■病み静×ビッチ臨



臨也は、自分の趣味である人間観察に貪欲で、性に対して奔放だった。
人間の本性が一番さらけ出されるから――手っ取り早く”人間”を理解するための手段として多くの人間とセックスをしてきたと臨也は言う。初体験を早々に終えた臨也は、あらゆるカテゴリーの人間たちと積極的に交わった。処女も年増も男も老人も。それこそ節操なく抱いて、抱かれて…人間の浅ましさや密かに隠れる純粋さなどセックスを通じて人間という生き物が簡単にわかるのが楽しかったらしい。もちろん、気持ちいいからってのもあるよ?何度目かわからない射精を終えて、臨也は俺の問いかけに息も絶え絶えに答えた。

繋がっていた体を離すと、ボタボタと俺の精液が溢れた。臨也はさすがに疲れたのか後処理もそっちのけで柔らかい枕に顔をうずめながら、文句を言っている。「シズちゃんの絶倫!体力バカ!セックス狂い!!」とか……。いや、セックス狂いは手前だろうと反論しようかと思ったが、今日はノミ蟲と会うのにある決意をしてきたから、ようやくその話ができるとセックスで熱くなった体を鎮める。

白い背中を見つめながら自分に芽生えた感情をもう一度冷静に考える。特別な感情は生まれた瞬間から肥大化して、もう俺の中に留めておくことは無理だった。さっきの話のように、セックスがただの人間観察の一環で、快楽を得るための手段でしかないとこいつは言うが、ではなぜ日頃から化け物呼ばわりする俺ともこうして寝たのか――。
殺し合っても、同じ回数分”アイの行為”であるセックスをするのは少しは俺と同じように特別な感情を持っているんじゃないかと、期待する。
できれば……、できれば、未だに続く後腐れない関係を持った人間たちとの糸を断ち切ってくれたらいいと願う。繋がるのは俺だけにしてほしい。その肌に触れるのも、甘い声が聞けるのも俺だけで……。そんな思いをずっと秘めてきて、とうとう今日こそは伝えようと決めていた。俺の特別がお前で、お前の特別が俺だと信じたかったのに―――。

「……ごめん、シズちゃん……」

つきあってほしい。セフレのような関係はもうやめて、できたらお互いを大切にする恋人同士になれたら、そんな俺の思いを告げると臨也はひどく困った顔をして、一言つぶやいただけだった。なぁ、なんでだよ。お前は俺のこと好きじゃないのか?ならなんで寝たんだよ。俺はお前の知りたい”人間”というカテゴリーには属さないはずだろう。セックス狂いの手前は大嫌いな俺にも抱かれるのは大したことじゃないのか。なんで俺とセックスした。謝られても納得なんかできなくて、でも責める言葉も出てこなかった。放心している俺に臨也が近づく。

「シズちゃん、君と寝たのもただの好奇心だったんだ。試しに一度だけって考えてたんだけど思った以上に体の相性がよくてずるずると続いちゃったけどね…。こういった関係は双方が淡白でなくてはならないんだよ。どっちかに恋愛感情が芽生えたら、――そこで関係は破綻するんだ。だから、俺たちのこの関係も今日で最後だよ」

残酷なことを告げられる。二人の未来を夢見てたのに、訪れたのは『終わり』だった。
頭が真っ白になって、いつもならキレていそうなのに固まったまま動けない。そんな俺にお構いなしに臨也は話し続ける。

「ねぇ最後だから、もう一度しようよ?本当、俺とシズちゃんって相性よかったのに残念だなぁ。……また殺し合うだけの関係に逆戻りだね」

ふわりと笑って、俺に口づけをする。『また殺し合うだけの関係に…』臨也の言葉が耳に残る。

「臨也……」

名前だけ呼んで、その後の言葉は心の中だけでつぶやいた。

……ごめん、ごめんな。

「なに?」

首をかしげて聞いてくる姿はやっぱりかわいいなとぼんやり考えた。そして、もう一度心の中で謝る。

……臨也、ごめん、ごめんな。

俺からもキスをして、ベッドに倒れて最後のセックスを開始する。

ごめん、ごめん……



きっと、殺し合いも次に会ったときが最後になるだろう。

俺はもうお前に手加減が出来そうにない。

だから、ごめんな。















……でも、














俺のものにならないお前が悪いんだよな?








螺旋階段



追っても追っても、お前は捕まらなかった。


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