俺は今現在、絶体絶命を初めて体験している。自慢じゃないけど、昔から何事もそつなくこなしてきた。大抵のことは思い通りに事が運ぶし、常に5パターンは先を読んで行動している。だから、俺が追い込まれることなんてこれまでにない。――この目の前にいる池袋最強を除いて。


始まりは俺の単なる好奇心からだった。積めていた仕事が午前中で終わり、夜には恋人が夕飯を食べにやってくる金曜日の午後。久しぶりにできた自分のプライベートな時間を持て余し、夕飯の献立を考えながらテレビのリモコンをいじっていた。

あ、これ…ふとある番組でとめる。映画だけを延々と流し続けるCS番組で今年日本アカデミー賞最多部門を受賞、人気若手俳優・羽島幽平主演のラブロマンスが始まるところだった。
まだシズちゃんが来るまで時間はある。すげーいいから絶対観ろ、とは公開当時から言われていたが、今まで時間がないことを理由に観ていなかった。

だって、作られたラブロマンスなんて面白くないに決まってる。大体にして最近は観客の感動を誘うべく、やたらとヒロインが不幸設定だったりする。お馴染みのすれ違いが生じて、ムダなごたごたがあって最後はハッピーエンド。そもそも映画やドラマといったものに俺は感情移入したことなんてない。
ま、でもヒマだし…

シズちゃんとの話のネタになるし、幽平くんの演技は嫌いじゃない。

そうして、恋愛映画を観始めたのが間違いだったーー。


言葉にのせて


ぴったり2時間。映画の最後には幽平くん、もとい劇中の役名では『幸助』がヒロインの女性と熱いキスを交わしてエンドロールが流れてきた。切ないバラードにのせて、たくさんのスタッフの名前が下から上へ流れていく。
どうしよう。すっごいよかった。
予想をいい意味で裏切られた感じだ。
物語はよくある戦時中に恋人同士が離れ離れになる話だった。ヒロインはイギリス人でだいたい舞台は英国。幽平くんは流暢に英語を話し、昔に生きた日本男児を嫌味なく、むしろ純朴好青年に演じきっていた。女優は名前は知らないが、美しい顔立ちで凛とした強さをうかがわせ、幽平くんと一緒に映っても見劣りしない。女はけなげに待ち続け、男は約束を守るために死地を生き抜いていく。戦争で長い間離れていた二人が最後に再会するところが最大の見せ場。
そして―――――

これでもかというほど幽平くんのアップで囁かれる愛の言葉………

”I LOVE YOU ”

それだけを何度も何度もくり返す。二人が再び会えて本当によかった。俺でさえ、ちょっとうるっときたくらい。

そ、れ、で、だ……ラブロマンスに感化された俺は聞きたくなってしまったのだ。

愛の言葉を。
俺の愛しの池袋最強から―――――。




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続いてしまう。あれ?1ページだった予定が…。
シズちゃん出てきてない!