昼間は春らしく暖かい陽気でも、夜はまだまだ肌寒い。
そんな今夜も、ここ池袋では24時間戦争コンビが元気に喧嘩(殺し合いだろうか?)をしている。ただしいつものように自販機が空を飛ぶこともなければ、標識も引っこ抜かれることはなかったし、キラリと鋭く光るナイフも姿をあらわさなかった。
では、何で喧嘩しているのか。口の回る情報屋は通常通りべらべらと捲くし立てる。それに対して、意外にも池袋最強も、暴力ではなく言葉で応酬していた。そんな攻防が繰り広げられて、既に一日がたとうとしていた。喉が渇き、出てくる声も掠れてきている。それでも、二人はガラガラの声で罵り合う。………いや、ちょっとまて、果たしてこれは罵り合っていると言えるのだろうか。

「ジズぢゃん、ぼんどにぼうがんねんじで」

「うるぜー。でめえごぞ、いいがげんにじろ」

はあはあと息は荒く、お互い自分の首に手を当てて声を出すたびに痛みを伴う喉を擦る。きっと炎症を起こしている!明日は新羅のところに行ったほうがいいかもしれない。(お互いがこの時点でそう決意していたため、二人は新羅宅で再び鉢合わせするのだがその話はまた今度)少し話が見えないと思うので、今日顔を合わせたばかりの二人をリプレイしてみよう。

AM10:00

池袋サンシャイン通り

「やほーシズちゃん」

「!!てっめ、性懲りもなく、のこのこ現れやがって!!」

「あはは、そんなこと言わないで。今日はシズちゃんにとびきりいいこと教えてあげに来たんだよ」

「ああ!?ちょうどいい、俺も手前に言いてーことがあったんだよ」

二人は睨みあって、その鋭い視線上にバチバチと火花を散らすと、一呼吸置いて同時にしゃべりだした。

「俺、シズちゃんのことだっっっっっっいすきなんだよね。もう、ぶっちゃけると入学式のとき、その圧倒的な強さに一目惚れしちゃったわけ。おまけにイケメン、高身長だし?高校時代とか隠し撮り何枚撮ったかわかんないくらい。ついでにいうと、シズちゃんに出会ってから、俺のケータイの待受シズちゃんだから。あ、着ボイスもね。アラームは『手前、ノミ蟲ーー!!』にセットしてあって、これだとすぐ起きれるんだ。写真加工して、クッションとかシーツとか作っちゃったしね。毎日シズちゃんに囲まれて幸せだよ」

「俺は初めて手前に会った瞬間、ビビビときちまってよう。あまりの衝撃に気に入らねぇ!なんて照れ隠しで言っちまったけど、ずっと好きで好きで堪んなかったんだよな!!高校のときなんか隠れて手前のジャージでハスハスしたり、のんきに昼寝ぶっこいてる手前にキスしたことだってあるんだぜ!!ぶっちゃけると今なんか、ノミ蟲臭香水とか自作しちまったしなあ!!」

お互いが言い終えて、ピタリと止まる。自分が言ったことは置いといて、相手がとんでもないことを言わなかっただろうかと、その言葉の意味を考える。

(えっ!?シズちゃんて俺のこと好きだったの!!?っていうかジャージ!!何回か盗まれたんだよね…。あれってシズちゃんだったって事!?いやいや、その前にききききキスとかなんとか言ってなかった!!!??俺全然知らないんだけど??いつだよ!!一年?二年??それとも三年のとき???あとノミ蟲臭香水って何!?俺の臭いがするの?シズちゃんがいつもいつも俺見るたびに、くせぇくせぇ言うから少し凹んでたんだけど、その臭いをシズちゃんが調合しちゃったわけ??そんな技術あんの?そもそもそれ作って何に……まじで俺が好きだから、臭いに囲まれてとか?えええええええ!!!!)

(おいおいおい。こいつ今なんつった。とんでもねーこと言わなかったか!!??俺に一目惚れとか大好きとか!!??初対面のとき、挑発的な態度とってたのは俺を誘ってたってことかよ!!??ってか隠し撮り!!??全然気づかなかったぜ!!アラームも俺って…知らねーうちに、朝から陽気にノミ蟲起こしてやってたってことか俺は!!
くそ!!挙句の果てに、グッズ作って俺に囲まれて幸せ……だと!!??)

相手のあまりの告白に驚愕し、頭が混乱するも、はた、とお互いがここで気づくのである。
自分の発言を振り返る、なぜ自分が隠していた過去のブラックボックスのことを相手に告げたのか。――つまりは相手も同じ?いや、鵜呑みにするのを待って、笑いモノにしてやろうという魂胆なのだと、結論付けた。


だって今日はエイプリルフールだもん


信じたら負けだ。自分はここぞとばかりに本当のことをさも嘘のように吐くが相手は自分を騙そうとしている。うれしいことを言われたって、例え、え?本当は俺たち両思いかも??なんて思ったって、真に受けたら、あとでバカにされる!!!騙されてはいけない!!!!

「へ、へえシズちゃん俺のこと好きだったんだあ。わあい。何それおいしいの。」

「て、てめ。すきだなんてぜんぜんそんな素振りしなかったよなあ。んな証拠どこにあんだよ」

お互いが心理戦を駆使して、相手よりリードしようとする。


―――お分かりいただけただろうか。
このように二人は喧嘩開始から嘘をつくと見せかけて、自分の本当の気持ちや過去にしでかしたこと、もしくは現在進行形で行っていることを暴露している。相手が信じれば「嘘に決まってるだろ、ばぁか」と馬鹿に出来るからだ。なんとも幼稚で、日ごろから捻くれまくっている素直から程遠い二人であろう。

そして、今日という『嘘をつくことが許される日』も残りわずか。
あと二分で、嘘――彼らにとっては『本当のこと』を吐くことが出来なくなるから、声がかれようとも、喉が炎症を起こそうとも、しゃべることをやめない。さらに言えば、自分は普段言えないことが、大義名分を得て大声で叫べるし、相手が話すことも自分を騙すことが目的だとしても、顔がにやけるようなうれしいことだったりする。

日付が変わるまで、彼らは今日という日を楽しむのだ。

ああ、愛すべき四月バカ!!

街はそんな彼らをひそかに応援しています。




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■ナレーション

池袋くん(街の擬人化)

埼玉寄りの東京にある言わずと知れた、デュラの舞台。シンボルはサンシャインシティと腐女子に人気な乙女ロード。
よく標識やガードレールを壊す平和島くんには困りつつも、その強さにちょっぴり憧れている。一方、折原くんには今はライバルの新宿さんちに引っ越してしまったため複雑な想いを抱いている。さらに、たまに池袋に来ては黒幕となって、騒動を起こすから問題児とみなしてその行動は見逃さないようチェックしている。
それでも、高校時代から二人をよく知っているので、喧嘩によって多少は街が傷つくこともあるけど、おかげで退屈しない日々を送れて喜んでいる。(たまに疲れてお休みするけど。)
誰も気づいていない静→←臨がいつ結ばれるのかわくわくしてたり。

あと、妖しい日本刀を宿した少女やグループを率いるリーダーにあたる少年たちのこともやさしく見守っている。

都市伝説の首なしライダーもといデュラハンのことはとても気に入っていてずっといてほしいと思ってる。