「!?…っと いきなり投げんな手前ェ!っつーかこれお前の 」

「それ、シズちゃんにあげる。」

自作のものを誰かにもらったと勘違いされるなんて滑稽すぎる。でも、今さら訂正するなんてできないし、したくないから嘘をそのままについていく。

「は?何言ってんだ手前は!!俺が受け取るわけにいかねーだろうが。おい手前、人様から貰ったもん人にやるなんて最低だな。こういうのはちゃんと貰ったヤツが…」

シズちゃんの態度にいつも以上にイライラする。これ を誰かさんのために仕事より優先して作ったなんて全く想像すらしてない。バレンタインに少しは期待しろ!!作った俺がバカみたいだ。さらには、俺が誰かからチョコをもらったとしても気にならない上に、貰ったチョコをちゃんと食べろとか言っちゃうしね。俺は義理だとしても、ヴァローナからのチョコ食べてほしくないよ?そんなこと口が裂けても言いたくないけどね。ふぅっと息を吐いてから、シズちゃんを見る。

「いらないからあげるんだよ。」

「俺のほうがいらねーよ!!」

「シズちゃん。」


もう素直に言うことなんて無理だ。急激に冷めた俺の頭の中は、一秒でもこの場から離れることを願っていた。

「シズちゃん甘いもの好きなんだから、食べてあげて?返されても俺捨てちゃうし。シズちゃんがいらないならその辺のゴミ場に捨ててくれてかまわないから。」

「…ホントにいらねーのか?」

「しつこいなーホントにいらないんだってば。あー…実はさ、そのチョコ、ちょっと重くて。」

「重い?」


「そう。本命チョコ、みたいな」

一瞬、本当のことを言おうか考えてやめた。もういいんだ。シズちゃんは少し困った顔で俺と紙袋を交互に見てる。居たたまれなくなって駅へ向かう。

「あ」

ふと思い出して、振り返る。シズちゃんは渡した(ってか投げ付けたんだけど)紙袋を大事そうに抱えている。きっと捨てたりなんかしないで食べてくれるだろう。

「それさ、食べる前にレンジでチンして。温めたほうが美味しいから。じゃね」
作ったのがフォンダンショコラだったことを思い出して、それだけ伝える。温めないと中のチョコが溶けないからね。

(本当なら目の前で食べるとこ見たかったんだけど。)


こうして人生初の手作りチョコを作った今年のバレンタインはその想いを秘めたまま、伝えることなく終了した。素直じゃない自分にイラついて、鈍感なシズちゃんにムカついて。




*     *     *



「あのヤローなんで中身わかってんだ?」



―――――――フワッ



「!」


甘いチョコレートの匂いに交じるのは不本意ながらもいつも嗅ぎ分けてしまう誰かのニオイで。むしろ、チョコよりも強いほど。

「あンのバカ野郎がっっ」



素直じゃない彼に鈍感な彼が追いつくまで、あと、15秒―――――。





─────────────

シズちゃんは臨也が誰かにチョコもらうのは気にならないけど、チョコをあげてたらイヤかと。
書けたらその後とシズちゃんバージョンを。


ハッピーバレンタイン!


110219

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