唇にラブ・レター



「なー奥村くんって気になってる子とかおらんのー?」


祓魔塾の講義の終わり、珍しく勝呂や子猫丸とは一緒に帰らなかったのだろうか、志摩と燐は二人で教室に残っていた。
そこでいきなり志摩はいつも通りのニヤニヤした瞳で燐に問い掛けてきた。余りにも唐突で、内容が内容だっただけに、燐の顔は一気に赤くなった。


「ば…ッ、いきなりなんだよ!」
「そないに赤うならんでええやん!やっぱり杜山さんとか?」
「ち、ちっげーよ!しえみとはそんなんじゃ…!」
「…はっ!まさかの神木さんか!こりゃ盲点やったわー。大穴やな、大穴」
「だからなんでそーなる!ていうかなんで俺に好きな奴がいる前提なんだよ!」


えー、なんとなく。ふざけたようにへらりと笑う志摩にもはや返す言葉すらない燐は、なんだか悔しくなって縮こまる。
しえみや出雲に対してそういうベクトルの情を向けたことはない。燐自体、志摩に言われて初めてそういう目線で二人を見た、もはや眼中とかの次元ではない。
燐は元々女子との恋愛には縁のない人物である。本人が人より恋事情に疎いのも勿論のこと、本人の粗暴な性格が疵をつけている気がする。雪男と似た顔つきだ、容色は悪くないはずだが。
雪男や目の前にいる志摩と自分を比べると、なんだか自分が情けなくなってきたので、とりあえず志摩に八つ当たりをする。


「…ばーか!エロ魔人!滅びろ!」
「ええっ!?滅びろって、ひどない!?」
「うっせー!」


その言動が女子にモテない理由だと、燐は気づかない。


「だ、大体!志摩はどうなんだよ!」
「はあ、俺?」
「そーだよ、俺に散々聞いてきて『いない』なんてふざけた回答は認めな…」


勝ち誇った表情で志摩を見つめる燐の言葉が、静寂に消える。
顎を持ち上げられ、壁側に追いやられた燐の逃げ場をなくすように立ち塞がる志摩の腕、そして目の前に志摩の端正な顔立ちがあったからである。



「君




「…………、は」



………やって言ったら、どないする?」


低く、囁くような甘い声だった。上がる体温を振り切るように目の前の肢体を両手で押し退けようとするが、びくともしなかった。


「…な、なに、言って」
「聞こえへんかった?」


吐息混じりの押し殺した笑いが燐の鼓膜をくすぐる。


「…っ、冗談」
「へえ…"冗談"」


いやに志摩の"冗談"の言葉が耳につく。顔を逸らそうと首を横に向けようとするも、それは再び顎を掬い上げる手により叶わなかった。近づく顔、そして。


「……っんぅ!」


柔らかな唇に食らいつく、端正な顔立ちと獣の色を帯びた、志摩の瞳。


「…っは、あ…!」


予想以上に深く食らいつかれ、離された時には燐の息は上がっていた。また二人の唇が触れ合いそうな距離を保ったままだ。


「"冗談"」
「っあ、」
「そうかも、しれへんなあ?」


生温い吐息が唇を掠める。挑戦的な瞳が、その言葉とは裏腹の真摯さを纏っていて、燐の身体は僅かに跳ねた。
志摩はその後、何事もなかったかのように「じゃ、また明日な、奥村くん」と笑顔で去って行った。燐に強烈な印象をたたき付けて。


「…何なんだよ、それ…っ!」


ずるずるとその場にへたりこむ。普段と違う真摯な瞳が、頭から離れてくれなかった。



end

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初志摩燐!
志摩はエロ要員ですね紛れも無く!
京都組の口調は私も京都住みなんで比較的馴染み深いです。


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