけなんです。





110227