「見たのか」

本日最後の仕事が新宿だったらしく、約束の時間より早くシズちゃんは訪れた。
早速、映画を観たことを報告する。すごいよかった、感動した、と。
シズちゃんは「だろ!?」と自慢の弟の演技やペラペラだった英語について熱く語っている。相変わらずの、ブラコンだ。

俺も馬鹿にしていたことを素直に謝って、感想を言い合っていく。
戦闘シーンがリアルだった、とか、タイミングよく流れる音楽がきいてるよね、とか。のんびりとしたイギリスの田舎町が老後に住むのにちょうどよさそうだよな、ともシズちゃんは言っていた。

そして、一番感動したクライマックス、そう、あの幽平くんのアップのシーンの話になったときに俺は、内心冗談、顔は本気で言ったんだ。

「ねぇ、シズちゃん…。俺も聞きたいな……あのときの、幽平くん…いや、幸助みたいな愛の言葉を。」

それを聞いて、今までにこにことしていたシズちゃんの顔が固まる。
ふふ。予想通り。シズちゃんは言えるわけない。今まで、聞いたことないし、照れ屋で不器用で、珍しいくらい純朴青年なシズちゃんは、かぁーーーーっと耳まで真っ赤にして、そんなこと言えるかよってテレながら怒るは…ず………

軽い悪戯心で言った俺のお願いは、俺自身が最初から言ってくれるわけないと高をくくっていた、のに―――――?




「好きだ」


一言呟いたシズちゃんにいつにないほど真剣な表情で見つめられている。
その顔に魅入ってしまい言われた言葉が瞬時に理解できなかった。

「え………なんて」

言ったの、と聞き返そうとしてもう一度、はっきりと紡がれた。


「愛してる」


今度は俺の耳にはっきりと届く。
それは、初めて耳にするシズちゃんからの愛の言葉―――――。

ちょうど外は夕暮れ時。窓から入るオレンジ色の夕焼けがシズちゃんの金髪に反射してキラキラと光っている。
もともとの端正な顔立ちが少し影になって、その情景はまるでスクリーンの中のよう。

それを見ていた俺は、息を呑んで動くことができなかった。
時間が止まったかのようにどちらも静止したまま見つめあっている。
俺はシズちゃんが言ってくれた言葉を頭の中で何度も何度も反芻して、その言葉の重みを感じ取る。

ドキドキドキドキドキドキ……

心臓の音が早い。ゆっくり言葉を理解しはじめると、猛烈に恥ずかしくなってきた。
なんか言わなくちゃ…

あわててまだこちらを見ているシズちゃんから目をそらし「ありがとう」と小さくつぶやいた。
シズちゃんが、あのシズちゃんが照れることなく言ってくれた。
俺を見て、真剣に、最上級の愛の言葉を。
どうしよう、すっっっっっごくうれしい。
今なら情報屋を廃業して、シズちゃんのために毎日朝ごはんを作ってあげてもいい!!

そんな有頂天真っ只中な俺にシズちゃんがさらっと言ってきた。

「んじゃ、お前の番だ」

は い?ん?俺の番??
シズちゃんを見てみるとさっきまでの真剣さは弱まり、少しばかり緊張したような感じで何かを待っている。

俺の番て?え…シズちゃんはそわそわして何を待ってんの??
まさか、うそ…今度は俺の、番…俺の……

愛の言葉をシズちゃん待ってるのか!?
現状をやっと理解して固まってしまった。
こんなこと、予想してなかった。
自分が言わされる側になるなんて!!

さ、さすがだよ、シズちゃん。いつも俺の想像の遥か上を高速マッハで飛んでいくね!もう、シズちゃんの姿は見えやしない!!

ちら、とシズちゃんを見れば目が合った。

ちゃんと言わなければ!照れ屋のシズちゃんが言ってくれたんだから。きっと内心ではすごい勇気を振り絞ったに違いない。
その点、俺は今まで吐いて捨てるほど、「シズちゃんラァブ!」を叫んできてる。今更恥ずかしがる必要なんてないんだ。

な の に

言葉が出てこない…この際2文字のでも5文字のでもどちらの言葉でもいい。
俺ってばこんなにひねくれてたヤツだった!?
シズちゃんが待ってるのに!!俺のデレはどこ行った!!?

頭の中で押し問答を繰り返してると、シズちゃんがイライラし始めてる。

ヤバイ!もうこれ以上、待たせられない。とにかく愛の言葉を!と焦った俺から漏れ出た言葉は

「シズちゃん!
ラァブ(^□^)」

ーあぁ、ミステイクだ。
でももう、言っちゃったし、これで許してもらおう。
シズちゃんのこめかみがぴきっとしたことはこの際無視する。

「あーまだお茶も出してなかったね、今すぐ用意するからー…」

そう言いながら俺は逃げるようにキッチンへと向かう。

ーーーだんっ

進行方向をシズちゃんの腕で遮られた。

「誤魔化してんじゃねぇ。手前はまだ言ってねーだろ?」

……やっぱりさっきの言葉は適用範囲外だったらしい。黙って後退りすると、また腕がだんっと伸びてきて、俺は壁に縫い付けられ、シズちゃんに迫られているという格好となった。
折原臨也、絶体絶命の大ピンチ。
かくして、舞台は冒頭に戻るのである。




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今回もやりたいネタが入らなかったっ!